庭の木々とサーバル?
「さて、そろそろ、か」
デットの印が浮かぶのを待つ間、久し振りの組手をしよう、と兄貴が思い立ちやがったために、実に一時間もの壮絶なリンチが始まってしまった。
「お、終わりか。助かった」
俺はもはや息も絶え絶えに地面に伏せった。真っ白な灰にでもなりそうだ。
「強くなったな、晃」
汗一つかかず、服の乱れすらない兄貴が俺を見下しながら言った。
「そう言うんなら、一発ぐらい当てさせてくれよ。完封したやつが吐く台詞じゃねえだろ」
俺だけならまだいいが、庭の大小様々な木々が滅茶苦茶だ。誰が片付けると思ってる。兄弟二人でこのだだっ広い家に住んでいるにも関わらず、何故だか兄貴はお手伝いさんの一人も雇わない。故に家事全般はほぼ俺の役目なのだ。
「そんなことより、もうデットが浮かんでいるはずだ。見てみろ」
「そんなこと、かよ。ったく」
俺は渋々、擦れて破れかけの服を、医者に見せるように捲った。
「うん? 猫、かな?」
腹部を覗くと、可愛らしい猫のようなシルエットが刻印されていた。中々恥ずかしいな、こりゃ。
「……違うな。それはサーバルのデットだ」
兄貴はその場に立ったまま、顎に手を添えながら言った。
「サーバル? 何だよ、それ」
全く聞いたことがないぞ。動物の名前なのか?
「ネコ科の動物でな、チーターのような模様をしているが、ヤマネコの仲間だ」
「つか、なんでこんなシルエットで分かるんだよ、どうみてもただのネコだろ」
俺は指でシルエットをなぞり、再確認をする。しっかり刻印されていたことが少し残念だったのは敢えて言わないでおこう。
「何を言う、このスリムなボディは間違いなくサーバルだ」
……なんか騙されてる気がするのは俺だけか? サーバルなんて見たこともないが、こんな中途半端なシルエットで判別できるとは思えない。
「じゃあ、そのサーバルには何か長所あんの?」
やはり強い生き物の方が強い能力者になれる、そんな気がして聞いてみた。
「……瞬発力?」
「なんで疑問系なんだよ!」
もしや、このデットって、弱いのか。とりあえず、兄貴をうち滅ぼす力は当分、先送りになりそうだ。