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ネル

戦闘が終了しました。

俺の精神も終了しそうです……。

鳥だった男はアイアン・パペットと同じ軍服を着込み、胸にいくつもの勲章をつけている。

そして黒髪をうしろに撫でつけ、顎髭を短く整えている。

男は腰に帯びたサーベルに触れて、うっすら笑みを浮かべる。


「なにを言ってるんだ……」

男とベルシグルの会話を離れた位置で聞いていたティオは訳がわからなかった。

そもそも、大規模な戦争は隣国のカジュルがドイル帝国に侵攻された10年前の話。

その時はヴィナード王国を含めた4つの国が同盟を結び、1年と半年以上の戦闘の末、ドイル帝国を国境に押し戻した。


もちろんティオは子供だったために参加することはなかったが、その悲惨さは戦争から帰ってきた大人たちから教えられてきた。


小さい頃はまだ戦争がどれだけ恐ろしいのかわからなかったが、話す男たちは目に涙を浮かべ、悲痛な顔をしていた。


だが、鳥だった男は口に笑みを浮かべてさえいる。


「戦争を始めるって? そんなの起こるわけないよ……」

ティオは自分に言い聞かせるように呟く。

その手にネルが手を重ねる。

ネルは悲しそうに俯いて呟く。

「戦争は、起こる。このままじゃ、起こる」

「どうして?」

なにを知ってるの?

そう尋ねたかったけれど、ネルはなにも言わないで前を向いてしまった。


男は見えない埃を肩から払いながら話を続ける。

「近いうちに我々は戦争を起こす。

が、いきなり言っても信じがたいだろうな。

ギルタスの廃城を調べてみたまえ。

私の言葉が本当だとわかるはずだ」

そう言って自身も縄に掴まる。

「誰が逃がすか!」アレイゴたちが捕まえようとしたが、頭上から銃弾が足元に撃ち込まれて牽制する。

見上げれば、胴体の長い甲虫かから降りたアイアン・パペットが射撃姿勢をとっていた。

男は上を指差して忠告する。

「今のは警告だ。次は全兵隊に撃たせる」

「待て、撃ったらこれが――!」

「そんな玩具が何だと言うんだ?」

ベルシグルが慌てて石を翳すが、男はどうでもいいと肩を竦めた。

「死ぬのは君たちと兵隊だけだ。私には利かんよ。

ま、兵隊が減るのは惜しいが、そっちが攻撃するつもりなら、私が爆発させよう」

男はホルスタ―から拳銃を抜くと、ベルシグルが持つ石に狙いを付ける。

ベルシグルは一瞬、動揺して体が固まったが、すぐに我に帰ってアレイゴに視線を向ける。

「軍警殿、ここは彼らに手を出さないでくれ」

「あんたが余計な事をしなければ出してたんだがな……」

アレイゴは眉間にしわを寄せてベルシグルを睨みつけるが、片手を上げて冒険者や軍警に攻撃しないように合図を出す。

「手を出すな。こいつらを行かしてやれ」

冒険者たちは悔しげに唸るが、そばに爆弾を持ったベルシグルがいるために動けなかった。


男は誰も攻撃しないことに――さらにはその悔しそうな表情に――満足すると、引き上げるために縄を一度強く引く。

「さて、それじゃ、私たちは帰らしてもらおう。ナギア?」

男は勝ち誇った表情を浮かべていたが、何時まで待ってもナギアが縄を掴まない。


不思議に思って振り返ってみれば、ナギアはつまらなそうに火の玉を掌で弄んでいた。

「どうした?」

「つまらねぇ」

「は?」

ナギアは頬を膨らませ、地面を蹴って不満を表す。

「だってよぉ、せっかく暴れられると思ったのに、勝手に話まとめて帰るんだぜ。

そんなのつまらねぇよ!」

ダンッと強く地面を踏むと、弄んでいた炎も共感するように燃え上がる。


ナギアはティオと軍警に護られているネルを睨みつける。

ナギアに睨まれたネルは体をゾクリと震わす。


ナギアは犬歯を剥き出しにして笑みを浮かべた。

「とりあえず、てめぇは殺す!」

「待て、ナギア!」

男がナギアの肩を掴んで引き留めようとしたが、ナギアはその手を振り払ってネル目掛けて投げた。


炎は槍の形に変わり、銃弾に勝る速度で撃ち込む。

ネルは目を身動きできず、迫る炎の槍を見ているしかなかった。

ティオがネルの体を掴んで地面に押し倒す。

炎がティオの前をかすめ、髪が焦げる。

炎の槍は背後の家を貫き、そのまま何軒もの家を壊していった。


地面に押し倒されたネルは自分にのしかかっているティオの服を、抗議をこめて引っ張る。

「重い」

「あ、ごめん!」

ティオは家に開いた穴を呆然としながら見ていたが、すぐに立ち上がってどいた。


ネルは表情を変えないまま、服についた埃を払ってから、ティオの顔を覗く。

「ありがとう」

「どういたしまして」

ティオはにっこり笑って頭を撫でた。


そこへ怒ったナギアが割り込む。

「てめぇ、なに邪魔してんだ!」

彼は苛立ちに地団駄を踏んで怒鳴る。

「おまえな、空気読めよ! 人が最後にスカッとして帰ろうとしてんのに邪魔すんじゃねぇ!」

「空気読めって……。訳わかんないこと言うな!」

「んだと!」

最初、ナギアの文句にポカンとしていたが、その理不尽な内容に怒りがこみあげてきた。

「人を殺してスカッとするなんて、馬鹿じゃないか!」

「てめぇ!」

カッとなったナギアがティオの胸ぐらを掴んで壁に叩きつける。

背中を強打して、強制的に肺から空気が押し出された。

ティオは壁に寄りかかり、衝撃に咽せる。

「雑魚は引っ込んでりゃいいんだよ。

バッカじゃねーの」

そう言って膝を突くティオを小馬鹿にする。

だが、ティオの目を覗き込むと、怯えもせずに見返してきた。「あ、なんだ、その眼は?」

ティオの目が気に入らないと

手を伸ばそうとしたが、突然服を捕まれて持ち上げられた。

「いい加減にしろ、ナギア」

背後からナギアの体を掴んだアーロイ・ナイトはそのまま荷物を扱うように肩に担いだ。

「てめっ! なにすんだよ!?」脱げ出そうと手足をばたつかせるが、アーロイ・ナイトはしっかり掴んで離そうとしない。


男は深く息を吐いてナギアを睨みつける。

「馬鹿者が。せっかく話が纏まりかけたのに、台無しにする気か」

そう言いながら横目でベルシグルたちを見る。


アレイゴたち軍警と冒険者は殺気立って武器を構え、ベルシグルは今すぐにも石を地面に叩きつけようとしている。


「とりあえず、言うことも言ったし、今日は戻るぞ」

男は甲虫に乗っている魔物に合図を出し、体を引き上げてもらう。

ナギアも舌打ちするだけで抵抗をやめ、アーロイ・ナイトに担がれたまま引き上げられていった。


アイアン・パペットは全員が乗り込んだことを確認すると、甲虫の頭を棒で叩いて出発の合図を出した。


アレイゴたちは甲虫の群れが遠のいていくのを見つめ、姿が見えなくなってからようやく武器を下ろした。

「とりあえず1難去ったが……」

アレイゴはベルシグルを見下ろす。

「どういう事だか説明してもらおうか」

下手にほかそうとするのは許さない。

見下ろすアレイゴと、ベルシグルを囲む軍警たちは無言で圧力をかける。

ベルシグルも隠すことは出来ないとわかっている。

彼は魔法を唱えて石の起爆状態を解除してポケットにしまう。


「まずは紹介をしておこう。私はベルシグルと言う。

アイアン・ドールたちから助けていただき感謝する」

ベルシグルは深く頭を下げて感謝を現すが、アレイゴはどうでもいいと手を振る。

「あいつらが街で暴れてたから戦っただけだ。

それよりどうしてあんたらが狙われたんだ?」

「私たちと言うよりお嬢様だな」

ベルシグルはチラリとネルに視線を向ける。

それに全員が釣られる。


ネルは自分が注目の的になっていることに構わず、ティオを心配して――表情が変わらないからわかりづらいけど――そばにしゃがんでいる。


「我々の同士にはジランという研究者がいた。

彼はゴーレムの研究をしていたんだが、彼は常に新しいタイプのゴーレムを開発していた」

「ジラン……。ああ、ゴーレムを召使代わりに使ってる変わり者の爺さんか」

心当たりがある冒険者がジランという人物を思い出して苦笑する。

他にも知っている冒険者たちは口々に賛同する。

「前にアイテムを届けに行ったことがあるんだが、彫像が洗濯やら掃除していて驚いたよ。

文句を言わないし、金もかからないから人間を雇うよりもいいんだとさ」

「そのジランが殺された」

「は? 殺された!?」

ベルシグルの言葉に、彼のことを思い出していた冒険者たちは驚いた。


ベルシグルは自分が見た光景を思い出しながら淡々と話す。

「家で首を撥ねられ、家にいたゴーレムも全部壊されていた。

金品には手が付けられていなかったが、研究室はひどく荒らされていたよ。

我々はなにが盗まれたのか調べていくうちに、彼が主にも報告せずに研究していた物があった」

そこで言葉を切って視線を落とし、黒焦げた赤い石を見る。

「自立行動ができるゴーレムの開発。命令を理解し、武器の扱い方と組織だった戦い方が出来ることを目指したらしい」

「じゃあ、あんたの仲間があの魔物を創ったのかよ!」

話を聞いていた軍警が怒りを露わにベルシグルの胸ぐらを掴む。

周りの人間たちも口々にベルシグルへ怒りの罵声を浴びせていく。

だが、ベルシグルは周囲から責められても平然としていた。

「ジランには幼い娘がいたが、病弱な為に常に高い薬が必要だった。

それに研究にも大量の金が必要になる。組織からの支援があったとしても、奴の生活は苦しかったはずだ。

なのに奴の家には多額の金があった。

奴は誰かと取引していたんだ。娘と研究、両方のためにな」

ベルシグルは自分の胸を掴む軍警の顔を覗く。

「結局、その娘も殺されたがな。ベットの上で心臓を貫かれていたよ」

その告白に軍警は言葉に詰まり、掴んでいた手の力が弱まる。

「名前はルリア。花が好きな子でな、私にも花飾りをくれたもんだ」

ベルシグルの目に黒い怒りの炎が宿る。

「ジランは主を裏切ったクソ野郎だが、あの子は死ぬべきじゃなかった……!」


アレイゴが軍警の腕を掴んでベルシグルの胸から引きはがす。

「で、あんたらはその研究者と取引していた奴を探してるわけだな?」

「残念ながら正体は掴めていないがな。が、我々はゾンビ、ゴーレムなどの研究をしている人間に聞き込み、彼らの研究物を買い取っている組織があることを突き止めた。

が、それからは魔物との戦いだよ」

やれやれとベルシグルは大袈裟に肩を竦める。

「こっちは4ヶ所の小基地を潰したんだが、代わりに3ヶ所の事務所が襲われてね。

おかげで20人以上の犠牲が出た」

「じゃあ、誰かがあの魔物を造ってるのかわからないまま、戦い続けているのか?」

「そんなところだ」


静かに聞いていたアレイゴは顎に手を当てて唸る。

「話を聞いていると、おまえさんたちも結構な組織みたいだな」

「ああ、聞いたことはあるだろう。

我々の主はシラバード」

「シラバード!?」

シラバートの名が出ただけで、周りから驚きの声が上がる。

「シラバートって、ガラムラサのボスか!」

「まじかよ、やばい奴が出てきたな……」


彼らの驚きが理解できないティオだけがキョトンとしていた。

「し、シラバートってネルちゃんのお父さんだよね。

そ、そんな凄い人なの?」

「マフィア」

「マフィア?」


アレイゴが参ったと大きく溜め息を吐いた。

「まさか、ヴィナード最大勢力のマフィアが関わってくるとはな……」

「え、マフィア? え? え?」

シラバート・イェニサール。

ヴィナード王国の南部にあるガラムラサを中心に縄張りを持つ巨大マフィアを治めるボス。

ネルがその娘だと聞かされても、ティオはその重大性を理解できなかった。

アーロイ・ナイト

姿はアイアン・ドールやシルバ・ヘッドに姿が似ているけれど、戦闘力は遥かに上のようだ。

目撃例がほとんど無く、情報はほとんどない。

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