会合
ちょっと話が飛びます。
ごめんなさい。
魔物による町の襲撃の報告。
イェニサール・ファミリーを襲撃、マフィア側は壊滅寸前にまで追いつめられる。
そこへ冒険者と軍警の部隊が到着、魔物の群れを挟撃し撃退していく。
が、そこへ新種の魔物を連れた10代の少年と30代の男性(特徴は別紙に記入)が現れ、10人以上を殺害、飛行型のモンスターに乗って逃走した。
魔物の群れはアラノの森に向かった後、行方は不明。
複数人からの報告によると少年は火の魔法を使い、男は変身する魔法を使う。
街の外で演習をしていた1個小隊がアラノの森で待ち伏せ、魔物の群れと交戦したが壊滅させられた。
死傷者は一般市民を含めて50人を超え、軽傷者は100人を超える模様(詳しい数と死傷者名は作成中)。
今回、注目すべきは2種類の新しい魔物(特徴は別紙に記録)と、それを統括している人間の登場。
そもそも文明を持たない魔物が充実した火器を保持していることと、軍隊的行動を出来ることが謎であった。
さらに人間が指揮を執っていることは衝撃である。
ヴィザード王国は魔物の研究を続けるとともに指揮していた2人の身柄を拘束することを望む。
彼らから情報を引き出すことが出来れば、魔物が組織的行動を執って我々人類に害を及ぼす理由がわかるはずであ――。
「要は男2人を取り逃がしたから、みんなで協力して探してねってことだろう」
ざっと読み通したガシュードは書類を机の上に放り投げて大仰に溜息を吐いた。
「なぁ、わしらはこんなもんのために集まったのか? どこに逃げたのかわからん人間2人のためにか?」
椅子を傾けながら、この部屋に集まったメンバーを見渡す。
そのうちの1人、眼鏡をかけたバックスが同感だと頷く。
「元が人間だった魔物なんて話は五万とある。
人間と魔物が手を組んだって、ただ珍しいだけだ」
話しながらこの集会を開いた長に視線を流す。
が、彼の言葉に反対したのは、その隣に座っていたミカルだった。
「報告書は読んだでしょう。
彼らは街に忍び込み、捕らえようとした兵隊を殲滅させたのよ。
彼らの存在は十分脅威じゃない」
ミカルは乗り気じゃない2人を睨みながら、この場の全員に説明する。
「それに彼らは戦争するって宣言してる。
つまりは何十、何百匹もの数が街を襲う気なのよ。
これって大問題じゃない!」
「それは確かに大問題です。
しかし、私たちが集まるのは筋違いじゃないですか?」
このメンバーの中で最年少の青年、ケイネスが発言する。
彼は不思議そうに長の顔を見やる。
「街の防衛なら町長と防衛隊長を集める。
討伐なら冒険者ギルドの幹部と軍の上層部が集まるべきでしょう。
この顔触れは、その、どんな理由があっての事ですか?」
彼の発言は多くのメンバーの気持ちを代弁している。
バックスが顔をしかめて長に鋭い視線を向ける。
「いい加減、喋ってくれないですか?
我々は説明を求めてるんですよ?」
「貴様っ、口を慎め!」
バックスの言葉を侮辱と受け取ったケイネスが身を乗り出す。
ほかにもミカルと数人が不快に顔をしかめるが、バックス自身は視線を外さない。
会議の長と向かい合う位置に座っていたイライザが咳払いをする。
「オルダージュ、勿体ぶらずに話してやれ。
事態はだいぶ不味いだろう?」
足を組んで寛いだ姿勢をとっているけれど、その視線には棘が含まれていた。
長は深く息を吸い込んで、ゆっくり吐いた。
「そうだな、そろそろ話を進めるか……」
彼の視線を受けて、この集会を開いた長として、第1番隊騎士団長オルダージュは集まった理由を離すことにした。
「確かに、みなに集まってもらったのは、魔物襲撃に関してだ。
が、それは防衛戦のためじゃない。
街の防衛に関しては、既に大臣と町長たちが話し合っている」「では、我々はなんのために……?」
「まぁ、待て。それをこれから話す」
怪訝そうに尋ねようとした1人を制して、背後に控えていた従者に視線を向ける。
主からの合図を受けて、従者は卓上に地図を広げる。
ヴィナード王国を中心に、隣国の地形も大雑把だけれど書かれた大きな物だ。
そして地図には赤い点があり、その隣には数字が書かれている。
地図を覗き込んだメンバーはこれがなにを意味するのか頭を捻る。
「守備隊の数、じゃねーな。
こんな所に置いても意味ねーもんな」
ガシュードが最初に思ったことを口にするが、赤点の配置からすぐに否定した。
「話の流れから魔物の群れの数ですか?
それにしては数が多いな……」
「多いなんてもんじゃないわ。
ここなんて街の守備隊じゃ防げないわよ」
そう言って指した場所には100を超える数が記入されており、これが本当に魔物の数なら軍隊が必要になる。
オルダージュは溜め息を吐いた。
「これは今出た通り、魔物の発見された数だ。
特に魔物が占領してある廃城や村は守りが固められていて、軍隊でも落とすのに苦労するだろうな。
当然、街の守備隊では止められない戦力がいくつも存在している」
そう言って数ヶ所を指先で叩く。
「私の部下が確認しただけでこれだけ出たんだ。
調べればまだまだでてくるだろうよ」
ウンザリした気分を紛らわそうとパイプを取り出して火をつける。
深々と紫煙を吸い込んで、その香りを楽しみながら吐き出した。
「だが、我々は護らない。こういう時こそ攻撃に出るべきだ」
そう言って数が多く、守りが強固な赤点を指で示した。
「いつになるがわからんが、敵が動くタイミングを狙う。
ワシらは主力部隊だけを潰し、残りの残党は軍隊に任す」
彼の言葉に一同は気を引き締めた。
イライザは口元に笑みを浮かべ、地図から視線を上げる。
「これだけの数を潰すのは骨が折れるな。
全部とまともに戦ったら犠牲は多いぞ?」
「正面から戦えば、だろう?」オルダージュが挑発するように言えば、イライザは軽く頷いた。
「我々は殺し合いはしない。殺すなら一方的な殺しだけだ。
そうだろう?」
イライザは優秀な部下たち――ヴィナード王国特殊部隊¨ガナッジ¨のメンバーを見やれば、バックスたちは自信ありげに頷く。
対抗するようにミカルが立ち上がってオルダージュに顔を向ける。
「我々騎士団も国を護るために剣を磨いてきました。
魔物の群れを一掃することは我々に任せてください!」
彼女の言葉は騎士団の気持ちを代表している。
メンバーは真剣な表情でオルダージュを見る。
オルダージュは彼らの様子に満足げに頷く。
「では、詳しい作戦は後日伝えよう。
全員、気を引き締めておくように」
これで終わりと立ち上がれば、メンバー全員も立ち上がって部屋を出て行った。
メンバーが出て行き、ドアが閉まる。
部屋に残ったイライザは同じく部屋に残っていたオルダージュに声をかける。
「で、実際はどうなんだ?」
「どう、とはなんのことだ?」彼女がなにを聞きたいのかわかっているのに、オルダージュは眉を上げて聞き直す。
だが、イライザは惚けられたことに腹を立てず、もう1度穏便な声で尋ねる。
「オルタージュ、メンバーには話してないことがあるでしょ。
どうしてメンバーが集まっているときに離さなかったのか知らないけど、私には話しなさいよ」
「わかったよ、さすがにおまえさんには話したほうがよさそうだな」
オルタージュは腕を組んで背もたれに体重を預ける。
「確かにわしは隠してることが1つある。しかし、この話には関係なかったから、話さなかった……」
どう言おうか迷って口ごもるが、やがて苦しそうに食いしばった歯の隙間から言葉を零した。
「姫が……、フラウディア様が討伐隊を組織しようとしている……」
「は、またとんでもないことを……」
やれやれと言いたげに肩を竦めるが、次の言葉に凍りついた。「どうして見つけたのか解らんが、よりにもよって一個大隊(800人規模の部隊)が守りを固めてる廃城だ」
「一個大隊、だと……!」
魔物の数を聞いたイライザは今までの余裕が消し飛び、椅子が引っくり返る勢いで立ち上がった。
「待て、地図にはそれだけの規模の兵隊など書いてないぞ!」
「姫の召使が会議の前に慌てて持ってきたんだ! それに何も知らない彼らに話すにはこちらも情報が少なすぎる!」
オルタージュも声を荒げて苛立ちを露わにする。
「斥候を送って詳しい様子を探らせているが、情報を得るには時間が掛かる」
「で、姫はいつ行動を起こすつもりなんだ?」
「わからん、姫も軍隊と相談しながら情報を集めてるようだ」
イライザは顎に手を当ててしばらく考えたあと、やがてぼそりと呟いた。
「それじゃあ、私たちができることをやるしかないわね……」
自分たちが出来ること。
「……うむ、そうだな」
オルタージュも同じことを考えていたのだろう。
彼も静かに呟いて頷いた。
さて、今回はティオが空気だったので、次は活躍させますぞ!