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ギルタス砦

今回もまた、箸休め的な小話になります。

ギルタス砦はヴィナード王国が昔、暴れる蛮族から周辺の村を守るために建てられた。

やがて蛮族を追い払うことに成功し、兵士が駐留する意味がなくなると城を放棄することになった。

それからは城は雨風に晒され、時が経つままにされた。


もう何十年も前の話で、今ではいつ崩れてもおかしくない状態である。


少なくともメイジはそう聞いていた。

けれど今、視界にある城はどうだろう?

防御よりも兵士の居住を優先したために薄かった防壁は強化されている。

そして各所で土嚢が積み上げられ、浸入を防ぐために木の杭も打ち込まれている。

これだけでも充分な守りなのに、月明かりもない夜の中、明かりをつけてさらに作業が行われている。


作業をしているのは、城の周辺にある村の人間や旅人だ。

不運にもパトロール隊に見つかって、強制的に労働させられている。

そして奴隷扱いされているのは人間だけじゃない。

ゴブリンやオーク、コボルコングなどのモンスターでさえ、人間と一緒に城造りに駆り出されている。


この混成した奴隷たちを見張っているのはアイアン・ドールとアイアン・パペットの魔物だ。

目と口から炎が溢れている頭蓋骨、ウィスプを松明代わりに辺りを照らし、奴隷たちが逃げたり怠ったりしないように見張っている。


メイジは長い間、城造りを眺めていたが、作業1つ1つを見ていると飽きはしない。

彼の民族にも村を守る工夫はしていたけれど、これほど強固なものは初めてだ。

「城造りがそんなに珍しいかね?」

手摺に寄りかかって見ていると、うしろから声をかけられた。

「ああ、珍しい。俺の故郷には必要なかったからな」

「必要なかった?」

魔物と同じ軍服を着た男、ロイアルはメイジに聞き返すが、すぐに自分で答えを出した。

「そうだった、君たちは常に村を変えてるんだったな?」

「あんなに石を積み上げる意味はないよ。

季節と共に、人と馬が生きられる地を変えればいい」

「だか、回りを囲んでしまえば盗賊は諦めるよ。

君たちのようにね」

「もっと楽な得物が回りにあるからだ」

メイジはムスッとしながら答える。

「それに襲った分に見合う物がない。

使い振るされた武器に匂う男たち。

奴らが持っているものなんてゴミばかりじゃないか」

「それは言えるな」

ロイアルも彼の言い分を認めた。

「そんなことより何しに来たんだ?」

暇を持て余してぶらつくような男じゃないし、理由もなしに部屋から離れた所に来ないはずだ。


尋ねられたロイアルは胸ポケットから煙草を取り出しながら、なにかを探すように手すりから身を乗り出して外を見やる。

「なに、軽い実験だよ」

そう言ってメイジにも見るように一点指差す。

見てみれば、20人ばかりの薄汚れた人間が魔物に連れてこられていた。互いに身を寄せあっている。

「あれは?」

「脱走者、建物に火をつけて逃げようとしたんだ」

「脱走、ねぇ」

出来るわけがない。

メイジは憐れみを含めた目で人間たちを見る。

毎日の重労働と不安、恐怖で体力、精神ともに限界な彼らが魔物から逃げられることなど100%無理だ。

いったいどんな夢を見たのか知らないが、これからされることは彼等にとって地獄になるだろう。

だが、監察してみると、外で働かされている人間よりしっかりした体をしているし、不安や恐怖を押さえている。

数人は魔物に隙があれば、今にも襲い掛かろうと機会を伺ってさえいる。

メイジの考えを読んだロイアルは煙を吐く。

「そうだよ、彼らは村人じゃない。冒険者だ。

砦の近くを通ったから捕らえた。

今回の実験にはちょうどいい」

「そういえば、その実験ってなんだ?」

「見てればわかる」

メイジの質問に答えず、あれを見ろと顎をしゃくる。


魔物たちが冒険者たちの足元に剣や槍、杖に弓矢を放る。

それは彼らの獲物であり、ちゃんと手入れがされている。

武器を返されたことに冒険者たちは戸惑いながら、自分の武器を拾う。


全員が武器を拾った所で3体の魔物と1人の軍服を着た男が冒険者を囲う位置に現れる。人間が冒険者たちに敵意がないことを示すために両手を挙げながら、なにか喋っている。

「これからやることはこうだ。

彼ら20人は勝ったら逃がすことを条件に、3体のアーロイ・ナイトと戦う」

「3対20か、けっこうなハンデだな」

「そうでもないさ」

冒険者たちは条件が飲み込めないのか、男になにか喚いている。

しかし、彼らに交渉の余地はない。

冒険者たちを囲んでいる魔物が武器を構えると、戦うしかないと理解してアーロイ・ナイトと向き合う。

「さて、始まるぞ?」

冒険者たちと話していた男が離れながら、魔物の1体に合図をする。

合図を受け取ったアイアン・パペットはマスケット銃を空に向け、戦いの合図を撃った。

それぞれ刀、槍、2振りの剣を持ったアーロイ・ナイトたちはすぐに距離を詰めず、歩いて冒険者たちに近づく。

冒険者たちは速攻で終わらそうと、魔法を唱える。

炎や氷が撃ち込まれ、地面から生えた巨大な拳が殴り付ける。

宙に黒い渦が生まれると、そこから雷が降り注ぐ。

その破壊力は凄まじく、土が舞い上がり、充分に離れていた観戦者を飲み込む。


冒険者の中でもそれなりに実力のある人間らしい。

メイジはちらりと隣で観戦するロイアルを見やる。

「終わったか?」

「だな、これで実験は終わりだ」

ロイアルは手摺に短くなった煙草を押し付けて火を消した。

「あとは掃除をするだけだ」

もう見るべき物はないと、ロイアルは踵を返して部屋を出ていった。


土煙のせいで視認が難しいなか、冒険者の1人が悲鳴を上げる。

仲間たちが驚いて振り返ると、いつの間に接近したアーロイ・ナイトが冒険者の剣を持つ腕を切断し、返す刃で首を撥ね飛ばしていた。


塔から見ていたメイジはため息を漏らす。

それからアーロイ・ナイトを相手に冒険者たちは数分も持たなかった。

一瞬で距離を詰められ、ほとんどが1太刀で殺される。

たまにギリギリで受け止めた者もいたけれど、それも2撃か3撃で終わる。

圧倒的だった。

数分もしない内に頭や胴体を切断され、内臓が溢れた死体が20個出来上がった。


アーロイ・ナイトたちは全員が死んだことを確かめると、後の処分を魔物たちに任せて帰っていった。


最後まで見ていたメイジは背伸びをして、固まっていた体を解す。

「あんなのがたくさんいたら、つまんないな」

そう言ってなにか別に暇潰しになるようなことがないか探しに、彼も塔を降りていった。

さて、どんどん敵がパワーアップしてますが、いちおう主人公も強くなってるんですよ…(〇∀〇;)

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