オムレツ
パーティー会場からの帰り、ウーのいるホテルを訪れたリックは、ウーの部屋をノックした。
いつものようにジミーが現れるのかと思いきや、予想に反して出たのはウーだった。
「あれ? ジミーさんは?」
部屋に入り、見回すがスーツ姿の彼はいなかった。
「ジミー?」
ウーが怪訝な顔で聞く。
「あのおにーさん。スーツの」
ウーは、合点がいったように頷いた。
「……ああ、彼、ジミーっていうの。さっき、出て行ったわ。すぐ戻ってくるらしいけど」
彼の名前、知らなかったのか。
リックは衝撃を受ける。
ウーは、気にもかけずテーブルに座り直した。
食事の最中だったらしい。
テーブルには、ルームサービスの食事が並んでいる。
リックは、ソファーの上に投げ出されているドレスに気付いた。
「今日、パーティー行かなかったんだ」
「ええ。お腹が痛くなったの。熱もあったし」
ウーは、食事を再開しながら言った。
「今は、大丈夫なの?」
「ええ。治ったの」
素っ気なく答え、食欲のまま食べ進めるウーを見て、リックは彼女は出席したくなかったのかな、と思う。
「そうか、残念だな。君のドレス姿撮りたかった。不完全燃焼感たっぷりだよ。君が来れば、一番話題をさらったのに違いないのに」
リックの言葉を聞いてるのか聞いてないのか、ウーはフォークとナイフで皿の上のオムレツを切りながら言った。
「あなたも食べる? サービスを頼んだら、彼の分も二人分来ちゃって。彼……ジミーは食べないと思うわ」
テーブルの上には、二人分の食事が乗っていた。
パンに、コーンスープに、サラダ、そしてきれいにラグビーボール型をしたオムレツ。
彼女は、オムレツが大好物のようだ。
リックが以前に彼女を訪れた時も、毎回ルームサービスで必ずオムレツを頼んでいた。
「いや、お腹減ってないからいいや。……それより、チャンスだな。ジミーさんが居ない今、君を撮ってもいい?」
リックが勇んで聞くと、ウーはパンを飲み込んでから答えた。
「モデル? ……分かったわ。脱げばいいの?」
ウーの言葉にリックは少々驚く。
「いや。そういう写真でなくていいんだけど」
まあ、個人的には欲しいけど。
と、リックは心中でつぶやく。
彼女はそういうモデルを今までにしたことがあるのだろうか。
「普通にしてて。食べてていいよ。俺が勝手に撮るから」
リックはウーの前の席に座った。
彼女は、言われたとおり食べ始める。
カメラを構えるため肘をテーブルにつこうとして、リックは邪魔な目の前にあるオムレツの皿を彼女の方に寄せる。
彼女がリックの方を見た。
カシャ。
レンズ越しに見る彼女の表情に、リックはカメラから顔を離した。
「……どうかした?」
彼女はナイフとフォークを持つ手を止めたまま、ぼんやりとリックを見つめていた。
「ウー?」
「……何でもないわ」
ウーはつぶやき、視線を皿に戻すと再びナイフを動かし始めた。
またカメラのレンズを覗き込んだリックだが、彼女の表情が浮かないのに気付く。
「ウー? 撮られたくない? 嫌だったらやめるけど」
ウーが食べるのをやめて、ナイフとフォークをテーブルに置いた。
沈黙の後、うつむき加減の彼女は小さな声で言った。
「リック」
「何?」
彼女の声を聞き取ろうと、リックは身を前に乗り出す。
ウーは、聞き取れるか聞き取れないかぐらいのかすかな声で続けた。
「……この国から出る方法を知ってる……?」
彼女の灰色の目がリックを見た。
リックは目を見開いた。




