ぜったい、勝つ!
アイアン・パペットの次はアイアン・ドールです
アイアン・パペットを倒して、アイアン・ドールを残すだけ。
ティオは強がっているけれど、腹部の傷は浅くないし、頭からも血が流れている。
なんとか立ち上がったけれど、足元がふらついて今にも倒れてしまいそうだ。
アイアン・ドールはレビを警戒しつつ、まずはティオを仕留めようと狙いをつける。
レビに盾を向けながら、じりじりとティオに接近する。
もちろんレビも魔物の狙いがティオだと気づき、近寄らせまいと飛びかかろうとしたが、前へ飛び出した瞬間にアイアン・ドールが盾を投げつける。
驚いたレビは反射的に避けたけれど、アイアン・ドールとの距離が開いた。
一気にティオに接近したアイアン・ドールが掬い上げるように下から斧で斬りあげる。
「うわ!」
ティオは後ろに下がってなんとか避けたけれど、バランスを崩して尻餅をつく。
すぐに地面に手をついて起き上がろうとしたが、このチャンスを逃すまいと2度、3度と斧が振り下ろされる。
ティオは盾を両手で支えることで受け止めるが、その破壊力に腕が持たない。
腕がしびれて下がりそうになる。
4度目が振り下ろされようとしたとき、レビがアイアン・ドールの腕に噛みついた。
もうティオを傷つけさせまいと噛みつき、前足でも押さえる。
「ナイス、レビーー!?」
レビが腕を押さえてる間に離れようとしたが、背中を強く蹴られて地面に倒れた。
アイアン・ドールは腕を押さえられたまま、ティオの頭を踏み潰そうと足を上げようとしたが、うしろで草を踏む音が微かに聞こえて振り返った。
「やっべ、ばれた!」
体を低くして近づいていたアゾルは驚いて体が硬直したが、すぐに槍をに突き出して前へ踏み出す。
レビはアイアン・ドールの腕を離した。
アイアン・ドールは腕で槍を防ぎ、背中を同時に自由になった斧を振り上げる。
アゾルはすぐに槍を引いて、大きくうしろに飛び下がった。
「今っす!」
レビの首回りから生まれた電気がアイアン・ドールの背中に直撃した。
銃を撃ったような破裂音と共にアイアン・ドールの背中の鎧が壊れ、黒い煙が吹き出す。
「よっしゃって、うぉわ!?」
アゾルがガッツポーズをして喜んでいたが、前のめりによろけたと思ったアイアン・ドールがそのままぶつかってきた。
アゾルはアイアン・ドールの巨体を受け止めずに地面に押し倒された。
すぐに起き上がろうとするが、アイアン・ドールが上に跨がったために動けない。
「この、どけよ!」
もがいて逃れようとするが、首を押さえられてしまう。
アイアン・ドールは頭を叩き割るべく斧を振り上げる。
「させない!」
アゾルを守ろうと、咄嗟にティオが飛び付く。
降りあげた腕にうしろからしがみついて押さえる。
引き剥がそうとアイアン・ドールが暴れるけれど、ティオも離すまいとしがみつく。
レビも雷撃で助けたかったが、ティオまで感電してしまう。
レビはどうしようか迷って、困ったように小さく鳴く。
アイアン・ドールの力は強く、片腕を押さえるだけでも一苦労だ。
それでも抱きついた腕を離さないようにしながら、両手に魔力を込める。
「――アイス・プリズム」
ティオの身体が一瞬だけ青色に光ると、彼が触れている場所が音を建てて凍り始めた。
アイアン・ドールは自分に何が起きているのか理解できなかったが、背後の魔族から離れないとまずいことになるのは確実。
すぐに引きはがそうと暴れ出し、ティの顔や腹を殴りつける。
そのたびに血が飛ぶけれどティオは腕を離さず、より抱きしめる腕に力を込める。
鉄に覆われた拳がティオの額を打つ。
額の肉が裂けて血が噴き出し、頭ががくりと後ろに傾く。
さらに追い打ちをかけようとアイアン・ドールは立ち上がり、今度はティオの頬を殴る。
またティオの小さな頭が殴られた衝撃に勢い良く傾く。
氷は今や、アイアン・ドールの上半身半分を飲み込んでいる。
さらにティオの顔を殴った手も凍っていた。
アイアン・ドールは動きづらくなった首を回してティオを見る。
「……さない」
顔を腫らし、血塗れになりながらもティオは強い眼差しでアイアン・ドールの赤い目を見つめ返す。
「お前なんかに負けない! ぜったいに負けない!」
アイアン・ドールはいい加減にしろと、ティオの顔を潰そうと半分凍りついた腕を引く。
その腕が槍に貫かれて砕け散る。
「往生際が悪いっすよ!」
鉄の腕を粉砕したアゾルがどうだと言わんばかりに笑って見せる。
さらにレビが力強く吠えて、首回りに雷を纏う。
「お前の負けだ、アイアン・ドール……」
上半身を完全にに見込まれ、下半身も半分以上が侵食したアイアン・ドールが最後に見たのは、全身をぼろぼろにされながらも嬉しそうに笑うティの笑顔だった。
レビの雷撃が凍りついたアイアン・ドールの身体を粉砕した。
力尽きて地面に落ちたティオの体に氷が降り、溶けた中から黒い煙が流れる。
「か、勝ったぁ……」
地面に大の字になったティオはレビとアゾルに笑いかけると、ぶつりと意識が切れて視界が真っ暗になった。
ガラガ大蜘蛛。
危険度 星×2
大型犬よりも1回り大きな蜘蛛。
ケムクジャラの毛皮は鎧の役割を果たし、尾から放たれる糸は粘着力が強い。
戦うときは糸に絡み付かれないように、機動力を重視して戦おう。