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――――それは一瞬の出来事だった。
ひゅん、と。死が朱い軌跡をのこして風を凪ぐ。
それはまるで自分を貫くためだけに疾る猟犬のよう。
朱い猟犬の狙いは心臓。
逃げることなど叶わない。
防ぐことなど在りえない。
自分自身が生き残る未来を見ることができない。
ようするに。この身体が死を迎えることは必然に過ぎなかった。
けれど―――
その刹那、結果は反転する。
猟犬が狙う僕の命の結果は、死ではなく生。
それはまるで、描いた落書きを消しゴムでかき消すように。
死という朱い必然は生という黒い奇跡によって掻き滅されていた。
しん、と静まり返る月夜。世界は影絵とすりかわる。そこにはすべてが在り、そしておそらくはなにもない、まるで仮死に陥った世界のよう。その麻酔めいた黒の中で、僕の瞳の前にひとりの少女が佇んでいた。
キレイな黒髪と、夜に溶け込む漆黒のドレス。そして、燃えるような瞳の朱と、童話にでてくる妖精めいた愛らしい、その顔。
それはまるで、ウタカタにも思えるひとつの幻想のよう。
「―――ねえ」
少女が声を投げかける。
鈴の音の鳴る、という言葉があるが少女の声は真実ソレに他ならない。
玲瓏と響き渡る彼女の鈴の音は、まるで眠ってしまったこの夜のように澄んでいた。
夜に咲く星という名の花を背景に眼前に佇む黒の少女。
その在り方に、何故だろう。
見とれてしまったからか、
美しいと想ってしまったからか。
僕に向ける彼女のその微笑みが、
「あなたはわたしの担い手かしら―――」
まるで、夜に謳う黒い聖女のように見えてしまったのは。
初めての小説投稿です。出来は良くないですが、温かい目で見ていただければ幸いです。