凶獸、襲来
今回も主人公は出てきません。
けど、どっかのガンダムみたいに降板させないからね!
シルバ・ヘッドの操るモーニングスターは複雑な動きをする。
アレイゴの手前で落ちて地面に当たり、石を飛び散らせる。
そして大きく飛び上がって、頭上からアレイゴの脳天をかち割ろうと急降下する。
それを無造作に弾いたが、モーニングスターは鎖を鳴らして落ちる方向を足に定める。
「ぬぅ!」
咄嗟に足を下げ、モーニングスターを槍で叩いて防御した。
攻撃が失敗したシルバ・ヘッドは手首を返す。
モーニングスターが持ち主の手の元へ戻る。
アレイゴが大きく振りかぶって槍を投げる。
槍は風を切りながら飛んでいき、鉄球を受け止めようと伸ばしていた腕に直撃した。
腕が肘の部分で千切れ、黒い煙が吹き出す。
受け止められなかった鉄球はシルバ・ヘッドを通り過ぎる。
シルバ・ヘッドは鉄球がどこに落ちたのか確かめようとうしろを向こうとしたが、アレイゴが地面を踏みならしながら迫っていた。
「ふん!」
走る勢いのまま、シルバ・ヘッドの胸にぶつかっていく。
シルバ・ヘッドは腕をクロスさせて防御したが、受け止めきれず宙に浮いた。
すぐに両足を張って地面に着地したが、今度は首にラリアットをくらって倒れた。
アレイゴは起き上がる間も与えず、頭を踏みつぶそうと踵を振り下ろす。
が、シルバ・ヘッドは首を捻って避け、千切れた腕で足を殴りつけた。
鎧の裂けた部分が足に突き刺さる。
「ぬぅ!」
アレイゴが姿勢を崩す。
シルバ・ヘッドはうつ伏せになって立ち上がり、顎目掛けてアッパーカットを打ち込む。
アレイゴの頭がのけぞる。
シルバ・ヘッドの拳がアレイゴの腹に刺さる。
鎧の裂け目が刺さる度に血が吹き出す。
が、アレイゴは腹の傷をものともせずに首を掴み、そのまま押して壁に体を叩きつけた。
そして連続して兜を護る頭を殴りつける。
兜が凹み、空いた隙間から煙が吹き出す。
頭の形が変わりながらも、シルバ・ヘッドが目をえぐろうと伸ばした指を突き出す。
アレイゴは突き出された指を掴むと思い切り捻り上げる。
指が折れ曲がり、また煙が吹き出した。
そのまま両手で掴み直し、ぐるりとシルバ・ヘッドの体を振り回して壁に叩きつけた。
木の壁が衝撃に耐えきれず、派手に音を鳴らして壊れた。
シルバ・ヘッドはすぐに立ち上がって、壊れた壁から入ってきたアレイゴに突進する。
アレイゴも正面から突進を受け止めると、2人は腕を組んでそのまま押し合う。
鎧が音をたてて軋み、金属の指が肉に食い込む。
しばらくは拮抗して動きはなかったけれど、少しずつ、少しずつシルバ・ヘッドの体が押されて床を滑っていく。
そしてついにはバランスを崩して押されるままに壁に叩きつけられた。
壁が衝撃に軋み、ヒビが生まれる。
アレイゴは胸当て部分を掴んで立ち位置を入れ替え、思い切り突き飛ばす。
「これで仕舞いだ!」
腕の筋肉が盛り上がる。
さっきまでより倍近く膨れ、血管が太く浮き出ている。
アレイゴは膨れ上がった腕に手を添えると、助走をつけてラリアットを食らわす。
壁にぶつかったシルバ・ヘッドは避けることが出来ず、頭を庇うために無事な腕を翳す。
だが、その破壊力は凄まじく、防御しようとした腕が呆気なくひしゃげ、勢いも衰えないまま兜に直撃。
大きく中に陥没し、コアも砕け散った。
頭部を無くしたシルバ・ヘッドの胴体がひび割れ、床に倒れる前に塵になって消えた
「思ったより手間取ったか」シルバ・ヘッドの消えた跡を眺めながら呟いたアレイゴは体についた埃を払いながら家を出る。
外では未だに戦闘が続いているが、流れは完全に人間側になっていた。
中央で冒険者たちが奮闘し、前後を隊列を崩さない軍警たちに挟まれている。
集団で行動できなくなった魔物たちは囲まれ、各個撃破されていく。
その様にアレイゴは顎に手を当てながら呟いた。
「あとは残党狩りだけだな」
1体のアイアン・ドールが襲いかかってきた。
銃身を持ってマスケット銃を棍棒にして振り下ろす。
アレイゴはマスケット銃を片手で簡単に受け止める。
そして、もう片方の手で相手の頭を掴むと同時に足を払い、アイアン・ドールの頭を地面に叩きつけて潰した。
隊員たちに保護されていたティオは魔物の群れが討伐されていく様に息を飲む。
1体1体が強い魔物に対して、複数で連携して戦う冒険者の姿はティオが目指すべき形であり、強い憧れがあった。
「僕もチームを組みたいなぁ」
特に効率よく魔物を倒していくチームを羨ましそうに眺める。
「うっわ、シルバ・ヘッドもやられてんじゃん。だっせーなぁ」
戦闘から離れた家の屋根から眺めていた、顔にタトゥーを入れた少年は嘲りの目で見ていた。「纏める頭が無ければ当然だ。せめてシルバ・ヘッドに指揮権を与えるべきだったな」
「知らねぇよ。どっちにしたって役にたたねぇよ」
「適当だな」
「うるせーな」
少年は苛ただしげに自分を叱責する存在を睨みつける。
少年の隣で羽を休める4つ目の黒い鳥は睨まれても、素知らぬ顔で前を向いている。
「そもそもだ。前回の襲撃で貴様自身が行けば、これだけの無駄な損失は出さなくて済んだ。
またキュトロスからうるさく言われるぞ?」
「あの武器マニア? あいつ嫌いだし」
「嫌いな奴にネチネチ言われたくなかったら真面目にやるんだな」
鳥は嘴で羽の手入れをする。
「ま、あの小娘はどうでもいいがな」
「いいの?」
少年が意外だと言いたげに遠くを指す。
彼の目は何十メートルと離れた人混みの中でも、隊員とベルシグルの部下に護られたネルを捕らえていた。
「ああ、もういい。これ以上の損害を出すほどの価値はない。
主も殺せれば良しとしか思ってないからな」
「え―、ならここまで来る意味ねぇじゃん」
損をしたと少年は寝転がって唸る。
だが、次の言葉に彼はやる気を出した。
「しかし、これだけやられて帰るのも癪だ。
ナギア、少し暴れてこい」
その言葉に脱力していた少年、ナギアは勢い良く体を起こす。
「いいの!?」
「ああ、だがやりすぎるなよ。兵隊の回収していくらか殺したら帰ってこい」
「よっし、じゃ、行ってくる!」
「合図はアーロイが出す。言うこと聞かなかったら斬らせるからな?」
「……わかったよ」「けっこう、では、程々にな」もう話すこと無くなると、鳥の体が水に溶け込むようにして消えた。
ナギアは立ち上がると、体をほぐすために腕をブンブン振り回す。
その表情は喜々としていて、遊びに行く子供のようだ。
「いいか、おまえらは邪魔すんなよ」
そう釘を刺すのは、今まで彼らのうしろに控えていた魔物の護衛。
彼らは無言のまま、じっと彼の顔を見ている。
ナギアも返事を期待していなかったから、軽く鼻を鳴らしてさっさと屋根から飛び出した。
戦場目指して屋根から屋根へと飛び移っていく。
遠巻きに戦闘を見ていた人々は驚いて上を見上げるが、ナギアたちはとっくに通り過ぎていた。
「行くぜぇ!」
ナギアは叫びながら屋根を蹴って、戦場の真ん中に飛び込んでいった。
自分たちのほうへ飛んでくる存在に気づいた冒険者が驚いて口を開けたが、全身が炎に飲み込まれて言葉は出なかった。
ナギアの右手から生まれた炎は味方である魔物も巻き込んで冒険者たちを焼いていく。
人間松明になった冒険者たちは悲鳴を上げることも出来ないまま悶え、やがて力尽きて倒れて動かなくなった。ナギアは叫びながら屋根を蹴って、戦場の真ん中に飛び込んでいった。
「な、なんだ! 新手か――!?」
ナギアの乱入に驚いた隊員の体の頭が吹き飛ぶ。
隊員の頭の中身を浴びた仲間たちが呆然となりながらうしろを向こうとしたが、薙ぎ払った金棒に頭を潰された。
アーロイ・ナイトは武器についた脳漿を振り払う。
「なんだ、こいつ……!」
「新種の魔物か!」
冒険者たちは初めて見るアーロイ・ナイトの姿に戸惑う。
全身を紫色の鎧に身を包み、光る赤いラインが走っている。
1体は片手で身の丈ほどもある金棒を振り下ろして、逃げようとした軍警を盾ごと潰した。
もう1体も着地して立ち上がる動作のなかで、冒険者と軍警を切り刻んでいた。
武器は2刀の湾曲した剣。
剃刀のような切れ味で人間たちを撫で斬りにした。
動きが明らかに違う。
また1人、怒声を上げて斬りかかるが、アーロイ・ナイトは片方の剣の腹で刃を受け流し、通り過ぎようとした冒険者の腹を裂く。
そして腸が切り口から零れるより早く首をはねる。
その無駄のない動きに、続いて立ち向かおうとした冒険者たちも尻込みしてしまった。
明らかにアイアン・ドールやアイアン・パペットよりも、もしかしたらシルバ・ヘッドよりも強いんじゃないのか……。
アーロイ・ナイトを前に、冒険者たちは誰から行くか目配せする。
それにアーロイ・ナイトと一緒に降りてきたナギア。
子供がなんでいるのか、なんで魔物と一緒にいるのか気になるが、それよりも、ナギアから発せられる殺意。
まるで大型のモンスターを前にしたようなプレッシャーに圧倒されて息が詰まる。
ナギアは獰猛な笑みを浮かべ、掌で燃える炎を指先に移してクルクル回す。
「どうしたよ? せっかく来たんだから遊んでくれよ」
そう言って挑発するが、冒険者たちは近づこうとしない。
「なんだよ、来ないのかよ?」
誰もかかって来ないことに不満を表すが、すぐに笑みを戻した。
「来ないんなら、俺から行くぜ!」
指先で踊らせていた炎が大きくなる。
ナギアはアンダースローの要領で炎を投げた。
ベテランの冒険者が咄嗟に魔法壁を張る。
「下がれ!」
危険な存在と判断した冒険者は仲間たちに叫ぶが、駄目だった。
一気に大きくなった炎は魔法壁にぶつかって一瞬だけ止まったが、すぐに魔法壁を溶かして人間たちを炭に変えた。ナギアは腹を抱えて、おかしそうにケラケラ笑う。
「バッカじゃねーの! 俺の炎を防げるわけねーじゃん!」
人間たちは嘲られてもなにも言い返せず、炎が通った跡に絶句していた。
炎は人間たちの後ろに建っていた家を3軒も爆砕し、そばの家も崩れて燃えていた。
その様を見ていた1人がぼそりと言葉を漏らした。
「やばい……」
そう言って、1歩、2歩と後ずさりしたかと思ったら、振り返って走り出した。
「お、おい!」
「俺も逃げる!」
1人の逃亡が切っ掛けに、次々と逃げ出す。
「おい、押すな!」
「五月蠅いわね! さっさと退きなさいよ!」
軍警も逃げようとする冒険者に押されて、なんとか保っていた隊列も崩れ出す。
逃げようとする彼らを逃さないと、まだ残っていた魔物が襲いかかる。
「よーし、もう一発!」
少年ももう一発撃とうと炎を出すが、アーロイ・ナイトに肩を掴まれた。
「あ?」
ナギアは不機嫌にアーロイ・ナイトを睨みつけるが、アーロイ・ナイトは怯えることなく彼の背後を指差す。
ナギアが魔法を撃とうとした先には逃げる人間を追う魔物もいる。
先ほどの魔法を撃てば、彼らも巻き込まれる。
だが、ナギアには我慢する理由にはならない。
「うるせぇなぁ。別に10や20、どうでもいいだろ」
そう言って、手の内に留めていた炎を投げようと――脳天に振り下ろされる金棒を殴りつけた。
鈍い音をたてて金棒が地面にめり込む。
ナギアは怒りにこめかみをひくつかせながらアーロイ・ナイトを睨む。
アーロイ・ナイトは叩き落とされた金棒を手首を返して、再び必殺の一撃を食らわそうと持ち直す。
さらにもう1体のアーロイ・ナイトも、彼を挟み込む立ち位置を選んで剣を構える。
「てめぇら、殺されてぇの?」「殺されたいのはおまえだろ?」
「あ?」
ナギアとアーロイ・ナイトが声のしたほうへ視線を向ければ、槍を回収したアレイゴと軍警の中でも実力のある隊員と冒険者が囲んでいた。
「何の目的だが知らないが、これ以上好きにさせねぇぞ」
そう言って1歩前に踏み出す。
他の人間も身構える。
「は、弱い奴が吠えてんじゃねぇよ。
死にたくなかったら引っ込んでな」
ナギアも両手の炎をかざし、好戦的に笑みを浮かべる。
アレイゴがこめかみに血管を浮かべてナギアを見下ろす。
「子供が生意気なのはしょうがねぇが、調子に乗りすぎるとお仕置きがきつくなるぞ」
「やってみろよ」
「いや、2人ともやめるんだ」
アレイゴとナギアの間にベルシグルが割り込んだ。
シルバ・ヘッドにモーニングスターで投げ飛ばされたために服がボロボロになっているが、体には傷が見当たらない。
最初、ナギアは訝しげにベルシグルを見ていたが、やがて思い出して両手をパンと叩いた。
「あー、おまえジャノフの手下だろ! まだ生きてたんだ!」
「ああ、部下は殆ど死んでしまったがな」
ベルシグルは僅かに視線を落とす。
生き残っている部下は僅か3人、しかも1人は胸に銃弾を受けて死にかけている。
「今回は」「何の目的だが知らないが、これ以上好きにさせねぇぞ」
そう言って1歩前に踏み出す。
他の人間も身構える。
「は、弱い奴が吠えてんじゃねぇよ。
死にたくなかったら引っ込んでな」
ナギアも両手の炎をかざし、好戦的に笑みを浮かべる。
アレイゴがこめかみに血管を浮かべてナギアを見下ろす。
「子供が生意気なのはしょうがねぇが、調子に乗りすぎるとお仕置きがきつくなるぞ」
「やってみろよ、おっさん」
自分の倍以上のアレイゴを前にしても、ナギアは中指をたてて挑発する。
互いに必殺の間合いに入っている。
2人は緊張を高め、タイミングを図る。
「2人とも待つんだ」
が、彼らの間にベルシグルが割って入った。
邪魔をされたナギアが不機嫌に舌打ちする。
「ジャノフの手下は引っ込んでろよ。
もう、お前等に用はねぇよ」
「そうはいかない」
シルバ・ヘッドに投げ飛ばされたために服がボロボロになっているが、体に傷は残っていない。
彼はしっかりした足取りで、無謀にもナギアの目の前まで歩み寄る。
「おまえが暴れるとネルさまが危ないんでな。
大人しく帰ってくれ」
「やだね。これで帰るなんてつまらねぇよ」
「だろうな」
ベルシグルは懐から拳より小さめの物が入った袋を取り出す。
袋から取り出したのは石。
ベルシグルは口元に持ってきて呪文を唱えると、透明だった石が真っ赤に染まりだした。
「もし、この石に衝撃を与えたら、この周辺が灰燼となるぞ」
「はぁ!?」
人間たちが驚き、信じられないとベルシグルが掲げる石をマジマジと見る。
「魔法でも同じだからな。いくら貴様らでも無事ではすまない。
このまま大人しく帰ってくれ」「ハ、やなこ――「わかった」
ナギアが鼻で笑って否定しようとしたが、いきなり彼の肩に鳥が表れた。
「我々も小娘を襲うメリットはなくなった。
どこへ行こうか好きにするがいい」
「おい、なに勝手にオーケーしてるんだよ!」
勝手に了承されたことに腹を立てたナギアが文句を言おうとしたが、逆に鳥に睨まれてしまった。
「勝手なのはおまえだろう。兵隊を灰燼するはずなのに、なにやっているんだ?」
そう言って、器用に羽でナギアが炎で薙ぎ払った場所を指す。
そこには黒焦げた残骸しかないけれど、巻き込まれた魔物の数は少なくはない。
鳥は溜め息をついて首を振る。
「まさかここまでやるとはな……。もういい。兵隊の回収は私がする」
空から虫の重低音な羽音が響く。
見上げてみれば、一軒家ほどもある巨大な甲虫が5匹、町の上を飛んでいた。
「な、なんだ、あれ?」
「でけぇ!」
甲虫に乗っているアイアン・パペットが縄を垂らす。
地上で人間と対峙していた魔物は垂れてきた縄に捕まり、そのまま引き上げられていく。
「さて、私たちは大人しく帰るが、せっかくだし伝えておこう」
魔物が回収されていく様を眺めながら、鳥は忠告しておく。
「戦争の準備をしておくことを進めておくよ。
私たちは出来ているよ。軍靴と銃で、国と民と兵隊を蹂躙する準備がね」
「なっ!?」
アレイゴが信じられないと思わず声を漏らす。
「それはどういう事だ! 人間と魔物が戦争をするということか?」
「それは違う」
鳥の姿が変わる。
粘土のようにぐに゛りと形が歪になりながら大きくなっていく。
「魔物に戦争をする知恵なんてない。人だけが戦争を出来るんだ」
完全に人の形になった鳥はそう言って、目がある太陽が描かれたマントを翻す。
モンスター紹介
アイアン・パペット
アイアン・ドールよりも軽装で銃撃戦に向いた格好をしている。
最近、冒険者ギルドに報告されたばかりの存在で、アイアン・ドールみたいに無差別に出てくるのではなく、遺跡や廃城など、護りに適した場所にいるらしい