買い物! 買い物!
今回は小休止みたいな感じです
クエストを終えた翌日、ティオとアゾルはスコットが言っていた報酬を受け取りに行くことにした。
セレハートから聞いた話だと、武具屋フロベリカは研究所が提案した武器を開発、試作する職人がいて、完成した物を売っている場所らしい。
そのため、売られている武器はどれも一工夫された癖のあるものばかりで、上級者向けが多いらしい。
そんな物を貰っても初心者の自分達に使えるのかティオは不安だけれど、アゾルは武具が貰えることが嬉しいのか機嫌がいい。
「いやー、どんな武器がもらえるんすかね?
おれ、槍がいいなー。昨日、魔物に切られちゃたもん」
「僕は、うーん、思い付かないや……」
「ないんすか?」
「うーん……」
ティオはなにかないかと考えるが、やっぱり思い付かない。
剣は今のままで十分。
盾はそもそもまだ慣れてないから、盾事態を使いこなさないとまずい。
鎧も重くなって動きが悪くなると致命的になる。
まったく欲しいものが思い付かない。
真面目に考えても浮かばない様子に、見ていたアゾルは肩をすくめて笑う。
「まぁ、とりあえず外れじゃないことを祈るだけっすね」
「うん、そだね」
ティオもこれ以上考えてもしょうがないと割りきることにした。
そして2人は前に受けた依頼や最近売り出したアイテム、お気に入りの食堂へと話を逸しながら歩いていると、目的の武具屋ナジールに辿り着いた。
ナジールはアルパージよりも大きな店で、看板には使いにくそうな、禍々しい斧と剣が交差している。
「ここっすか?」
「ここだね」
ティオが場所があっていることを確認すると、2人は恐る恐る中へ入ってみた。
店内は広くて綺麗に掃除がされていて、武器もテーブルの上に見やすいように並べられている。
客は冒険者がほとんどだけど、護身用の剣を選んでいる貴族の姿もあった。
ドアにかけた来客を知らせる鈴の音に、カウンターで短剣を磨いていた店員が顔をあげる。
「いらっしゃいませ!」
「あ、すいません。スコットさんから紹介されて来たんですけど……」
ティオがスコットから渡された名刺を見せると、店員は笑顔だったのが、急に難しくなる。
「ああ、スコット博士から話は聞いてますよ。
でも、今は大丈夫かな……」
「え、大丈夫って?」
「あ、いえ、研究所から依頼された武具を担当する者がいるんですが、いま仕事がうまくいかないようで……」
うまく説明できないもどかしさに店員は困ったように唸る。
「じゃあ、時間を変えて来た方が良かった?」
「うーん、担当者は気まぐれですからね。
いつ働いているかわからないですし……」
気紛れで働いてていいのか?
2人はちょっと心配になって顔を見合わせる。
1人、呟いていた店員はやがて考えが纏まったらしく、「よし!」と大きな声を出した。
「今から担当者と会いに行きましょう。
ここで私が考えてもしょうがない」
そう言って着いてくるように2人を手招くと、店員は店から出ていってしまった。
「……どうする?」
「どうするって、ついてくしかないよ……」
武具を貰いに来ただけなのに、なんだか面倒臭くなりそうだ。
2人はしぶしぶ店員の後を追いかけて店を出る。
店員は店の裏にある小屋に向かう。
小屋は鍛冶場らしく、中から鉄を叩く強い音が響いている。
「ムダンさん、お客さんだよ! ムダンさん!」
店員が扉を強く叩いて呼ぶけれど、仕事に夢中になっているのか返事がない。
「すいませんね、仕事になると他のことに気が回らないんですよ」
店員は1つ溜め息をつくと、扉を開けてティオたちを中に入れた。
鍛冶場に入った瞬間、ムッとした臭いと熱気が顔を打つ。
道具と武具が所畝ましと並べられていて、3人の人間が入るには狭く感じる。
そして部屋の真ん中には激しく炎が燃える炉に立ち向かう男がいた。
年は30代だろうか、眼鏡をかけた目を細めて、たった今打ったのだろう剣を眺めている。
ティオたちが部屋の中を見渡していると、店員がまた大きな声でムダンを呼ぶ。
「ムダンさん、お客さんですよ!
ほら、スコットさんが言ってた――」
「ああ、君たちが博士が言ってた冒険者か」
ムダンは眺めていた剣を置くと、2人の体を監察する。
「ふむ、2人とも華奢だな。まだ成長途中か?」
呟きながらメジャーを取り出して、2人の身長や胴、腹回りなどを計っていく。
「まったく、簡単に防具を渡せというが、サイズもわからないのに渡してどうするんだ……」
「え、防具なんですか?」
「ああ、スコット博士とセレハート博士から君の話を聞いていてな、補助効果がある防具がいいと反対した」
それからアゾルに目を会わせると、眉間にシワを寄せる。
「君は槍だな。槍を切られたんだったな?」
槍使いが接近されてどうする? ムダンは小言を漏らしながら図った数字を手近な紙に書いていく。
一通り計り終えると、次にテーブルに設計図を広げ出した。
「今日はもう帰ってくれ。
今から武具を君たちにあうように作り直さなきゃいけない」
「え、今日もらえるんじゃないんすか!?」
アゾルががっかりして言うけれど、ムダンは振り返りもしない。
「作り直すと言っただろ。
だから今日は帰ってくれ」
ムダンは見向きもせずに言うと、あとは自分だけの世界に浸って設計図と向き合う。
こうなってはもうなにを言っても意味がない。
店員は申し訳なさそうに2人の肩を叩く。
「すいません、こうなってはもう聞く耳がないので、一度ここを出ましょう」
ティオもアゾルもどうすればいいのかわからず、店員の言葉に従うしかなかった。
鍛冶場を出ると、店員が深々と頭を下げる。
「申し訳ありません。あの者は少々変わり者でして……。
物を造る以外は興味もないのです」
「はぁ……」
ティオはちらりとムダンを見る。
興味がないというより、武具を作ることにひたむきなんだと思った。
「あ、そうなんですか……」
「ですが、できたものは届けるように致します。
お二人はギルドの宿をご利用ですか?」
「はい、そうです」
「では宿の主にとどけます」
「わかりました、それじゃお願いしますね」
ティオは店員に頭を下げで店を出た。
次に向かったのは道具屋。
特に足りなくなった物はないけど、店によっては新しい商品が出るときもあるから覗いてみることにした。
店に入ると、顔を知った女の店員が話しかけてきた。
「いらっしゃい! 今日はなに買いに来たの?」
「ううん、とりあえず見に来ただけ」
「なによー、冷やかしー?」
店員は怒った振りをするが、すぐに笑っても2人を招く。
「そういえば、もうすぐ隣街に行っちゃうんだっけ?」
「そうっすね、次はテレセムって街にいくっす」
「そっか、テレセムかぁ」
店員は腕を組んで寂しそうな顔をしたが、なにを思ったのかそばにあった籠から干した小魚を取り出す。
「テレセムはけっこう歩くからね、おやつにこれでも食べなさいよ」
「え、いいの?」
ティオが渡された袋と店員を見ながら尋ねると、店員はもちろんだと笑って手を振る。
「そういえばティオくんは魔族と人のハーフなのよね?」
「うん」
「テレセムはね、魔族が多い街なんだけど、アズーラ人ってのがいるのよ。
その中でね、最近、そのアズーラ人が中心のギャングが出てきたんだって。
なんでも魔族を中心に街を支配しようって馬鹿なこと考えてるらしいの。
「うわぁ、なにそれ……」
ティオは信じられないと言いたげに顔をしかめる。
「本当に馬鹿な話よね。
あなたも巻き込まれないように注意してね」
「う、うん、気を付けるよ」ティオはしっかりと袋を握りしめて頷いた。
それからティオとアゾルは適当に買い物をして、それぞれの準備のために別れることにした。
次にティオが向かったのはアルバージだ。
中に入れば、店主の老人、ギドがカウンターで茶を飲んでいた。
「新米か、今日はどうした?」
「えっと、今日も剣を見てもらっていいですか?」
腰から剣を抜いてギドに渡す。
ギドは受け取ると、角度をゆっくり変えながら眺めていく。
無言のまま、どれぐらい眺めていただろうか?
暇をもて余したティオが武具を試しに持っていると、ようやくギドが剣を置いた。
「とりあえず明日取りに来い」
「わかりました。それじゃお願いしますね」
「ああ、待ちな」
ティオは頭を下げで店を出ていこうとしたら、ギドに呼び止められた。
「あのな、剣の扱い、少しはマシになったじゃねーか
もっと大事に使えるようになったら一人前になれるぞ」
そう言ってニヤリと笑った。
ティオはしばらくボーッと突っ立っていたが、やがて笑顔で頷いた。
「はい!」
店を出たティオは嬉しさに、歩く足も軽やかだった。
さて、そろそろ次の街に行きますよー!