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追い詰めの始まり。

《登場人物》


徳永 真実 (35)  警視庁刑事部捜査第一課警部

高山 朋美 (30)     同 巡査部長

東海林 鏡花(32)  パティシエ

東海林 弘樹(故人)  会社員 鏡花の夫

渡辺 マリエ(24)  パティシエ

加藤 啓太 (35)  警視庁刑事部鑑識課係長

 



 鏡花の自宅




「いやぁ。すいませんねぇ。毎度毎度、お邪魔いたしまして」

 鏡花の目の前には、彼女の人生史上最も嫌な男が、目の前に座って淹れたコーヒーを口に流し込み、深い味わいとコーヒー豆が作り上げる壮大な香りを堪能していた。

 刑事2人は、静かなに流れる時間を過ごしながらも鏡花の態度を伺っている。

「全く。刑事さんは、人の事情も知らずに来るんですね」

 鏡花の徳永と高山に対する態度は最悪だった。

「いえいえ、事件の事で、もう1度、お話しにきました」

「またですか。何度、言えばわかるんですかね? 私は何度も証言したはずですけど?」

 徳永の対面側に座る彼女は、笑顔で返すが、高山から見て、鏡花は語気が荒く、以前に会った時より怒りと憎悪を感じる。

 高山はおとなしくパティシエと警部、2人の会話を目撃する事にした。

「ああ、すいません。でもこれはどうしてもあなたに聞いていただきたい話でしてね」

 鏡花は不満そうな顔をしている。

「手短にお願いしますね」

「ありがとうございます。まずは、再度確認になるんですが、事件当日の事、教えてくれませんかね?」

 徳永の対面からため息が流れた。

 呆れの含みが入った言葉を鏡花は、目の前にいる刑事2人にぶつけるように言う。

「だから事件当日は、メニューを考えていたんですよ。お菓子の!」

「そうですか。なるほど」

「なんですか?」

 鏡花自身、徳永の素振りに不快感を示しているのは高山からも見て分かった。

「実を言いますとね。このリストを見てもらいたいんですけどね……」

「また、成分表ですか?」

「いいえ、今回は違います」

 徳永はおもむろに、白い封筒をスーツの内胸ポケットから取り出す。

 封を外し、1枚の紙を取り出した。記載された紙の一番上には、携帯使用者の名前と日付、紙の内容名が書かれている




 《通信記録 東海林弘樹様 2月1日~》




「こちらを見ていただきたいんですがね。弘樹さんの携帯の通話記録から分かったものなんですが……あなた、かけ直してますよね? コンテストの後で」

 警部が放つ鋭い質問が鏡花の心に強く突き刺さる。彼女は、より徳永に対する嫌悪感を募らせながらも、あくまで平静を装った。

「離婚の打ち合わせです。それが何か?」

「本当ですか?」

 徳永の挑発と取ることができる一言が、鏡花をここぞとばかりに怒らせる。

彼女は、目の前に座る刑事2名に語気の荒い言葉をぶちまけた。

「なんですか!? 一体!? いい加減にしてください!」

「ああ、すいません。落ち着いてください」

「落ち着けるわけないじゃない! なんなのよ!」

 鏡花を落ち着かせようと奮闘するが、高山はあまり効果がない。

 高山が隣に座る男の顔を見ると、犯人を追い詰める、攻めの姿勢を構えているのが分かった。

 徳永は軽い笑顔で謝る。

「すいません。そういうわけで言ったわけじゃないんですよ。ただなんとなく疑問に思っただけでしてね」

「無礼な方なんですね」

 鏡花は呆れを通り越してしまって何を言えばいいか逆に戸惑ってしまった。

 徳永は目の前の女性に軽く謝罪する。

「先程は失礼しました。仕事での癖でして。すいません」

「今後は気をつけたほうがいいですよ」

「そうします。話を戻すんですけども弘樹さんの件ですがね。一応、犯人の目星がつけまして」

「!」

 鏡花は徳永の言葉に内心の焦りと不安一気に津波のように押し寄せてきた。

「おや、どうかしましたか?」

「い、いえ、なんでも……それで誰なんです? 犯人は!?」

「まぁまぁ、落ち着いてください。その前にどうやって犯人は弘樹さんを殺害したのか? どうやって凶器を隠したのか? 知りたくないですか?」

 徳永は笑顔で返す。だが、目が笑っていない。鏡花は徳永という男に対しての恐怖と憎悪が混じり、内心は混乱状態。

 下手な言動をすれば自分の破滅がより近づいてしまう事を感じ取った。

 鏡花はある程度の受け答えはする。

「ええ、どんなものか聞いてみたいわ」と鏡花は、ティーカップを持って、入った紅茶をゆっくりと味わう素振りを徳永に披露した。

 実質、焦りが混じってしまい、紅茶の味は分かっていない。

 徳永は鏡花に微笑で返す。

「ありがとうございます。では、話しましょう」

 警部が掛ける丸眼鏡が窓から入る光で、白くなっている様に鏡花は見えた。

「あの事件の要素として大事なのは、3点です。1つ目、犯人は外部犯か。2つ目、凶器はどんなものなのか? そして3つ目は、犯人はどうやって凶器を隠滅したのか。どこにやったのか?」

 鏡花は内心の焦りを落ち着かせながら反応していく。

「面白そうな話ね。教えてもらおうかしらね。あ、お菓子は?」

「あ、私は結構。高山くんは?」

「あ、も、もらいます」

 高山は彼女の言葉に甘えることにした。

 鏡花はソファーから立ち上がり、キッチンへと向かっていく。

「話してくださいな。徳永さん」

「ええ、じゃあ、まずは1つ目です。犯人は外部犯か内部犯か? あなたはどう思いますか?」

 冷蔵庫から作っておいたガトーショコラを取り出しながら、鏡花は考えてみる。

「そうね。強盗じゃないかしら。外部犯って言うんですっけね?」

「そうですね。どうして、そう思われたんです?」

「え、ええ? 単純な気持ちで、物を盗る為に狙った……そうじゃないかしらね?」

 徳永はケーキを運ぶ鏡花の姿を伺いながら、彼女の発言を理解した。

「なるほど。そうですね。その要素もあるといえばあるかもしれませんが、残念ながら内部犯、いわば弘樹さんが関係を持った方の犯行が高いです」

 鏡花はお盆の上に乗せた皿をテーブルに置いて、フォークを高山に渡した。

「はい。ケーキ。どうぞお食べになって」

「あ、ありがとうございます」

 鏡花もソファーに座り、徳永の発言をケーキをフォークで切り、口へ運ぶ。

「……そうねぇ。どうして徳永さんは内部犯?」

「ええ」

「内部犯の犯行だと思いになったのかしら?」

 徳永は丸眼鏡を外して、推理を展開していく。

「簡単です。犯人は玄関から入りました。物盗りならば、それを躊躇する事はまず少ないでしょうし。それに肝心な物も取られてないんですよ。おかしくないですか?」

「確かにそうねぇ。あ、コーヒーのおかわりは?」

 鏡花は話をはぶらかしながら徳永の言う事には、納得する。

「あ、もらいます。で、次に2つ目が入ってくるわけです」

 そう言った後で、再びカップに淹れられた温かいコーヒーを徳永は、自分の口へと運んでいく。

「聞かせてちょうだいな」

 平静を装うが、鏡花はだいぶ自分に負荷がかかっている事を感じている。

 徳永は、首を縦に降って反応した。

「ええ、いいですよ。では2つ目について説明しましょう……って言う前に、知りたくありませんか? 犯人の正体を?」

 鏡花にとって衝撃の発言。

「え、ええ。知りたいわね。お、教えてくださいな。犯人の正体を」

 徳永は丸眼鏡を光らせる。

 対面側に座る鏡花にとって、それは怪物のような存在に見えた。

 警部が告げる次の言葉が、彼女の脳裏に強い衝撃と焦燥をもたらす。

「犯人の正体は、意外と近くにいるものですね。よくよく考えたら単純で、近くにいたんですよね。驚きですよ……東海林弘樹さんを殺害したのは」




『あなたですね? 東海林鏡花さん?』




 鏡花の心に深く重くそして鈍い衝撃が鐘の様に響いた。





第13話です。とうとう、徳永警部の鏡花への追い詰めが始まりました。最終回も近づいてきましたね。


ではでは、次回をお楽しみに!!

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