刑事、再び!
《登場人物》
徳永 真実 (35) 警視庁刑事部捜査第一課警部
高山 朋美 (30) 同 巡査部長
東海林 鏡花(32) パティシエ
東海林 弘樹(故人) 会社員 鏡花の夫
渡辺 マリエ(24) パティシエ
加藤 啓太 (35) 警視庁刑事部鑑識課係長
1週間後 2月21日 東海林別荘。 事件現場
別荘の駐車場と別荘の入り口脇の道路は警察車両で一杯である。
事件現場は、生々しい現状を語っており、遺体が腐乱状態で、とんでもない腐敗臭が綺麗だったはずの別荘を、一気に汚染していた。
高山は腐敗臭を吸い込まない様にする為、口元にマスクを着けて、被害者について説明する。
「被害者は東海林 弘樹 37歳、東京都内のウィルソン保険会社の会社員。6日前から会社を無断欠勤をしており、会社の同僚が連絡しても返答が帰ってこず、ゲッホ……ゲッホ……すいません。無断欠勤をして2日経ってから、捜索願が会社の同僚から出されていました」
「なるほどねぇ」
巡査部長は咳き込みながら悪臭を我慢していた。白い手袋越しで手帳のページをめくり、手帳に書いている事を口で続けている。
「発見したのは、会社のグッ……。グホッ、か、会社の同僚の佐々木喜朗さん36歳。安否が不安になった為、探して、別荘に辿り着き、部屋の中を確認しようとこのリビングの窓っ……ゲッフゲフ、の方に向かったら、被害者が倒れているのを確認。玄関の鍵は空いていて……中に入って確認したら、この状態だったそうです」
徳永は相変わらず、あんまりやる気なさそうに聞きながら、遺体の状況をよく見ていた。
「なるほどね~」
高山は何とも言えない恐ろしく酷い匂いに耐えようと頑張っている。
だが、それももう限界らしい。
「ひ、被害者の現状を見ると……ウエッ……」
徳永は、高山の顔色が青ざめているのを感じ、ちょっと不安に思いながら訊いた。
「君、もしかして、ダメか?」
高山は我慢に耐えることができず思わず心の正しい選択を選び間違える。
「は、はい」
徳永はため息をついて、一言だけ返した。
「邪魔にならない様に空気を吸ってきなよ」
「はい!」
高山はよろけながら、現場をあとにして外へ向かった。
「やれやれ、やっぱりこの匂いは新人にはキツかったか」
と言葉の方向に徳永は視線を向けると、鑑識道具一式を持った加藤が立っている。
徳永は、立っている鑑識に皮肉で返した。
「新人時代のお前よりかは持ったぞ。高山君は……」
「うるせぇ。とっとと始めるぞ」
加藤は、警察の中でも1番重要であり、なおかつ取り扱いが大変な作業に取り掛かる。
「死因は、細くて長めの鈍器だな。だいぶ時間、経ってるから詳しく調べねぇとわからねぇや。だが、左後頭部を一発でやられているな。相当、運がいい犯人だな。こいつは面倒になってきたな」
徳永は苦い顔しながら腐乱状態の弘樹の周りを見つめていた。
「そうか、あれ、これなんだろうな?」
「ん?」
徳永が人差し指で弘樹の頭部付近を示した。加藤は、虫眼鏡を取り出し、徳永が指し示した所を見てみる。
そこには、茶色の微量な砂のような物が落ちていた。
「なんじゃこれ?」
加藤は慎重にピンセットで取り、袋に入れ、ジップを閉じて、天井の明かりにかざしてみる。
徳永は、加藤がかざした袋の砂の様な物質、凝視した。
「これは……?」
鑑識のプロとして今回の現状を考えると加藤はため息をつく。
「やれやれ、調べねぇと分かんねぇな」
「だろうな。これは僕もちょっと見当がつかないね」
再び、現場に高山が入ってくる。
徳永は綺麗な空気を吸いこんだ高山に訊いた。
「大丈夫かい?」
「え、ええ。な、なんとか……」
「これは、とんでもなくなってきたね。靴跡は? 見つかればだいぶ絞れてきそうなんだが……」
加藤は首を横に振って徳永に示す。
「最悪さ。この1週間、雨がひどかっただろう? そこから外の靴跡は消されてやがった」
この知らせは聞きたくなかったらしく、徳永は自分の掛けている丸眼鏡を掃除し始める始末だった。
高山は漂う変な空気を感じ、咳き込んでいる。
「最悪ですね」
「捜査会議で間違いなく、面倒になるな……」
加藤は同期の苦労に同情した。
「ああ、そうだろうな。まぁ、心配するなって。幸い、玄関に靴跡が残っているからそこから調べればいい」
警部は加藤の言動に反応し、付け加える。
「ああ、それに物取りの犯行ではないみたいだからね……荒らされた形式はないし、遺留品等が置かれていたから……」
すると玄関の方から声が聞こえる。声の方に3人が視線を一点に合わせた。声の主は加藤の直属の部下であり、内容は簡単だった。
「そろそろ、運びますけど、大丈夫ですか?」
加藤は部下の言葉を聞いて了承する。
「いいぞ。運んでくれ」
加藤の部下が2人、検視用の担架を持って、リビングへと入っていく。
徳永は、高山に一言、告げた。
「本部に戻ろう。おそらく色々と知る必要がありそうだからね」
と言って徳永は、そのまま別荘を出ていく。
「あ、待ってくださいよ」
徳永は外に出てから靴につけた袋を外して外を見渡した。
「外の空気が綺麗だー!」
高山も徳永の後を追って外へ出る。強烈な匂いから解放され、一瞬の安堵ともに徳永の言葉に疑問が湧く。
「警部、1つ教えてください。何で、外部犯じゃないと分かったんです?」
高山の質問に、答えた。
「えっ? だって考えてごらんよ。窓ガラスは割れていなかったし、鍵は開いていた」
「ええ」
徳永は続けて説明を加える。
「つまり、被害者は自ら部屋に入れたか、内部の人間が鍵を持っていた事になる」
だが、警部の1つの意見に高山は視点を変えた意見を出してみた。
「でもこの家の鍵を作った可能性があるのでは?」
高山の返しを徳永はさらに答えていく。
「だとすると、わざわざこんな家、襲うかい? こんな遠い山奥の中に佇む別荘を……」
「拠点にしようと考えていたのかもしれないですよ」
もはや、この質問は論外。お子様の言い合いと同じ物だと徳永は感じ、即答した。
「だとしたら、あの車が置かれている時点で泥棒なんかこんなところ拠点なんかにしないよ」
と徳永は言いながら首である方向を示した。示した先には黒いスポーツカーが止まってあった。
警部は近づいていき、内装や外装をよく見てみる。
「なかなか見ないスポーツカーだね。すごいな~」
高山も近づいて見てみると、確かに内装がしっかりしていて、綺麗であり、どこか静かな雰囲気を出していた。
高級感。というやつなんだろうか?
彼女にとって車は、興味なく、あんまり心に感じるという物はなかった。
「すごいんですか? これが?」
高山の言動に徳永は呆れる。
「何を言っているんだい? すごい車さ! 最高の車だよ」
「……へぇ~」
高山の受け答えは、車に関心がないとはっきり見当がつく反応の仕方だった。
「戻ろう」
徳永は諦めて、そのまま警察車両の方へ向かっていった。
第2話です。 お待たせしました! 久しぶりの登場になりましたね!!
次回の展開もどうなっていくのか!
お楽しみに!
話は続きます!!