第1節:鉱石採掘クエスト
鍛冶屋は忙しい。
何でかっていうと、安い武器や防具に関してはそこら辺の石や岩石を加工して錬金術にかければあっという間に作成ができるのであるが、そこそこの性能~高級品クラスとなるとそれらの材料となる鉱物が必要になることがある。
あいにくではあるが俺の所属している鍛冶屋では鉱物採掘の専門家は雇っていないとのことで、自分たち鍛冶職人が自ら材料の調達に出向くわけだ。
あれから半年ほどたった。
俺は、錬金術師としても鍛冶職人としても、適性があったのかそれなりに板についてきていた。
今日は、店は休業で鍛冶屋のメンバーとさすがに鍛冶屋だけでは危険なので臨時の冒険者ギルドのメンバーを加えて鉱物採掘に向かっていた。
鍛冶屋は俺とおやっさん(クリフト)を含め10人、臨時の冒険者ギルドのメンバーは2人である。冒険者ギルドの2人は、前衛を務める戦士のゴルドン、回復担当に女僧のレストという名である。ゴルドンはいわゆるガチムチで屈強な大男で、レストは美人さんである。
「君ぃ、マコト君っていうのォ?今からあっちでお姉さんといけない遊びし、な、い?」
「え、ええええええ!?」
女僧はくねくねとエロい動きで俺を誘惑してくる。ぐへへ・・・正直、いい女だとは思うので、そのまま“いけない遊び”でもしたい気分・・・とはいかず、
「おい、レストちゃんよぉ、坊主を誘惑してる場合じゃないぞ!この辺は魔物の巣窟だ!」
「ちぇ~」
女僧はおやっさんに注意を受けてふてくされる。
このレストという女僧侶は町では“男喰らい”という二つ名で有名な破戒僧なのである。
マンイーターってあの某竜冒険ものに出てくるキモい花みたいなやつを連想しちゃうんだけど、それはさておき、魔物に用心するに越したことはない。
俺たちは平原を超えて、山の入り口を入ったところである。しばらく歩くと、奥からぐちゅぐちゅとキモい音が聞こえてきた。俺は前衛の戦士ゴルドンに促す。
「魔物っすよ、準備をお願いします!」
「おうよ!我らを守れ、リフレクション!」
結構ノリノリなのだが、メイン盾ゴルドン(魔法も使える)は、防御結界魔法を起動させ、自身は盾を前方に構えた。
見えにくいがやや半透明の膜のような壁が彼の前方に展開された。
俺も、この場で地面に両手をつき、呪文を唱える、
「地を組成する物相当、わが身に纏いしその装甲、錬成!」
そこらへんの岩石・土砂などが固まり簡易的な鎧となり俺の体を頭ごと包み込む。
外見はゴーレムそのものでかなりゴツい。着ぐるみのような状態ではあるが、中の俺は快適である。
なにせ換気機能も織り込み済みの術式だからだ!
「さあ、一丁やったるか?」
『イエス、マイロード』
このゴーレムアーマーには、人工知能術式も組み込まれており戦術のナビゲーションや状況報告もしてくれるようにしてある。“イエス、マイロード”という返事は、まあ、俺の趣味で組み込んだものだ。
俺たちは用意周到に、石橋を叩いて渡るようにゆっくりと前進し、通路を通行する。
「キッシャアアアアア―――――!」
何かキモい全身触手だらけの魔物が現れた。口のような部分からは涎が垂れている。
某最後の幻想に出てくる〇ル〇ルグレートみたいなやつだ。おうぇえええ。
しかも奴はやっぱりといっていいのかいきなり先制攻撃を仕掛けてきた。
「毒ガスを口から吐いたぞ、気を付け―――、クセェ・・・」
がく、と戦士ゴルドンは気絶した。メイン盾がぁぁぁぁぁぁぁ!
防御障壁魔法は貫通するらしい、他のギルドメンバーもバタバタと気絶する。
「何なんだこのブレスは!?」
『この魔物が吐イた成分の大まカな解析完了・・・・・効能・毒・気絶・麻痺・・・・・お気ヲ付けテ、マスター』
機械的な声はそう告げる。
毒と気絶ってことは全滅もありうるってことか・・・。
俺はガスマスク機能も兼ねているこのゴーレムアーマーに守られているため、無事ではあったが、周りがこの状況のため俺がズシンズシンと突撃することになった。
ゴーレム着てると遅ぇ・・・。このまま全滅してたまるか!俺は〇ル〇ルグレートみたいなやつに近づきパンチのラッシュを浴びせる。
「オラオラオラオラオラァ!」
倒すまでは時間がかかり過ぎて面倒くさいから殺すまではしなくていい、こいつ中々硬い。
「ぐじゅあああ、ぐじゅああああ―――――、グヘェ・・・・・」
どかぁぁぁん、と〇ル〇ルグレートみたいなやつは横に倒れる。どうやら気絶したようだ。
でも気絶したから、早くみんなを起こしてこの場を切り抜けるとしよう。
俺は着用しているゴーレムを解除するため、崩れ落ちさせた。
ゲテモノ殴ったからすぐにでもこのゴーレムを脱ぎたかった。
俺は後衛のレストが無事なのを確認し、彼女にメンバーに状態異常治癒魔法をかけてもらった。
「マコト君なかなかやるわねぇ?もしよければうちのギルド来ない?」
「俺は鍛冶屋の本業があるのでいいですよ」
「ちぇ~」
別に俺は冒険者ギルドに入って戦いに身を投じたいわけではないので、丁重にお断りした。
レ ストは口を3の字にして不貞腐れていた。
「みなさん、奴が起きないうちに早くこの場を通り抜けましょう!急いで!」
俺は、メンバーを促し、〇ル〇ルグレートみたいなやつの横を通り抜け、メンバーも全員奴を追い越しこの場を後にした。
10分ほど俺らは歩いていたが、後ろに何者かがいる気配を俺は感じていたので、後ろを振り向くと、奴が・・・・・
「うじゅうじゅるじゅる・・・・」
やべぇ、早速起床なさっていた!
しかし、奴の目はこちらを見てウルウルしているしているように見える。
「おい!マコトさんよぉ!こいつ仲、お前を気に入って仲間に加えてほしいんじゃないか?連れて行ったらどうだ!」
戦士ゴルドンは他人ごとのように笑いながら言う。
おいおい、マジか・・・。こんなゲテモノみたいな魔物激しく欲しくないんだが。
「ガッハッハ!坊主!アンタ魔物使い(ビーストトレーナー)の才能もあるとはなぁ!まだまだ新米なのに恐れ入ったぜ!」
何か褒められた。
「マコト君、そいつ連れて行ってみたらぁ?きっと貴重な戦力になるわよぉん」
冒険者ギルド勢共々奴を仲間にすることを勧めている。
まぁ、敵に回さなければ別にいいとも思っていたので、
「しゃーなしっすね、今から俺の使役獣だ!よろしく頼むぜ!」
「うじゅるじゅる!」
俺は渋々、奴を連れていくことにした。心なしか、奴はうれしそうな素振りを見せる。
まぁ、何だかな?こういう時ニックネームでも付けとくもんかな。〇ケ〇ンや某竜冒険魔物達みたいな感じで。
「お前のニックネームは、キモイハナだ!」
「うじゅじゅ~♪」
結構失礼なニックネームなのに奴は喜んでいた。まぁ飼い主から名前をもらうこと自体、使役される側の魔物にとってはうれしいことかもしれんし、キモイという言葉の意味は分からなそうだし、まあ、いいか。
キモイハナは、でかいし、見た目にも鬱陶しいところはあったので、俺はとりあえずカバンからカプセル剤をジャガイモ大にしたようなものを取り出し、キモイハナに投げつける。
カプセルはひとりでにカパッと二つに割れ、キモイハナはカプセル内に吸い込まれてカプセルは元の形に修復した。カプセル内にはキモイハナがミニチュアになって入っていた。
これは俺が最近開発した“ビーストカプセル”っていうアイテムで、もちろんポ〇モ〇の〇ン〇ター〇ールからインスピレーションを受けて開発したものだ。
カプセル内は亜空間魔法が施されていて魔物を生きたまま小さくして収納することができる。
亜空間の中は魔物がゆったりくつろげるよう広めに設定してある。
外から見える魔物のミニチュアは亜空間内にある撮像魔法術式によって投影されている映像に過ぎない。
よって魔物には負担はかからず、かのキモイハナさんもリラックスしている。
中身の部屋の模様替えも魔法でワンタッチで切替できるよう設計してある。
用途は今俺がやって見せたように、使役する魔物の休憩スペース用にすることもできれば、狩猟で生け捕りにした動植物や魔物を保管のために入れることも可能である、俺渾身の逸品だ。
ちなみにビーストカプセルは鍛冶屋でも販売しており、亜種の道具や装備品を保管するタイプも開発中だ。
俺はキモイハナの入ったビーストカプセルをカバンにしまった。
「おう!みんな!意中の鉱物が採れるとこまでまだまだだぜ!気ぃ引き締めろ」
鍛冶屋の若頭の男のマニューさんはそう言い、メンバーを激励した。
さらに10キロほど俺たちは山の中を進んでいった。
早朝からこの旅は始まったのだが、お腹が空いてくるメンバーが続出した。かの俺も空腹でお腹と背中がくっつきそうな気分となっている。
そのことをおやっさにに掛け合ってみることにした
「おやっさん、俺らものすごい腹減ってるんですけど、今比較的安全そうな場所にいると思うので、ここらで休憩にでもしませんかね?」
「う~んそうだなぁ、腹は減っては何とかっていうし、お前らぁ!飯にするぞぉ!」
各々、食事のため持ち出してきた缶詰を開ける。
このファンタジー世界でも缶詰あるんだなぁ。
中身は、スカイスネークの佃煮(?)のようなものだ。
正直言うと日本にいたときの缶詰に比べるとあんまりうまくないんだよなぁこれ?
佃煮なのに身が少しパサパサしている。
これはある意味材料が悪いというより、調理方法に問題があるのかとか感じているが、贅沢は言ってられない。
町に戻れば食の大国日本育ちの俺でもうまいと思える食べ物もあった。
グルメは町に戻るまでの辛抱だ。
また、カ〇リーメ〇ト的なものもこの世界にはもちろんなく、もしあったとしたら「うますぎる!」とか「もっと喰わせろ!」とか言いながら食べてたかもしれない。
他のメンバーも同じスカイスネークの缶詰だ。
あんまりうまそうな表情はしていない。
今度、料理スキルでも習得してみんなにうまい弁当でも作ってみるかな?
そんなことを考えつつ各々は食事を終え、缶詰の残骸を麻袋に入れ、それは一番下っ端の俺が持ち運ぶことになった。
ポイ捨て、ダメ、絶対。
俺たちは無事食事が終わったので、また歩き出す。
今度は空で何か物音がする。
ぴぎゃああとか、風を切るようなブワッて音が聞こえる。
俺たちは上を見上げると、七つの球を集めると出てきそうなドラゴンが空中を漂って荒ぶっていた!
ヤバいんじゃないか?これ。
そうこう考えていたら、よりにもよって俺と目が合ってしまい、
「ぴぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ」
こっちに向かってきた!
「逃げますよ、逃げます!ここは一時戦略的撤退っす!みなさん!」
俺はメンバー全員に避難を仰いだ。
俺たちは岩陰に隠れたが、ドラゴンは構わず口から火・・・ではなく、ぺっと粘液を岩に吐きつけ、また飛翔した。
するとその粘液を受けた岩はジュワワ、と煙を出しながらみるみる溶け出し、岩の壁は無くなってしまった。ひぇぇぇぇ!殺される!
これでは俺のゴーレムアーマーじゃ、全く歯が立たない。
いや・・・方法は・・・一か八かだが試してみる価値はある!
俺はカバンからキモイハナの入ったビーストカプセルを取り出し、
「いけ!キモイハナ!君に決めた!」
こいつしかいないがな。
ビーストカプセルを俺とドラゴンの間くらいの位置の地面に放り投げ、キモイハナをカプセルから解放した。
「うじゅああああああ!」
「ぴぎゃあああああああああああああ」
対峙する2匹が咆哮を上げる。
ドラゴンの方は先ほどの岩をも溶かす粘液をキモイハナに吐きつけた。
べちゃ、と。
ところが、キモイハナの体は溶ける様子もなく、一方のキモイハナの方は口からブレスを吐きつける。
やはり毒使いには毒は効かないのか?
こちらまでブレスが届いたのか、先ほどのものとは異なり、甘い匂いがする。
ん?
なんだか少し眠くなってきた。
さて、ブレスをモロ直撃したドラゴンの方はというと、空中でふらふらとしだし、落下し岩に激突した。ドラゴンはその後ゴロンと顔を見せると、
「ZZZ・・・ZZ・・・」
鼻提灯を膨らませて目をつむり気持ちよさそうに寝ていた。どうやらこの甘いにおいのブレスは催眠効果があるようだ。
すると、キモイハナはその寝ているドラゴンにゆっくりと接近し、大きな口を開け、がぽり、と一口で丸飲みにしてしまった。寝込みを襲うとか、えげつねぇ・・・・・。
お腹が空いていたのだろうか、キモイハナはドラゴンを食すと欠伸らしい動作を行い、その場で眠りについたのである。
俺はその場でキモイハナに先ほどのビーストカプセルを投げつけ、カプセル内に戻した。
「こ、ここに新たな魔物使いの誕生だ!うおおおおおおおおおお!」
「「「うおおおおおおおおお!」」」
こうして何か俺は魔物使いとしての覚醒に鍛冶屋メンバーからのむさ苦しい祝福を受けたのである。
その後、俺たち一行は目的の鉱石を見つけ、必要な分を採掘し無事下山したのであった。
下山後にマコトは職業人酒場に行き、パラメーターの確認を行ったので、結果を以下に示します。魔物使いはスキル扱いです。
氏名:マコト カミヤ
職業:錬金術師Lv48
通常時 ゴーレムアーマー装着時
HP:155 変わらず
MP:120 変わらず
攻撃:110 250↑
防御:95 350↑
魔力:140 変わらず
精神(魔法防御): 200↑
速力:175 50↓
運:255 変わらず
スキル:武器錬成、ゴーレム錬成、ゴーレムアーマー、アイテム錬成、魔物使役
ついでに、キモイハナのパラメータも記載します。
ニックネーム:キモイハナ
種族:テンタクルプラントLv35
属性:毒/植物
HP:130
MP:150
攻撃:62
防御:140
魔力(毒攻撃などの特殊攻撃含む):90
精神:140
速力:25
運:75
スキル:悪臭ブレス(毒、麻痺、気絶の効果)、催眠ブレス、貪食、消化液発射、触手の鞭、ドレインウイップ