一日目、終了
村から町までの距離を一週間から一日に大幅に短くしました。
「おい、少年。今からクエスト行くつもりか?」
後ろから声をかけられて振り返れば、顔に酷い火傷の跡が残る男が立っていた。
ベテランだろうか、傷ついた鎧や使いこまれた槍から、彼がベテランであることを物語ってる。
「はい、そうですけど……」
男はくいっと壁に掛けられてる時計を指さす。
釣られるように見れば、時計の長針は4時を指していた。
「もう日が暮れる。夜に1人で行くのは自殺するようなもんだ」
「あう……」
せっかく初クエストに挑戦しようと思っていたけれど、先輩の警告を無視するわけにはいかない。
「まぁ、初心者用のクエストはなくならないから、明日探せばいいだろ」
男は落ち込んだティオを励ますように肩を叩く。
「わかりました。明日クエストをを受けます」
「それがいい。朝に来ればお前さんみたいな新米も集まるから、パーティを組んでいけばいい。
あと最初に受けるクエストはこれがいいだろ」
そう言って示したクエストはザブルピッグ3頭の討伐。
近隣の村から依頼されたもので、畑を荒らすモンスター3頭を対峙してほしいとのことだ。
報酬は1000エルク。
先程もらった冊子を開いてザブルピッグを見てみる。
一般的な豚よりも筋肉質で食欲旺盛。
基本的に食べるか寝ることしかしないが、攻撃されると突進してくる。
「あ、これならなんとかなりそう」
「だろ、でも3頭もいるから誰か誘って行けばいい」
「うん、これを受けます」
「それじゃ、頑張れよ」
もう言うことはないと判断した男は軽く手を振ると、二人の男女が座っているテーブルに座る。
仲間らしく男がティオを指さして何か話すと、二人は納得したのか頷いている。
「それじゃ、今日はどうしようかな……」
クエストを諦めたティオは空いた時間をどうしようか迷ったけど、武具屋に言ってないことに今さら気が付いた。
さらにここに来るまでにアイアンドールと戦っているのだから剣の状態も確かめないとまずい。
とんでもない状態でクエストを受けようとしていたことに、ティオは自分の悪露小朝に頭を抱え込みたくなった。
「と、とりあえず宿で荷物おいてこよう」
若干、この先やっていけるのか不安になりながら宿へ向かうことにした。
冒険者ギルドが経営する宿はギルドのすぐ裏にある。
こちらも護りを重視した4階建ての建物だ。
中に入るとカウンターにいた体が丸くて顎髭を生やした巨漢が愛想よく笑って出迎えてくれた。
「さっきギルドから連絡があって待ってたんだ。君が新米君だね」
「えっとティオ・アルペノスです」
なんだか強面な人だなと思ってしまっていたので、見た目を裏切る愛想のいい態度にティオは面食らってしまった。
「私はクァンシーだ。ここを経営している者だよ」
そう言ってカウンターに数字が書かれた木の板がついた鍵を指し出す。
「これが君の部屋だ。2階の14号室。トイレは各階にあるし、大浴場が一回にあるから利用してくれ」
「わかりました」
「なにかわからないことがあれば私に聞いてくれよ」
「はい、ありがとうございます」
親切な人だなぁと思いながらティオはクァンシーに礼を言って階段を上る。
2階に上がると壁に1号室から15号室は左側に、16号室から30号室が右側に曲がるように書いてある。
右に曲がって奥に行けば、ティオの持っている鍵の札と同じ数字が描かれたドアを見つけた。
畳3畳分ほどの部屋は小さな机が置いてあり、ハンモックが壁に掛けられている。
ただ寝る為だけの安い部屋。
父から聞いていたとはいえ、こ我が家が恋しくなる寂しさである。
とりあえずは荷物を置いて外に出かける。
今日からここがティオの活動拠点。
頑張って気持ちいいベットの上で寝れるように頑張ろう。ティオはそう心に決めた。
「お、さっそくクエストに行くのかね?」
一階に下りて新聞を読んでいたクァンシーに鍵を渡す。
「いえ、夜になるから止めとけって人に言われたから、武具屋とか見に行ってきます」
「それがいい。ベテランでも夜の森とかに入ったら命がないからな」
「それで聞きたいんですけど、5番地区にアルバージっ武具屋を知ってますか」
「アルバージ? ……ああ、知ってるよ」
クァンシーは考えるように顎髭をいじっていたが、思い出すとカウンターからメモを取り出すと簡単な地図を描いてティオに渡す。
「あそこは小さいけど掘り出し物が見つかるって話だ。けど、よくあんな店知ってるね」
「人から聞いたんです」
「ほう、そうなのか。まぁ、用事をさっさと済まして帰ってくるんだよ」
「うん、ありがとう」
ティオはここでも子供扱いされてるようで悲しくなったけど、善意で言ってくれてると分かってるからなんとも言えなかった。
街はもうすぐ暗くなるためか買い物してる主婦や遊んでる子供の姿は少ない。
いや、この地区を利用する主婦はもともと少ない。
いくつか店を覗いてみると、長旅に耐えられる靴や丈夫な衣類を扱っている。
衣類を扱う店では冒険者が持ち込んだ毛皮を渡して店員となにやら話し込んでいた。
遠くから見たのでよくわからなかったが、その毛皮は折りたたまれた状態でも台にからはみ出すほど大きかった。
道端でもシートを広げて干し肉や塩漬けした魚を売っていて、剣や槍を持った冒険者が品定めしている。
その様子を眺めながら、クァンシーが書いてくれた地図の通りに歩いてアルバージと看板を下げた店についた。
アルバージは他の店よりも小さめで、ドアにかかっている交差する剣が掻かれた看板がドアの前に下がっているだけだ。
中に入ればムッとした臭いが鼻を衝く。
店内には武具が乱雑しておかれていた。
壁に所狭し並べられてるだけでなく、詰め込まれた樽が置いてある。
客に勝ってもらう気がなく、持っている武器を置いただけのようだ。
店の奥では小柄な老店主が研いでいた剣を置いて顔を上げると、入ってきたティオを品定めする様に素早く体を見る。
そして、何か引っかかるのかティオの顔を凝視する。
大量に並べられた武器に感動してキョロキョロ首を動かしてみていたティオは店主の鋭い視線に気づいて、無意識に姿勢を正した。
「新米か……。何の用だ」
「あっと、これの手入れをしてもらおうと思ってきました」
ティオは急いで腰から剣を抜いて店主に見せる。
店主は無言で受け取ると鞘から引き抜いて注意深く刃を確かめる。
一瞬だけ唾に触れた手がとまったが、すぐに手を動かす。
何も喋らないまま見る角度を変えたり、手で刃に触れていく。
そして時間をかけていく内にだんだん店主の顔が険しくなっていく。
「おい、なにか硬いものに刺しただろ?」
「え?」
「え?じゃない。刃の腹と切っ先が酷いことになってる。
何も考えずにがむしゃらに突き刺しただろ」
そう言われてアイアンドールの首に何回も突き刺したことを思い出した。
今思い返して見れば、剣の切っ先が鎧の内部にぶつかっていたかもしれない。
「あ、そういえば……」
「少しは大事に扱ってやりな。相当使ってるみたいだが、雑に扱えばすぐに駄目になる」
剣の状態を確かめ終えた店主は紙に何かを書き込んでいく。
「とりあえずこれは預かる。明日の朝には治しておいてやる。名前は?」
「ティオです。ティオ・アルペノスです」
「アルペノスね……」
店主は書き終えた注文書をティオに渡す。
「いま金に余裕はあるか?」
「え、あ、ちょっと待ってください……」
いきなり懐を聞かれて驚きながらポケットから財布を出す。
村で牛泥棒を捕まえたり、小型のモンスター退治をして貯めた小遣いだが武具を買うほど金があるとは思わない。
いや、ここで使ってしまうとこれからの生活が困ってしまう可能性が高い。
言葉に迷っていると、店主はその様子で分かったらしく鼻を鳴らした。
「そこにある丸い盾を手にとってみな」
店主が指さした物を言われたとおりに取ってみる。
飾り気のない盾は丸みを帯びた円形で、持ち手が手で固定できるようになっているから重い一撃も受け止められそうだ。
しかも小さいために腕の負担も少なく、つけた瞬間にティオはこの盾を気に入った。
「それは3000エルクだが、2000エルクに負けてやるよ」
「え、いいんですか!?」
「まぁ、冒険者になりたてのようだからな。少しぐらいは負けといてやるよ」
「あ、でも……」
財布を見たティオは今まで喜んでいた表情から一遍、しょんぼりと悲しそうに俯く。
いきなりの変わり方に店主も動揺する。
「ど、どうした?」
「財布……1500エルクしかないです……」
そう言って財布の中身を店主に見せれば、確かに1500エルクしか入っていない。
店主としてはもっと金を入れてから来いと言ってやりたがったが、ティオの寂しそうな顔を見ると怒鳴る気持ちが鈍って強い待った。
もともと商売の才能がないし、金儲けにも興味がない店主は投げやりに手を振った。
「わかった。1500にしといてやるよ」
「本当に! ありがとうございます!」
また嬉しそうな笑顔に戻って――しっぽがついてたら千切れるほどパタパタ振っていただろう――1500エルクを払うと手に入れた盾を抱きしめる。
「それじゃあ、剣は明日の朝に受け取りに来い。値段は注文書に書いてあるから忘れるなよ」
「はい、わかりました!」
ティオは深く頭を下げて礼を言って店を出て行った。
残された店主は疲れたと溜息をつくと、改めて預かった剣に触れる。
「親子3代で来てくれるのは嬉しいが、あんな子犬で大丈夫なのか?」
武具屋を出た後は並んでいる店を適当に見て宿に帰った。
買ったものは珍しい薬草を数種類、モンスターが出てくる場所を記した手作りの地図を購入。
明日のクエストに持っていくものをリュックからウエストポーチに詰め替えていく。
忘れ物がないかリュックをあさっていると、赤い石を見つけて手が止まった。
「明日からクエストか……」
もう一度、自分を殺そうとしたアイアンドールの姿を重い和えす。
今は思い出すだけでも身震いするけど、必ず倒して見せる。
決意を固めるように石を強く握った。
早く戦闘書きたいです、センセー……。
戦闘シーン書いてたほうが楽ですねぇ