パブ3
パブに入ってきた、えんじ色のセーターを着た明るい栗色の髪の男は、カウンターに座ると店主のキースに聞いた。
「キース、リックの奴来てない?」
グラスを磨いていたキースは、むっつりとした表情で答えた。
「ああ。奴は、今日来てない」
「そうか」
彼はうなずくと、キースにビールとソーセージを注文した。
「リックの野郎、今度は何を追っかけてるんだ。延長までしやがって」
彼の前に、瓶ビールを置きながらキースは聞く。
「さあ、それはな。お互いの企業秘密だからな」
栗色の髪の彼は答え、瓶の先を口に入れる。
「たぶん、新入りの誰かの愛人だ。けた外れの美人のな。この前ここにいた時、リックの野郎と間違ってネガが入れ替わったらしい。俺もだけど、だいぶ、あいつも飲んでたからな。……ネガを現像して、びっくりしたぜ。すんごい美女だ。あれは、新進気鋭の女優かなんかだな。……まあ、あの写真じゃどこのだれか分らなかったんで、リックに返そうと思ってな。俺のネガにはたいしたもんは入ってねえんだけど」
彼は、一口飲んで瓶をカウンターに置くと、自分の着ているセーターの袖口がほつれているのに気づく。
「あいつ、安物よこしやがって」
顔をしかめる。
これ、それなりにブランドだから。買ったばかりだから。
というリックの口車に乗って、紺の自分のセーターとあの時交換した。
割に合わない物々交換だったと、彼は後悔する。
しかしそれにしても、リックは最近いやに身なりに気を使うようになった。
以前に比べればの話だが。
まあ他の国の者が見れば、今のリックでも、どうでもいい恰好だと一笑されるのはちがいないが。
あの写真の彼女に好かれようとしてるのかね。
栗色の髪の彼は、ほくそ笑んだ。
まだ若いそんな彼の努力を、いじらしいと彼は思う。
この国では見かけに気を使ったからとて、あまり意味がない。
特に、本土では。
「すみません」
ソーセージを待っていた彼は、彼の隣に座ろうとした男に声をかけられた。
声の主を見やると、ゆるやかにカールした黒髪の、眼鏡をかけた童顔の青年が自分を見ていた。
どこかでみたような顔だけどな、と、彼は思い出そうとするが思い出せない。
無難なスーツを着た青年は、栗色の髪の男に言った。
「あなたと、少しお話させていただきたいのですが」




