異邦人
高級シーツの肌触りを手で撫でて確かめながら、上半身裸でベッド脇に座り、煙草を吸っていたリックは後ろの彼女を見やった。
「ねえ」
肩がむきだしのまま、向こうを向いて横になっているウーに声をかける。
「俺の名前は、リックだけど」
ウーがだるそうにうつ伏せになってこっちを見た。
額から顔に流れ落ちる髪の房の間から、彼女は彼を見返して答える。
「うん。リックだろ」
……気付いてないのか。
「まあ、いいや」
リックは軽く笑って、煙草の灰をサイドテーブル上の皿へ落とす。まさかこんな高級ホテルの上ランクの部屋で、彼女のような人間を相手にする人物のおこぼれにあずかるとは。俺ってツイてるなあ、とリックはぼんやりして感慨にふける。
「俺は、キッド出身」
言って煙草をくわえる彼に、ウーは胸を隠そうともせず上体を起き上がらせた。
「グレートルイス人なの?」
彼女の裸体を目で楽しみながらリックは首を振って答える。
「グレートルイス人だった。17歳までは」
煙を吐くと、灰皿に煙草を置きリックはウーを見た。
「特例中の特例。17の時、両親と車に乗ってるとき事故に遭った。両親は死んで、俺は重体。やけに俺に麻酔が効かないってんで、怪しんだドクターが調べたら、大当たりだった。ゼルダ人の遺伝子だってな。……あのときは、驚いたのなんの。目覚めたら両親が死んでたのはまあ一番ショックだったけど、母親がやらかしてたってことにも驚いたし、その相手が、ゼルダ人だってことにも驚いたね」
ウーの瞳を見つめながらリックは続ける。
「俺の母親は、槍投げの選手だった。……俺が生まれる17年前、スポーツの祭典がキッドで行われた。ゼルダ人と接する機会なんてその時しかないと思う。選手村で、何やってたんだか。まあ、さばけた母親だったけど。俺のこと疑いもしなかったんだろうね」
苦笑してリックはウーから目を外した。
「この国に連れられてきたとき、俺は悔やんだね。あのとき、それなりにモテたし、いい感じに付き合ってた娘もいた。……なんで、さっさと手を出しておかなかったのかと。俺は泣いたね。いや、マジで」
笑いながら言ってウーに目を戻したリックは、にこりともしないで自分を見つめているウーの様子に、
「……ま、いいや」
と、つぶやいて煙草を再び手に取る。
「君の相手は誰なの? 教えてくれないかな」
シーツに包まるウーにリックは声をかけた。
「わたしが言わなくてもいずれ分るわ」
ウーは背中で答えた。
「また、来るんでしょう?」
彼女の言葉の意味にリックは目をみはった。
ラッキー、と胸中でつぶやく。
「じゃあ、写真を撮らせてくれる?」
「いいけど。……あのひとが何かすると思う」
あのひと。
さっきの、ガードしてたこわそうなお兄さんか。
「そうかもしれないね。じゃあ、いつか折を見てこっそり」
言ってリックは煙草を灰皿に押し付けると、立ち上がってセーターに頭を突っ込んだ。
靴に足を突っ込み、レインコートを羽織るとき、リックは彼女の視線を感じてそっちを見た。
「……なに?」
ウーが寝たままの姿勢でこっちを見ていた。
「あなたの髪の色じゃ、そのセーターは似合わないと思う」
じっとリックの身なりを観察しながらウーは言う。
「その色じゃなくて、紺か緑の方がいいわ。……コートも、カーキかグレーの方がいいと思う」
「……ファッションチェックしてくれて、ありがとう」
間をおいてリックは答えた。
いきなり服の総ダメ出しをくらうとは。まあ、行為のダメ出しをされるよりは、マシか。
リックは明るい青い目で彼女を見ると口もとを上げた。
「じゃあ、またね」
彼女に声を投げてリックは広すぎる部屋を出た。




