表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

羽根と特攻?

「ふふっ、そんなに言わなくても出てきてあげるわよ」

 草を掻き分け、森の中から怪しい女性がゆっくりと出てきた。

 彼女はその身を黒いスーツで覆っていた。


「あんたがやったのか、何のつもりだ?」


「何のつもりかって? まあ、ちょっとしたお仕事よ」

 女は唇に指を当てながら、妖しく笑った。


「仕事だと? 悪いがこちらも仕事なんだ。見逃してくれないか」

 十中八九、無理な相談だろうが一応言ってみる。


「残念ね、こっちも退く気はないわ」


 仕方ないな。やるしかない、か――。


 心の中で小さな覚悟を決め、女に向かって真っすぐ突っ込んでいった。


 俺が加速を付けていくと、またもや"何か"が空を切り、今度は晃の左脚へと突き刺さった。


「こ、これは、鳥の羽根? くっ!」

 自分の眼で羽根を確認したところで、左脚の力が抜け落ちた。


「そう、その羽が私の能力……アレスト・フェザ」


「能力、だと。どういうことだ!」

 脚の感覚が消え去っている俺は、しゃがみこむ様な態勢で言った。


「ま、知るほどのことでもないわ。貴方は寝てなさい。羽根刺繍フェザー・スラスト!」

 数本の羽根が俺に目がけて飛んでくる。



「くっ、危ねぇ」

 俺は寸でのところで羽根を全て躱した。冷や汗が頬を伝う。


「あら、避けられちゃった。じゃあ、次行くわよ!」

 女は、同じように羽根を数本飛ばしてきた。


 だが、やはり先程と同じように俺は全てをぎりぎりのところで躱した。


 ちっ、集中すればどうにか躱せるが、避け続けられる代物じゃあないな――。


 心の中で、幾つも敵を討つ策を練るが、残念ながら大したものは出てこない。


「また、避けたの。やるじゃない、でも、まだまだ行くわよ」

 女はもう一度、攻撃のモーションに入った。


 くそ、足さえ動けばどうにかなるかもしれないが――。

 僅かな希望に賭け、足の感覚をたぐりよせる。


「あれ、脚が……動く、動くぞ」

 さっきまで刺さっていた羽根は抜け落ち、脚は元通りになっていた。


 よし、これなら、イケる!――。


 もう一度、女に向かって走り出す。


「ふふ、男らしいわぁ。特攻かしら?」 そう言いつつも、女は同時に無数の羽根を放った。


「おおぉぉ!」

 羽根が飛びかう中、ぎりぎりのところで躱していく。


 だが、また、足の力が抜け落ちた


「ぐぅ!」

 俺は、女の目の前でひざまずく態勢になった。


「残念、だったわね。格好良かったわよ」

 女は俺を見下しながら、嘲笑を浮かべる。


「いや、これでいい」

 ニッと笑い、女の両腕をがっしりと掴んだ。


「どうする気……かしら?」

 笑みを絶やさず、女が言った。


「何もしないさ。ただ、兄貴が来るまでは粘らせてもらう」


「……貴方、バカ? 私が普通の人間じゃないことぐらい、分かっているでしょ?」

 確かに先刻までの動きを見ると、少なくともそこらの男には負けない身体能力を持っているだろう。


「それでも粘るさ。あと十分もすれば、兄貴は来るだろうからな」

 俺は口元だけで再度、笑ってみせる。


「お兄さんのこと、いたく信頼してるようね」


「信頼? そうだな、信頼してるさ。仕事上ではな」


「そう、でも10分は長すぎるんじゃないかしら?」

 瞬間、目線の下に在った女の膝が、俺の顎へ向かって弾けた。


「くっ!」

 直撃は避けられたが、頬からは薄く血が流れる。


「あらあら、そんな調子で保つのかしら?」


「悪いが、保つ保たないじゃあない。保たせるんだよ」

 女の腕を握る手を一層強める。


「……一つ、聞かせてもらえる? 貴方にとって兄とは何かしら?」

 もう一度蹴りが来ると思い、身構えていた俺は、意外な質問に虚を突かれた。


「……そうだな。神さ、いつだって、どんな場所でだって、俺の遥か上に悠然と立つ、絶対神」

 ある意味、それは正しいだろう。兄貴を評価したい訳じゃない、そうとしか見えないから神だと表現した。



「ほう、それはどういう意味なのかな?」


 俺の後ろから声がしてきた。聞くだけで少し苛々してくる声、兄貴だ。


「兄貴、こいつが敵だ。早く捕まえてくれ!」

 あくまで腕は掴んだまま、振り向いていった。


「そうか、ご苦労だったな、鈴香すずか

 兄貴の視線は俺ではなく、女の方を向いていた。


 えっ、女に言ったのか? 鈴香? こいつの名前? 訳がわからない――。


「いえ、ではもう本部に戻ってよろしいですか、月島様」


「あぁ、手間を取らせて悪かったな」


「お気になさらないで下さい。これも未来のため。そして、やはり晃様には素質がありそうです。では」

 そういうと鈴香と呼ばれていた女は、腕を鳥の翼のように変化させ、風と共に飛び去った。


「ふむ、素質アリ、か。チェル、お前はどう思う?」

 くるっ、と振り返り、いつのまにやら車から出ていたチェルシーに問い掛けた。


「うん、いいと思うわよ。あの娘の羽根も避けてたし。何より、貴方はもっと早く力を使ってたじゃない」

 チェルシーは兄貴の鼻の頭を指で軽く弾いた。


「そうだな。さて、帰るかな。チェル、すまなかったな、手伝わせて」

 俺の心を乱したまま、兄貴は帰ろうとしている。やはり、ここは事情くらい聞かねばならないだろう。


「ま、待てよ。どういうことなんだ? 説明してくれよ」

 混乱しすぎて、自分の言ってることもよく分からなくなってきたくらいだ。


「うん? 帰ったら説明してやるよん」

 いつのまにやら、兄貴はいつものふざけた感じに戻っていた。


「……絶対だぞ」

 自分が落ち着く時間も欲しかったので、俺はとりあえずそれで納得した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ