第4節:チュートリアルPART1
「次はわしの所属するギルドメンバーを紹介するからついてくるが良い。以前にお主が会ったことのある人物もいるから楽しみにしているが良いぞ」
「会ったことのある人物?」
「まあ、その前に、と、ちょっと小腹が空いての。飯にしないか?」
「そうだな」
「食べながら、遊び人の能力のチュートリアルでもするとしよう」
「ああ」
俺は淡々とうなずくだけだが、俺にとって遊び人のスキルについては未知数なので、こういった肝心なことは早めに聞いておきたかった。
後悔先に立たずという日本のことわざもあるしな。
俺たちは職業酒場を出ると、とりあえず飲食店を探すことに。
「俺、ここら辺のパスタ大体攻略済みで、うまい店知ってるから紹介するよ」
「それは楽しみじゃな!さ~てはお主、女子をナンパするための口実に、パスタ屋調べ歩いたな?」
「いえいえ~、そんなことないっすよ~。ただのパスタ好きなもんで」
「クックック・・・、甘いなお主、わしを誰だと思っておる?心眼でお主の心も読めるのじゃぞ?」
くそっ、飛んだチート使いだぜ、この女!
もっと別のことに使えってんだ!
ま、確かに当たってはいる。
日本でも、なぜか若い女性はパスタなどの洋食やスイーツには目がなかったからな。
この世界でも、パスタのことパスタっていうのだな。
賢者ワイズは俺をからかい、けたけたと笑っている。
俺たちはパスタ屋の店内で食事をしている。
内装はアンティーク調の子洒落ている店で、トマトソースや香辛料の香りが心地良い。
「ずびー、ずばばー、んじゃ、くちゃくちゃ、早速じゃが、遊び人のスキル、運操作と昼寝について説明しよう、それにしてもこのパスタうまし!ずびーずばー」
「よろしくお願いします」
それにしても食い方汚いな、この女賢者。
今女賢者ワイズの口の周りは漆黒の闇のように黒い。
彼女が食べているパスタは、クラーケンのイカ墨スパゲッティだからだ。
うん、あれだ、日本でひと昔にブームになったV系バンドのメイクみたいになってる。
ワイズの場合、髪の毛が青いからそれが余計にハマってて、正直俺のツボである。
今の俺は指導を受ける側なので、食事をしながら笑いをこらえているという状況だ。
笑ってはいけないパスタ屋さん状態というわけだ。
「さてはお主、今わしを笑ったな?」
そこで心眼使うな!
あと某複眼英雄の地獄堕ちした人みたいなことは言わんでいい。
言い忘れていたが、俺が食べているパスタは、超王道にスパゲッティボロネーゼだ。
いいよな、王道。
「まぁ、いい、まずは運操作についてじゃ。お主最近よく躓くということじゃが、先ほどわしがスキルの制御ができていないからだと言ったのを覚えておるな?」
「おう、何もないと思って歩いていたところに、まるでそこに石ころが突然出てきたかのように躓くんだ」
「スキルの暴走じゃな。これからわしが教えること、んちゃ、くっちゃ、は、その特性を逆手に取った戦術じゃ!」
「・・・というと・・・」
「まぁ、見とれい、ずびー」
ワイズが視線をある女性店員に移す。
その女性店員は、挙動からしてドジっ娘属性である。
女性店員は腕をプルプルさせながらお盆にパスタを2皿乗せておどおどと歩く。
「きゃっ」
がしゃーん、と転倒してパスタを落とし皿を割ってしまった。
あ~あ。
「おい、マコトよ、このドジっ娘ウェイトレスの足元を見るのじゃ!」
一体何のことやら・・・。
「あ!?」
足元に石ころが!
ここは店内だぞ。
ワイズは続けてこう言う。
「こんなこともできるぞ・・・」
店内は一時騒然であり、その女店員さんはルックスは可愛いので、客の野郎どもが我も我もと助けに行く。
「お、おい、大丈夫、君?」
「心配いらないよ、ぐへへ」
おい、2人目!
お前はダメだ、下心丸見えだ!
この世界でもドジっ娘属性の女の子は需要があるようだ、要チェックや!
「お主よ、もう一回ウェイトレスの足元を見るのじゃ!」
ワイズの指示通り、女店員さんの足元、躓いたと思られる位置を確認する。
あれ?
さっき、石が転がっていた場所に何もない・・・・・。
こ・・・これは、一体!?
「そうじゃ、これが運操作を極めし者の境地!本来存在しなかったものを出現させ、その後証拠隠滅もできる!これがスキル“運操作”じゃ!」
声大きいぞ!
何それ、何のチート能力だそれ?
「ちなみに、石じゃないものも出現させることができる。ただ、あんまり不自然だとトラブルの元じゃからな」
「す、すいませ~ん」
女店員さんは半泣きである。
「クルァ!また貴様か!一体何枚の皿割ったら気が済むんだ!もう来なくていい!出てけぇ!」
ドジっ娘女店員さんは店長らしき男にクビを宣告されてしまった。
俺は、ワイズを睨み付けてツッコミを入れる。
「おい?いいのか?あんなことして!何か俺ら相当大変なことしてるぞ、これ」
「あの娘には悪いがわしの、くっちゃ、くっちゃ、未来眼によると、どのみち、ちゅるちゅる、彼女がクビになるのも時間の問題だったのじゃ、ずびーずばー、観念せい」
「クッ」
このずびーずばーのせいで折角の解説の緊張感が台無しである。
口を拭け!
ワイズは、食事を終えたので、フォークをかちゃりと皿に置く。
「次はじゃ、昼寝についてじゃ、今魔法“カレント・ウィンドウ”でわしのHPとMPを表示する。我、今を刻み出せ、カレント・ウィンドウ!」
ブゥン、と機械のような音とともに、空中ではあるが俺とワイズに見えるような位置に、ワイズの現在の簡易的なステータスが電光掲示の様に表示される。
HP:230/550
MP:332/1070
状態:普通
HP550にMP1070!?
ガキ臭い見た目に反して、クッソ強いな、さすがは賢者様ですわ!
「とまぁ、現在のわしは少し疲れておる。お主に合う前の午前中、小遣い稼ぎにクエスト請け負ったもんじゃからな。ぷわぁあああ・・・ではちょっとお休み・・・」
バタンと、ワイズはその場に突っ伏した
先ほどから口を拭いていないから、黒い唇のキスマークが付くぞこのテーブル。
「Z・・・・・ZZZ・・・・・」
完全に寝ちまったか、の〇太君か?
俺は、まだ皿の上にパスタが残っていたので、彼女が寝ている間に平らげた。
ごちそうさまでした!
―――15分後。
「ん、むにゃ・・・、くぁあああああ。良く寝たぁ、では・・・もう一回カレント・ウィンドウを唱えるから、わしの能力値を見るのじゃ」
先ほどの俺の予想通り、テーブルにイカ墨がべっちゃりとこびりついていた。
ワイズが呪文詠唱を終え、ステータスが表示される。
HP:550/550
MP:1070/1070
状態:普通
「おお、たった15分で全回復してるのか」
「クックック、見てのとおりじゃ。先ほどわしのステータス異常がなかったから、補足説明するとじゃな、毒などの状態異常も回復することができるぞい。わしみたく極めたらの話じゃが」
懇切丁寧な説明のところ申し訳ないが、いい加減口を拭かないので、俺が拭いてやることにした。
「んぐ」
「口を拭け、折角の大賢者様の肩書が泣くぞ」
ふきふきゴシゴシとワイズの桜色の唇を擦る。
柔らかいじゃねえか・・・。
見た目は美少女なので、こういうシチュエーションは一応興奮する。
「んぐぅ、申し訳ないのう、マコトよ・・・」
ぶっちゃげ、このまましばらくこの空気感を味わいたい。
が、
「お客様!お楽しみのところ申し訳ございませんが、次のお客様が待ちくたびれておりますのでお席をそろそろ譲っていただけないでしょうか?」
強制退去を命じられた。