第6節:一狩り行こうぜ!PART1
今回のクエストの内容はバーンボアの狩猟となっているが、ただやたらと狩っていいわけではない。
もし狩りつくしてしまえば、その場の生態系が狂ってしまうからだ。
この件の狩りにおいては、30匹と上限を決めてある。
ていうか、30匹でもイノシシ型の魔物だと結構多い気がするがな。
言い忘れていたが、俺の現在の住居は、ワイズたちのギルドハウスに住み込みと いうことになっている。
以前は、鍛冶屋の閉店後もおやっさんの鍛冶屋だった建物をねぐらにしていた。
ともあれ、あんまり長居はできなかっただろうと思うので、とりあえず新しい住居を確保できて一安心だ。
「皆の者、集まれい!クエストの準備はできたじゃろうな?では行くぞ」
この冒険ギルドのギルド長はワイズだ。
転生する前は、冒険パーティには勇者はいるもんだと思っていたが。
ふと疑問にあったことがあったので、ギルド長の大賢者ワイズに質問した。
「30匹も狩猟するってことは、それらを回収する袋とかはないのか?」
「ふむ、こういう時にはこういう定番アイテムってものがあるのじゃぞ?」
バァ~ン、とその定番アイテム(?)と思われる革製と思われるカバンを出してきた。
「これは、マジックポケットという代物でな、バッグ内に亜空間が広がっていて、たくさん物が入るようになっておる。ほれ?お主の過去の記憶をちょっとのぞかせてもらったが、日本という場所のマンガーっていう分類の書物に書いてある〇次元ポ〇ットみたいなものじゃと思えばよい」
だ・か・ら、人のプライバシーを勝手に覗くな!
ただ、記憶を覗くと言ったので“心眼”とは違うのかな?
だが、〇次元ポ〇ットとはわかりやすい例えではある。
「うん、だいたいどういうものかはわかった」
「では皆の者、出陣じゃ」
スターツの町の郊外が今回の戦場とのことである。
郊外にも畑があり、この周辺でバーンボアが多数目撃されたので、この周辺のバーンボアを駆除してほしいとの依頼だ。
俺たちは、郊外そばのストーンスミスの森を散策している。
バーンボアは、この森林の茂みに隠れていることが多いとのこと。
「ん、ガサガサ、と音がしたぞ?」
戦士ゴルドンは言う。
「さ~て、バッチ来~い」
ゴルドンは真性のマゾヒストである。
見た目は豪傑、頭脳はドMというわけだ。
なので、彼は戦闘開始直後、小手調べ程度にあえてダメージを受けることもある。
これがタンクとして機能するのだからギルドにとっては重宝ものだ。
ちなみに、ギルドメンバーによると女騎士・女戦士や女盗賊や人型女性型の魔物(美人)が出ると我先にと攻撃を受けに行くらしい。
「ブ、ブッヒィィィ」
茂みから、バーンボアが飛び出した。
ゴルドンは、盾を前に構え、防御のような構えをとっている。
バーンボアは猪突猛進に突っ込んでくるが、盾にぶつかる瞬間ゴルドンは合気道の様に半身で受け流す。
やっぱりこの世界盾スキルのようなものでもあるのだろうか?
「プゴ、プゴゴ・・・・・」
勢いあまって転倒したバーンボアは、体勢を立て直し、バーンボアの口内から火が溢れ、
「ゴァァァァァァァァァァァァ」
「うぉ?ヤベ・・・」
火を噴いてきたのでゴルドンは緊急で防御の姿勢をとる。
が、その火は勢いを途中で落とし、地面に吸い込まれてしまう。
「おっせーぞ、漆黒の闇ィ」
「ふん、この程度・・・・・、蚊も殺せぬわ!」
通称漆黒の闇さんは今はローブ姿ではなく、暗黒騎士らしく、フルアーマーの黒い鎧を着ている。
顔も隠れており、アーマーのデザインが特撮のアンチヒーローを彷彿とさせる、やや邪悪なデザインだ。
念のために言っておくが、中に〇元〇郎さんは入っていない。
「プ、プギィィィ!」
バーンボアはなぜかその場で動けず、いきんでいる。
「我が“影縛り”の前からは決して逃れられぬ」
出た!影縛り!
あると思ったんだよなぁ、こういうチート技。
クロミの足元から影が伸びて、その先にバーンボアがいる。
バーンボアは動けなくなっている。
暗黒騎士は魔力の元となるのが魔粒子に対して邪気と呼ばれる暗黒属性の特殊粒子を操る。
邪気を操るのには高度な技術が必要で、扱いを誤ると邪気に飲み込まれて暴走すると言われている。
なのでクロミの鎧は戦闘時のみの起動にとどめてある。
「とどめぇえええええええええええええええ」
ゴルドンは手にもつ大剣を振り下ろす。
ズバッとバーンボアの急所を切り裂き、血を噴き出してバーンボアはその場で力尽きる。
「1匹目ゲットォおおおおおおおお!」
ゴルドンは雄たけびを上げる。
そのどさくさに紛れて、俺はゴーレムアーマーを身にまとって準備していた。
「「「ブヒィ?ブッヒィイイイイイイイイイイイイイ!」」」
森の樹木や茂みに隠れていたバーンボアの大群が姿を現す。
2、4、6、・・・・・・・・・・・20匹!?
アーマー装着しといてよかった・・・・・
「みなさん、ここは俺に任せてください。くらえ!」
俺は肩に装着されている砲門から氷属性のビームをバーンボアの群れに向けて発射する。
「ぷぎゃあああああ、・・・・あ・・・・・」
バーンボアは炎属性だ。
よって、反対属性の氷属性の技には弱い。
バーンボアの大群の5割くらいは動きが著しく鈍ったり、氷漬けになったりしていた。
「仕上げと行きますか、メイルカット!」
ドバッとアーマーの外殻がパージされる。
一瞬、目の部分のアイシールドが不気味にギラリと光り、フォルムチェンが完了する。
残り半数・・・、10匹くらいだろうか、昨日行った予行練習通り、3倍速での高速移動を開始する。
時速90kmくらいで最大時速50kmほどのバーンボアの残党を追撃する。
手には高速錬成した短剣を握っている。
打撃系の武器だと、打撲によって肉の状態が悪化してしまうので、急所を狙い、できるだけ仕留めた状態をきれいにかつ血抜きも同時に行ってしまおうという作戦だ。
1匹、2匹、・・・・・7匹・・・・・、
「フガッ・・・」
1匹のバーンボアが口内に火を蓄えている。
このままでは火が吹かれてしまう
一瞬だけでも、と思い俺はアーマーの設定を4倍速にして、目の前のバーンボアに突撃する。
スパアァン、と交わり際にバーンボアを切り裂いた。
「ふぅ、何とか火を吐かれずに済んだ・・・・・やれやれだ」
一瞬だけならスピードアップの閾値を上げても問題はないようだ。
このへんの訓練は後ほども取り組んでみよう。
再び3倍速に戻し、残りの数匹を仕留めた。
「はぁはぁ・・・・・何とか仕留めました。ちょっと休憩しますね」
アーマーのパージした部分を再び引き寄せ、パージ状態からセーフティモードに戻る。
「こんな時にワイズは何してるんです?」
「彼女なら馬車の中にいるわよぉん」
狩りの現場まで馬車は、俺のミノタウロス型ゴーレムで引っ張ってきていた。
御者と馬をクエスト毎で雇うのも結構金額が高いから、御者と馬の代わりを俺が担当していたのだ。
馬車の中をのぞくと、ワイズが肩肘をつき横になっていた。
彼女の目の前には水晶が置かれている。
水晶には狩りの現場のリアルタイムの映像が映っている。
「お主かぁ、ポリポリ・・・なかなか、ポリポリ、やるのう、ごっくん」
日本でいうスナック菓子か煎餅かと思われる菓子をつまみながらワイズはこちらを見る。
おい、リーダー、仕事しろ!
「まだ、目標まで10匹弱残っておろうに?気を抜くでない」
「その態度で言える口か!?」
「お?またまた敵襲だぞ?ふわぁ・・・ここでわしが大暴れしたら森が消滅するからのう、しょうがないなぁ・・・」
バーンボアの群れがもう一隊やってきていた。
ワイズはあくびをしながら・・・・・・・何もしない。
「おい!ワイズ!お前も手伝えよ!」
「ま、そう慌てるでない」
この怠賢者が!
そう思っていた矢先、
「ブゲェ!」
ドカン!と突然バーンボアの一体が勢いあまって転倒し、樹木に激突してそのまま気絶していた。
また、他の個体のバーンボアは樹木から落ちてきた木の実を顔面に受けて、視界が遮られ、別個体のバーンボアと正面衝突していた。
他でも、あちこちで脚が樹木の隙間に挟まって動けなくなっているバーンボアもいる。
「運操作じゃよ、向こうが勝手に嵌められに来たようなもんじゃよ、クックック・・・・・」
「めっちゃ悪いになってるよお前・・・・・」
なんてえげつない運操作の使い方をするんだ、この女は?
そうこうしているうちに、その場にいたバーンボアは全員行動不能になっていた。
「よし、後は必要な分だけお主らでとどめを刺して、回収!その後に撤退せよ」
俺とレストとゴルドンとクロミの4人でちょうど30匹になるよう帳尻を合わせる形で残り必要な分のバーンボアを仕留めた。
「さ、撤退じゃ撤退じゃ!」
ワイズの号令により、俺たちは帰還準備に入る。
「プ、プヒィィィ・・・・・」
ウリ坊?
バーンボアの子供がおどおどとした様子で鳴いている。
その直後、背後から妙な殺気を感じ取ったので振り向く、
「!?」
何者かが、がさりと音を立て姿を現した。