目を覚まして
今回は簡単な会話だけです。
一同が森から抜けて一休みしているところでティオが目を覚ました。
「ここは……?」
目を覚ましたティオは上半身を起こして辺りを見渡すが、寝ぼけた頭ではどこにいるのかわからない。
いま、どうなっているのか把握できず、不思議そうに首を傾げている。
ティオが起きたことにいち早く気づいたレビがとびつくと、じゃれついてティオの顔を舐めまくる。
「ちょ、レビ、ストップ!」
なんとかはしゃぐレビをなだめようとするが、レビが落ち着いた時にはティオの顔は涎まみれになっていた。
ティオは苦笑しながらも、優しくレビの頭を撫でてやる。
「そっか、心配してくれてたんだよな。
ありがとう、レビ」
礼を言えば、レビは鼻先を胸に当てながら小さく鳴いた。
レビの体を撫でながら涎を拭いていると、顔の前に水筒が指し出された。
水を前にして、喉がカラカラになっていることに気が付く。
そういえば、森に入ってから水を飲んだのはだいぶ前だ。
喉が渇いているのを覚えたら我慢が出来ない。
ティオは何も考えないまま水筒を受け取ると、一気に半分まで飲み干してしまった。十分に水を摂取して水筒から口を離してから、そこでようやく差し出した相手がトールだと気が付いた。
「あれ、なんでトールさんが?」
「スコット博士の救助に来た。怪我は大丈夫なのか?」
「え、ああっと……」
言われてから自分の体を確かめてみる。
撃たれたのは胸のあたり、服をはだけて見てみれば薄い傷跡が残っているだけで触れても痛くない。
「大丈夫、みたいです」
「そうか」
トールも胸の傷を見て大丈夫と判断すると、彼から離れて見張りにつく。
今度は入れ替わるようにアゾルとイリア、キノが駆け寄る。
「ティオ、もう大丈夫っすか!?」
「兄ちゃん、動いて大丈夫なの!?」
「よかった、目を覚ましたんだ……」
一斉に詰め寄られて少し後ずさってしまった。
「え、えっと、うん、もう大丈夫だよ。ほら……。
それより、君はどこも怪我してないの?」
なんともないことを証明するために撃たれた胸を叩いて見せながら、逆に捕まっていたキノを心配する。
質問されたキノは手を後ろで組んで俯いたが、すぐに元気よく首を振る。
「怖かったけど、お兄ちゃんたちが助けてくれたから大丈夫!」
そう言って明るい笑顔を向ける。
「助けてくれてありがとう、お兄ちゃん!」
「みんな助けてくれてありがとう、兄ちゃん」
キノが頭を下げると、イリアも同じように頭を下げた。
「ううん、とりあえず助けられてよかったよ」
お礼を言われたティオは2人の顔を見て、胸が暖かくなるのを感じた。
自分もお礼を言われたいと、アゾルがイリアとキノの服を引っ張る。
「あ、おい、俺も頑張ったんすよ! 俺にもありがとうって言ってくれよ」
「えー」
「あー、ありがとう」
「なんでそんな適当なんすか!?」
ティオと言い方が明らかに違う。
アゾルは大袈裟に肩を落としてがっかりする。
キノはクスクス笑うと、アゾルの手を握る。
「うそうそ、お兄ちゃんもありがとう」
お礼を言われたアゾルはキノが握る手を見ていたが、恥ずかしさから頭をかきながら笑う。
「なんか、改めて言われると照れるな」
そう言って頬を弛める。
「やっほー、やっと目を覚ましたー?」
今度はセレハートがティオに話しかけてきた。
うしろにはスコットとハイナもいて、ティオの様子を見て安心したように互いの顔を見てホッと息を吐く。
2人はティオとアゾルの手を握って頭を下げる。
「君のお陰で家族が助かった。
本当にありがとう、感謝しているよ」
「この子たちが無事で本当に良かったわ。
助けてくれてありがとうね」
改めて礼を言われたティオとアゾルは照れ隠しに笑うしかなかった。
「で、だ。私としてはちゃんとした礼を渡したいんだが、生憎と今は手持ちがない」
「え、そんないいですよ!?」
「いや、それじゃ私の気持ちが済まないよ」
スコットは懐から名刺とペンを取り出すと、走り書きでなにか書いていく。
「まぁ、お礼と言っても研究所で作られた試作品なんだけどね。4番地区にあるフロベリカって武具屋でこれを見せなさい。
「試作品?」
受け取った名刺を眺めながらアゾルが尋ねる。
名刺には「ナジールへ、しっかり試作品のデータを取ってもらえ」と書かれていた。
「ああ、私たちの研究所はいろんな分野があるからね。武器の開発なんてやってる変わり者もいるよ。
ちょうど新しい物ができていたはずだ。ぜひ、君たちに使ってもらいたい」
「へー、それって俺たちでも使えるんすか?」
「大丈夫だったはずだよ。駄目だったら別の物を作ってくれるはずだよ」
彼のことだから出来ないなんて言わないし……。
小さく呟くスコットは何を思い返したのか、わずかに顔を青くしていた。
セレハートも訳を知っているらしく、同情して肩を優しく叩く。
「さてと、2人ともご苦労様ね。大変だったでしょ?
今日は御飯、おごってあげるわよー!」
「本当に!?」
「あ、でも……」
セレハートの奢り宣言にティオは目を輝かして喜ぶが、アゾルは心配そうにトールに視線を送る。
「トールさんを病院に送らないと……。
肘と膝、やられてたじゃないですか」
「え、そうなの!?」
ティオも驚いてトールを見る。
確かにトールは肘と膝に包帯を巻いている。
しかし、腕や足はおかしなほうに曲がっておらず、今も平気でに歩いている。
その様子に、ティオはアゾルに顔を向ける。
「いや、本当っすよ!
シルバ・ヘッドにやられるの見たんすよ!?」セレハートに助けを求める。
セレハートは苦笑して肩をすくめる。
「大丈夫よ、あの子は頑丈だもん」
そう言って安心させるように肘や膝をばんばん叩く。
叩かれているトールは痛くないのか、表情を変えない。
「ね、大丈夫でしょ? そんな心配しなくてもいいのよ」
「そうですか……」
ティオは安心して息を吐いたが、アゾルは納得できず疑わしそうにトールを見ている。
「ほら、ティオくんが起きたなら出発するよ。
早く帰って汗を流したいわ」
セレハートが急かすように手を叩いてみんなを急かすと、アゾルもしぶしぶ引き下がる。
一同が街に向かって歩きだし、トールも集団のうしろについて歩く。
その隣を歩いているセレハートが小さな声で話しかける。
「調子はどう?」
「動く。けど、違和感はある」
そう言って、包帯が巻かれた腕を動かしてみせる。
「そっか、じゃ帰ったらしっかりメンテナンスしてあげるね」
セレハートは子供にするようにトールの頭をワシャワシャと撫でまくる。トールはわずかに眉間にシワを寄せたが、すぐにいつもの無表情に戻り、セレハートにやらせるままにした。
残存勢力を一掃するために森に残ったシュノとドラグは馬車を見つけて唖然としていた。
馬車は魔物たちがつかっていたものらしく、車に目を開いた太陽が描かれている。
だが、場所はなにか重たいものにのしかかられたのか、ペシャリと潰れていて、繋がれていた馬の1頭も同じように潰れている。
そしてもう1頭は首を潰され、腹の内臓はほとんど喰われている。
そして周りの木々は薙ぎ払われ、大きな爪の後を残している。
魔物はいない。
けれど銃弾や剣の後があるため、一応、戦ったのだろう。
粉砕された木の破片を拾うと、角度を変えて眺める。
「これがあの博士の言ってた応援か?
これは、明らかに人間の仕業じゃないよな?」
「ええ、大型のモンスターね」
シュノも腕を組んで考え込む。
「あの男と言い、アルクェン研究所には化け物が何匹いるのよ……」
彼女の問いにドラグは何も言わず、持っていた木の破片を放り投げた。
ガラガ大蜘蛛
危険度 ☆×2
蜘蛛のモンスター。
糸で相手を絡めて動けなくしたところで襲いかかる。
糸の粘着力が強力なため、炎でモンスターごともやしてしまおう。