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第一幕 王宮の前庭

遅くなりました。・・・すみません。

『おはよ。』


 重い瞼をゆっくりと開くと、オディールがいた。薄い金色のおかっぱ頭を少し横に傾けて、なにもない虚空の穴で私を見つめている。華奢な体には黒いカッコゥイーシャツに軍服チックな白いコートを前を思いっきりオープンにして羽織っている。ズボンはコートとお揃いだ。着物姿は時々見かけるが、普段は大体この恰好だ。結構おしゃれで私は好きだ。・・・って、なんで私はオディールのファッションチェックをしてるんだ。

 オディールから目をそらし、周りを見渡すと、あたり一面霧に包まれており足元には曇った空が広がっている。わけわからないと思うが、本当に足元に空があるのだ。そして、その空の上には睡蓮の花が浮いている。そう、ここは、


「オディールの神域、か・・・・・。」


 毎晩ここにきているが未だに慣れない。ここの美しいながらもどこか不気味で寒々しく、陰鬱な雰囲気に。


「つーかさ、私って全然寝てないよね。」


 だって寝た瞬間にオディールの神域で眼が覚めるし。


『大丈夫だよ。』


 なにがだよ。寝てないことか!?


『案外ね、ここにいる時間は短いんだよ。ほら、よくあるでしょ?夢では一生分過ごしたのに、目が覚めたら一時間もたってなかったとかね。それと同じようなもんなんだよ。ここでは五時間ぐらい過ごしてるように感じてるだろうけど、実際には十分ぐらいしかたってないんだよねぇ。』


 そんなもんか?


『そんなもんだよ。』

「・・・・さっきからナチュナルに心読んでるけど、やめてくんない?」

『え、だめ?』


 可愛く聞いてもだめなものはダメなんだッ!!


『でもさぁ、勝手に流れ込んできちゃうんだよねぇ・・・・。』

「シャットアウト!!!シャットアウト!!!」


 オディールだったらできるでしょ!オディールはYDKでしょ!?


『まぁ、頑張ってみるよ。』


 やる気ないだろ。


『あ、バレた?』


 この野郎!


『それよりさ、今夜はなんのお話が聞きたいの?あ、どっかの一族の物語とか?』

「あ、いいね。今日はじゃあ、色んな家の物語を教えてよ。」


 あ、オディールと私が言ってる物語っていうのは・・・うん、まぁ、むかし神様とか、人間ちっくなものとかとにかく色々なものが一緒に暮らしていた時代・・・・この世界ではその時代を神代と呼んでるんだけど、その神代のころに色々あってその一族が誕生しました、ていうなにか伝説的なもの。大体の一族はその神代に生きていた人(的なもの)の身体の一部とか、なにかしたとかで誕生している。


『それじゃあ、宿木の一族のお話でもしようかな。』



 * * * *



『宿木の一族の話はこれで終わり。』


 ヤドリギ家の話はなかなかにアレだったな・・・。なんだか、パラフィリアみを感じるというかなんというか・・・。あ、ヤドリギ家の伝説はこんな感じの話。

 あるところにいた人形師が、自らのつくったヤドリギづくりの美しい人形に恋をしてしまった。人形師は人形を愛するあまり、少しずつ衰弱していった。その様子を哀れに思った神が、人形に命をあたえ、人とした。その後、二人から生まれた子が初代ヤドリギ家当主なのだという。


「人形を愛する・・・・か。今代の当主もそうなのかな?」

『さぁね。でも、宿木の当主たちは代々自分のつくった人形と結婚してるね。』

「え、毎回毎回神さまに人形を人間にしてもらってるの?」

『いいや、違うよ。どんな手を使ってるのかは知らないけど、人形を人間にしてる。どうやら、一人につき一体しか人形を人間にすることはできないみたいだけど。』


 もはや人外の技というか・・・。


『そりゃあ人外だしね。人形を人間にするなんて・・・・どんな禁忌を使っているのやら。それにね、あいつら、人形だから身体が朽ちることがないでしょ?修理すればいいんだから。だからってね、天命に逆らい続けてるんだよ。あんな一族、さっさと全員死んで根絶やしになっちゃえばいいのに。』

「Oh・・・・!!!」

『他の神連中だって皆そう思ってるよ。』


 オディールパイセンたら過激!!!


「つーかそうなると、ヤドリギ家の人って、普通の人と付き合うのが大変そうだよね。だってさ、自分だけとりのこされることになるんでしょ?」

『どうせ、宿木の一族だったら相手を不老長寿にする術ぐらい開発するよ。』


 うわぁ・・・。


『じゃあ、次は薔薇の一族のお話ね。』



 * * * *



『薔薇の一族の話はこれで終わり。』


 ロードン家の話はドラマチックだったなぁッ!!!あ、ロゼ家の伝説を簡単にまとめるとこんな感じね。

 むかし、ローゼン歌劇場に住み着く怪人がいた。そして、その怪人はとある騎士とライバル関係にあった。その騎士は薔薇の騎士と呼ばれ、皆から慕われる美しい騎士だった。いつだって、出会えば闘う・・・そんな仲の二人だったが、いつのまにか互いに恋に落ちていた。やがて、互いに想いを伝えあい、恋人同士になっていた。二人が恋仲になってからしばらく。怪人は、薔薇の騎士が自分以外の誰かと恋仲になったとの噂を聞いた。怪人は信じていなかったが、ある日、薔薇の騎士が麗しい人間と仲睦まじく歩いている姿を見てしまった。その麗しい人間とは、実は精霊であり、薔薇の騎士に思い人がいると知りながらも、無理やり迫っていただけで薔薇の騎士は怪人以外を愛したわけではなかった。だが、そんなことを怪人が知る由もなく、怪人は怒り、嘆き、嫉妬した。そして、嫉妬に狂った怪人は薔薇の騎士をローゼン歌劇場にて殺そうとした。その後、怪人は見事に薔薇の騎士を討った。最初は喜びの声を上げていた怪人だったが、やがて我に返り、自らが行ったことに絶望し、深すぎる絶望に呑まれた怪人は自害した。その後、二人に同情した神が彼らの亡骸を一輪の薔薇にして、ローゼン歌劇場の舞台に植えた。その薔薇が大きくなり、花が咲くとその花から初代ロゼ・ロードンが誕生したらしい。


『笑っちゃうよね。勝手に疑って勝手に殺して勝手に死ぬなんて。それにさ、馬鹿なことに薔薇の騎士は不義なんて働いてないだなんて。』

「知ってたんだったらそう教えてあげればよかったじゃん。」

 

 見てきたみたいにオディールは話しているが、実際にオディールは見ている。神さまなので普通に神代のころから生きてるらしい。だから、私たちのご先祖さまのことも知っている。


『嫌だよ。』

「なんで?」

『僕が教えてあげる義理なんてないでしょ。それに、放っておいた方が面白そうだったしね。』


 うわぁ・・・。


「助けたのが同じ神だとは思えない・・・。」

『僕以外の神も嘲笑ってたよ。神は愛したもの以外への愛は皆無に等しいからね。』

「え?じゃあ、怪人か薔薇の騎士はどこかの神に愛されてたってこと?」

『僕が知ってる限りで、そんな神はいなかったけどねぇ。』

「じゃあ誰なわけ?怪人と薔薇の騎士に同情して救いの手を差し伸べたのは。」

『・・・・ふふふ。誰だろうねぇ。』


 誰だよ。オディールだったら知ってるでしょ。


「・・・・実は、救いの手を差し伸べたのは神以外の存在・・・だったり?」

『・・・・・・・ふふふ。』


 でも、神以外の慈悲深い存在って・・・?

 オディールの話を聞いてる限り、あんまり神さまは慈悲深くなさそうだけど、でも、神話系の書物には必ずレベルで神さまマジ慈悲深いぜエピソード載ってるし・・・。オディールが自己保身のために嘘いってるだけで、本当は慈悲深い神さまもそれなりにいるんじゃないかな?・・・・たぶんそうだな。


「というかさ、精霊っていっつもなんか悪いことやってない?」

『・・・・そうだね。やつらはそういう種族なんだよ。』

「今は・・・・もういないんだっけ?」

『そうだね。四大精霊を除いて、精霊はもうこの世界にはいないよ。いらない存在だったから、全て僕たちが滅ぼしたよ。』

「それは知ってる。だけどさ、なぜいらなかったのさ?」

『質問ばかりだね。まるで幼子みたいだ。・・・まぁいい。それはね、あいつらが悪で僕たちが正義だったから。悪は正義に滅ぼされるものでしょ?それに、人間に害ばっか与える存在は神にとって許しがたかったからね。』

「・・・・なぜ、四大精霊は殺さなかったの?」

『・・・四大精霊は強かったからね。殺したくても殺せなかったんだよ。でも、安心して。あいつらは絶対に君たちの世界に出てこられないように封印してあるから。』

「どこに封印してあるの?」

『ええ~、それはいえないなぁ。あ、でも僕の頬に接吻してくれたら、ちょっと教えてあげても・・・いいんだよ?』

「よし、わかった。明日してやろう。だから教えて!」

『ふふふ。なかったことにしないでよね?じゃあ、約束。』

「うんうん、約束。」

『えっとねぇ、三大貴族と王家が持ってるもののなかに封印されてるよ。』

「へぇー。」


 いつも物語に出てきては悪事を働く『精霊』という、常に慈愛に満ち溢れた存在として書かれる神とは正反対の存在。人間の生贄を求めてくることも多々あったという。その『精霊』は神代の末期に神に滅ぼされ、その姿を見たことがある者は人間ではもう誰もいない。


『さ、次はなんのお話が聞きたい?』


 あ、思いっきり話ぶったぎられた。


「じゃあ、フラン・・・じゃなくて、ヒガンバナに滅ぼされた、アヤメの王族の伝説。」


 あそこも公表なしだったはずだし。フランのこと、知りたい・・・。ぐげげげげ・・・。


『あー、あそこね。うんうん、今思い出すからね。ちょっと待って。』


 おいおい・・・。



 * * * *



『これで菖蒲の一族のお話は終わり。』


 うーん、なんというか・・・。あ、アヤメ家の話を簡単にまとめるとこうね。

 むかし、アヤメ・・・通称ミカエルという天使がいた。ミカエルは二代目天使長だった。だが、あるときうっかり剣を自らの翼にさしてしまった。バランスを崩したミカエルは翼に剣を刺したまま、天上から堕ちてしまった。しかも、翼に刺さった剣が地面に突き刺さってしまった。動けなくなったミカエルはそのまま朽ちて、魂から肉体まで全てが剣に吸収された。その剣がいつしか人の形をとり、再びアヤメの名を名乗るようになったのだという。


「・・・その天使のこと、神さまはなんで助けてあげないのさ?」

『べつに、いらなかったし。』

「そういうと思ったわ。」


 うん。


『それに、あの天使長がうっかりなんてことするとは思えないんだよねぇ。どうせ、どっかの神が嫌がらせでもしたんでしょ。・・・あれ?僕だっけな?』


 オディールってさ、なかなかに頭イッちゃってるんだと思うんだよね。色んな意味で。無邪気だけど、残酷だし、なんでも知ってるけど、なんというか・・・うん。呆けが酷いようだし。


『まぁ、いっか。』


 いいんかーい!!委員会でいいんかい?・・・なんでもないっす。


『面白いね。』


 真顔で言われても嬉しくない。


『・・・・ああ、思い出したよ。天使長に嫌がらせをしたのは白鳥って呼ばれてる神だよ。そうそう、あの天使は主にあれに使えてたんだった。たしか、自分よりも天使長が人間に慕われるようになってきて、目障りになって捨てたんだよ。・・・・そうだ、あれには絶対に近づいちゃだめだよ。いい子ちゃんぶってるけど、本当に醜くて最低で外道な神だから。』


 ウワー。スンゴクキラッテルー!


『あ、そうだ。そろそろ戻る?ここに来てから結構時間たってるけど。』


 え、マジで?えー・・・でもまだちょっと帰りたくないなー・・・・。


『明日もどうせ授業でしょ?』

「そうそう。本当に面倒・・・。」

『行きたくないなー、ってならないの?』

「そりゃなるよ!」


 日曜の夜にサ〇エさんの音楽が流れてきたときの絶望感ね!


『・・・ふーん。やめちゃえば?』

「そうもいかないんですよ!」


 花園学園に通うのはこの世界での決まりだしね!!


『世界の決まり、ね・・・。じゃあ、他の世界にいっちゃえばいいんじゃない?』

「元の世界みたいな?」

『ううん。もっと自由でなんでも好きなことができる世界。そう・・・例えば、この世界みたいな。なににも縛られずに自由に生きることができる世界・・・暮らしてみたい?』

「暮らしてみたい!」


 ここで暮らせるんだったら楽しいだろうなぁ・・・。すこーし暗い感じがするけど。


『・・・うんうん。いいこだね。・・・・こちらの世界で暮らせるように準備を整えておくね。』

「やった!」

『・・・喜んでくれるようだったら何よりだよ。』


 そりゃ喜ぶよ。でも、最終的には元の世界に戻してね?私が、前まで暮らしてた世界。


『こちらで暮らすこと、構わないんだよね?』

「うん。」

『約束だよ。』

「・・・・そうだね。」

『うん。や・く・そ・く。』

「はいはい、約束。」


 しつこいな。


『・・・その言葉、忘れないでね。』


 うん、忘れない忘れない。


『じゃ、そろそろ本格的に寝たら?』


 本格的に寝るって・・・・まぁ、私もそれ以外にどう表していいかわかんないけど。


「じゃあ、二回目だけど・・・・おやすみ。」

『うん。おやすみ。』





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