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キノコ採取

今年はこれで終わるんですねぇ。

神社のバイトが大変だけど楽しい。

街の南に位置するアラノ森。

いつモンスターに襲われるかわからない危険な地。

最初は武器を手に警戒しながら進んでいたが、あまりにもなにも怒らないため今では普通に会話して歩いていた。

「へー、ティオって魔族と人間のハーフなんすか!」

「うん、母さんが魔族だったんだ」

「じゃあ、ティオは魔法が使えるんすね!」

アゾルは期待に目を輝かしてティオを見る。

魔族は人間と身体能力が高く、冒険者のチームでは魔力もあるために剣と魔法を使い分けて戦う人が多い。

が、今のティオはそんなかっこいい戦いをできるわけがない。

「魔法は使えるけどさ、ランタンに火をつけるために指から火を出したり、泥水を綺麗にするぐらいしかできないんだ」

そう言って自分の尖りきみな耳を触れる。

攻撃魔法を使いこなす母曰く「クエストをこなして覚えていくのも楽しいものよ」と言って教えてくれなかった。

ティオとしてはもっと強い魔法を教えてもらいたかったが、父との訓練と狩りや手伝いで精いっぱいだからそんな時間はなかったと思う。

「だからいろんなクエストをやって覚えていくつもりなんだ。ごめんね」

「ふーん、そうなんすかぁ」

アゾルは少し残念そうに呟いた。


「それよりキノコの生えてる場所って知ってるんですか?」

ティオがなんとなく尋ねてみると、アゾルは得意げに自分の胸を指さす。

「おれ、キノコがどこにあるのか覚えてるんすよ」

「本当に? ならこのクエストは楽勝だね」

「任せるっす!」

そういうとティオを置いて一人森の奥へずかずかと進み始めてしまった。

「え、ちょっと待ってよ!」

「早く来ないとおいてくっすよー」

新しい相棒に若干の不安を感じながら、ティオは慌ててアゾルの後を追いかけた。


街の時計塔よりもはるかに高い樹を中心に広がる森は奥に行けば行くほど珍しい薬草や鉱石が手に入るのだが、その分だけモンスターも強力になっていく。

冒険者の初心者は森に入ったばかりのところで弱いモンスターを相手に異形との戦い方を学んでいき、腕を上げることに奥に進んでいく。

任せろというだけあって、アゾルはクエストの目的となるキノコがどこにあるのか把握していた。


まず1つ、アカドキノコ。

傘が広い赤と黒のキノコで食べてもまずいし舌が痺れる物だが、火薬に混ぜれば湿気に強くなり雨でも使えるようになる。

キノコはどこでも手に入る物だが、場所によって質が変わる。

アゾルはティオの胴回りよりも太い木の下に案内して、街でも高価格で売れる質の高いキノコを手に入れる。

採取したキノコの毒々しさに眉を顰めながら、試しに臭いを嗅いでみる。

「食べたら下が麻痺するから駄目っすよ」

「食べないよ!」

見た目からして食べる気が失せるとぶつぶつ呟きながら、ティオはポーチの中にキノコをしまっていく。

同じようにキノコを採取しながら頭の中で地形を計算していたアゾルは東のほうを指さす。

「ここからだと、そうっすね……。キイロデキノコを取りにいくっすよ。」

「わかった」

ティオは頷いて立ち上がろうとしたとき、茶色のウサギがじっとこちらを見ているのに気が付いた。

最初は無視してそのまま行こうとしたけど、なにげなくもう一本抜いたキノコを投げてみた。

ウサギはびっくりして後ろに飛びのいたそれがキノコだとわかると、ティオの顔とキノコを見比べて、すぐにその場で食べ始めた。

その様子に和んだティオはクスリと笑ってその場を後にした。


次はキイロデキノコ。

黄二つ並んだ岩の下にあるジメジメな地面に大量に生えていた。

黄色くて一つ一つが小さいこのキノコは衝撃を与えると光を発する珍しいキノコだ。

衝撃の強さに比例して強く光を発するので、洞窟の中で叩けばモンスターが光を嫌って逃げてくれる。

「これ鍋に入れて食べるとおいしいっすよね」

「そうだね。鍋の中で光るから見えづらいけど、おいしいんだよねー」

この地域ではキイロデキノコは鍋にして食べるのが常識。

まぶしさに目を細めながら、キノコのぷりぷりした食感を楽しむのである。

「今日さ、鍋食べに行かない?」

「いいっすね! 俺の仲間もよんでいい?」

「うん、いいよ」

ここがモンスターの潜む危険な地であることを忘れて、二人は帰った後の予定を話し合う。

ふと、ティオの背後から草を踏みしめる音。

何気なく振り返ったティオはその姿勢のまま固まった。


子供より少し大きいぐらいの痩せこけた体は泥に汚れていて、下顎から牙が伸びている醜い顔の中で目が爛々と輝いている。

最初はキョトンとした顔でティオたちを見ていたが、だんだんと憎悪に歪んで低く唸り始める。

(ああ、やばいやばいやばい……!)

ティオは油断しきっていたことを激しく後悔しながら、腰から剣を引き抜こうとした。

人間を見つけたゴブリンは耳障りな雄叫びを上げると、両手に持っていたアオヤキノコを捨ててティオに飛びかかった。

それではみなさん、よいお年を!

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