プロローグ
(ここは……一体どこだ? 暗くて何も見えない……)
「……は……だ」
「何だ? 声が、聞こえてくる。でも……聞き取りづらいな」
「みは……うだ」
「何なんだ?」
「君は……希望だ!」
「うわあっ! ゆ……夢か」
辺りを見回してみたが、そこは何も見えない暗闇でも、おかしな声が聞こえてくるでも無い、見慣れた自分の部屋だった。
「しかし、変な夢だったな。俺が希望だとか言ってたけど、俺に希望なんて託したらこの日本は沈没しちまうよ」
ベッドから起き、着替えながら一人で冗談を言っている。なんとも寂しい姿だ。
Tシャツにジーンズというシンプルな姿に着替え、いつも通り、顔を洗いに一階へ続く階段を降りる。
「あれ? もう起きたのか」
一見すると爽やかなやさ男が、寝起きの俺に調子良く話し掛けてきた。
「よう、兄貴」
俺はこれ以上ないぐらいの低い声で朝の挨拶を済ませた。
「なぁんだよ、元気無いなあ」
そう言って、俺の肩を軽く二回叩く。
「俺は兄貴が目の前にいなけりゃ、元気一杯だよ」
「はは、そりゃ悪いねえ」
悪いと思うなら、少しは自重してくれないだろうか。
「それより、俺は早く顔を洗いたいんだ。どけてくれよ」
正直、俺は兄貴が大っ嫌いだ。理由は、……まあ今はどうでもいいか。
「分かったよ。じゃあ終わったら直ぐリビングに来てね。ちょっと話もあるからさ」
「で、話って何だよ」
リビングに二人向かい合い、俺は用意されていた朝食を頬張りつつ、話しかけた。
「ああ、仕事だ」
その言葉に兄貴の顔を覗くと、さっきまでとは打って変わって、目が本気だ。
「またかよ……。前の仕事から二日と経ってないぜ?」
「仕方ないだろう。最近は情勢も悪い。それに、これはお前の為でもあるんだ」
兄貴は俺に諭すように言う。この目のときの兄貴は、ある意味普段よりもタチが悪い。
「またそれかよ。ちぇっ、分かったよ。それで今回の仕事内容は?」
すると兄貴は口元だけでニヤリと笑った、
「よし、話そうか」