パウルの報告2
ケダン教会の修道院長室の中で二人の男は見つめあっていた。
一人はファンデイム院長その人、もう一人はパウル修道士見習いである。
ファンデイム院長は穏やかな微笑みをその顔に浮かべていた。
パウルはやや褐色の面に平然とした表情で立っていた。
「では、この一週間のヴィンセントの様子をまとめて話してください、パウル」
椅子に座っていたファンデイム院長は、机に肘をつき手を組んで、その上にあごをのせ目をつぶった。
「はい。1日目と2日目、厨房に戻ったヴィンセントですが、別人のようだったとソビヤンコ様がおっしゃっていました。包丁使いは拙いところはありますが、先と周囲を見て動くようになったと。元来綺麗好きなのか、片し魔なのか、片付けながら次の作業へ移るので作業台が自分一人で使う時よりも広く感じたと。でかい図体はそんなに気にならなくなったと、おっしゃっていました。スピードは回を重ねれば良くなるだろう、彼は力はあるので、老いたこの身なれば、これからパン作りは任せたいのだが、と。つまり、ヴィンセントに厨房仕事を続けて欲しい、との希望でした」
パウルはそのまま続ける。
「3日目です。ビルケナウ様とサム様の前でヴィンセントが演奏しました。基本、練習すれば問題ないレベルだそうです。ですので、次回からヴィンセントに演奏を任せるとのお話でした。光るような芸術的才能はないようですが。何故オルガンが弾けて音感がないわけではないのに、あのように音痴なのか不思議だと、二人とも納得がいかないようでした。それから子供たちとの授業にオルガンを使いたいと、ヴィンセントから希望があったようです。特に問題もないので許可したとのことですが」
パウルは淡々と語り続ける。
「4日目です。キャンデロロ様と畑で作業したようですが、まあ、ヘマはしなかったと。加えて、作物の収穫時期やこれからの作業予定、作物の特性などを詳しく聞いてきたので、やる気はあるなこのヤローと思ったそうです。……おそらく、キャンデロロ様は彼のことを気に入ったのではないかと、ドミニク様が申されました」
パウルは一息ついた。
「そして、カール様ですが。診察の仕事にいたっては私一人で十分なので、彼の力が欲しい時に呼ぶとのことです。ヴィンセントは書類や薬品棚等をうまく整理してくれそうだから、今まで乱雑なままで放置していたのを何とかしてもらいたいもんです。まあ、彼の力を借りるのは主にそれでしょう、と笑っておっしゃっていました」
「なるほど。それで、あなたはどうだったのですか、パウル」
ファンデイム院長は目を開けて、探るような目つきで前に立っているパウルを見た。
その口元にはやわらかな笑みがたたえられていた。
「……私は、私の方も問題ありません。彼は、この時代錯誤の建物とひと昔前の掃除用具や道具類に戸惑っていたようです。慣れたのか手際は良くなりました。綺麗好きな性質なのか仕事は綺麗で丁寧です。……全体的にみて、いいです」
パウルは報告を終える。
聞き終えたファンデイム院長は目を細めてゆっくりとうなずいた。
「……それでは、ただ、彼は慣れていなかった、ということでいいのでしょうか、パウル?」
「はい。ただ単に、ヴィンセントはここの暮らしに慣れていなかった、ということだと思います」
パウルは相変わらず平然とした顔のままでそう答えた。
「彼は仕事のできる人間だったのだと思います。そういう人間は、状況が変わったとしても、どこにいったとしても、結局は頭角を現すのでしょう」
ファンデイムはパウルの言葉を聞いて繰り返しうなずいた。
「彼の王子ぶりは健在ですが、王子は王子でも、苦労人の王子だったかもしれないと私は思っております。……ドミニク様の想像が半端なくふくらんでいる模様ですが」
パウルが頬を緩ませついに微笑した。
「そうですか。良かった」
ファンデイム院長もその様子をみて満足げに笑みした。
「この先、いずれ彼がここを去るのが名残惜しくなりそうですね」
ファンデイム院長は窓の外を見やった。
子供たちが歓声をあげてふざけあいながら、教会にやってくるのが見えた。
その人数は日に日に増している。
「本当にうれしいことです」
ファンデイム院長はつぶやいて、もう一度目を細めてパウルを見上げた。




