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再会

もうすぐ、もうすぐ会社の研修が終わる!!

ティオたちが時間を潰していると、ベルシグルと同じ格好をしたエルフの男が入ってきた。

「ベルシグル殿、お嬢様のいる場所がわかったそうですが……」

「そうだ、いま警察が調べていてな。あと少し待てば居所がわかる」

ベルシグルは2人を紹介する。「ティオ君、紹介しよう。彼はロキシー。私の同僚だ。

ロキシー、彼はティオ君。お嬢様の場所を教えてくれた人だ」「そうか、感謝する」

ロキシーは彫りの深い顔を変えないまま、小さく頭を下げると、すぐに視線をベルシグルに戻す。

「警察には部下を送ってある。

場所がわかれば、先に2人を送ってお嬢様の身を保護するように命じてある」

「応援は来てるのか?」ベルシグルの問いに、ロキシーはうっすらと笑みを見せた。

「剣士4人と魔道士4人」

「なるほど、そりゃ頼もしいな」

頭の中で人数と配置を考えながらベルシグルは呟いた。


それから咳払いを1つすると、ティオに申し訳ないと眉を顰める。

「ティオ君、我々はこれからお嬢様を迎えに行くんだが、すまないけれど、ここからは我々だけで行動したい」


「え?」

てっきり自分も行くと思っていたティオは驚いて2人を見る。「すまないが、なるべく目立たないようにしたいにしたい。

だから、すまないが、君に動向して貰うわけにはいかない」

「で、でも、せっかくだから僕も――」断られると思っていなかったティオは動揺に目を泳がしながら言おうとしたが、ロキシーがはっきりと切り捨てる。「これは我々の問題だ。きみが参加する必要はない」

余所者は来なくていい。

言葉を変えながらも、意味を理解したティオは言葉を失う。

「これは僅かだが、礼として受け取ってくれ」

ティオの前に金を置いたロキシーはもう話すことはないと背を向けてカフェを出て行った。

彼の後を追いかけるためにベルシグルも立ち上がる。

「すまないな。だが、我々も彼女を護らなければならんのだ」

さらに言葉を続けても、彼は納得してくれないだろう。

申し訳ないと思いつつ、ベルシグルも出て行った。

会計するときに、ティオにケーキでも食べさせてやってくれとこっそり頼んでおいた。


店を出たベルシグルたちを3人の男女が待っていた。

ベルシグルはその内の1人、斧を持った肩幅が広い人族の剣士に話かける。

「場所はわかったのか?」

「はい、メリーラン教会です」

剣士はメリーラン教会の場所に印をつけた地図を渡す。

ベルシグルは素早く地図全体を見て、頭の中に複数のルートを思い描く。

そして削除、合体しながら一番いいルートを思案して地図に書き込む。

ベルシグルは部下たちに出来上がった地図を見せる。

「覚えたか?」

「はい」

全員が道を暗記して頷くと、ベルシグルは魔法を唱え、地図を一瞬で灰にしてしまった。「よし、それでは向かうが、いいか、我々は一度襲撃を受けている。全員、油断することがないようにな」

ベルシグルは全員に頷いてみせると、孤児院を目指した。


******


あれからカフェを出たティオはふてくされながら街を歩いていた。

出されたケーキは中がずっしりしていて濃厚な味わいの凄い美味しいものだった。

村で食べたことがない美味しいケーキのおかげで機嫌は良くなったけれど、完全に直ることはなかった。


あんな突っぱねるように言わなくてもいいじゃないか……。


ロキシーの人を見下した態度に腹を立てながらも、自分もなにか言い返せなかったことに後悔していた。

が、いくら言葉が浮かんでも後の祭り。

しょうがないから、街を歩いて気分を変えることにした。


まずは足りなくなってきたアイテムを調達しにいく。

そのあとは武器屋に行っていろんな武器を見さしてもらう。

適当に予定をたてながら、近くの店を覗きにいく。


冒険者が利用するような店は少ないけど、保存の利く食べ物が売ってある。


店に入ると、頭頂部が禿げ上がった店主が元気な声で挨拶をする。

「いらっしゃい!」

「こんにちは―」

ティオも挨拶を返しながら、店に並んでる商品を眺める。

塩漬けにした肉や干し魚も並んでる。

それに大きな壷がある。

紙には砂糖漬けの果物数種類の名前が書いてあった。値段は高めで、興味本位で買うにはティオの財布には厳しい。と言うか、なんで砂糖まみれにしただけの果物がこんなに値を張るのかがわからない。


じっと眺めていると、店主が苦笑いさながら話しかけてきた。

「兄さん、もしかして誰かのお使いじゃなくて、なんの気無しに入ったのかい?」

「ええ、まぁ、そうですけど……」

「ここは貴族が利用する場所なんだ。

だから他に比べて高いんだよ。質もいいんだけどな。

向こうにある店は手頃な値段だから、そこで買い物するといい」

そう言って何軒か離れた店を指差す。

その店には表に野菜が並んでいて、女主人が元気よく客とやりとりしていた。

「わかった。あっちに行ってみるよ」

ティオは店主に言われた通りにその店を目指した。


女主人は街道を進む人々を呼び込みながら、品定めする客に強く商品を勧めていた。

「おや、お兄さん。ここじゃ見ない顔だね?」

ティオに気づいた女主人がさっそく呼びかけた。

「うん、こっちにはあんまり来たことないんだ」

「なら見ていっておくれよ。ここには新鮮な野菜と果物があるよ」

「うーん、保存の利く物ってあるかな?」

「それなら奥にピクルスがあるよ」

そう言って店の中を指差した。「異国の漬け物もあるよ」

「異国の漬け物?」

中を覗いてみれば、たくさんの野菜に、瓶に漬けられたらピクルスが棚に並んでいる。


ティオが食べるピクルスは胡瓜や人参だけど、棚に並んだピクルスは何十という数が並べられてる。

どれも知っている食べ物だけど、それを漬けるなんて考えたこともなかった。

いったい、どんな風に味が変わるんだろうか?


それに親切なことに、それぞれのピクルスをどんな風に調理すればいいのかが書かれた紙が壁に張られている。

ティオは紙を見ながら興味を惹いた物を選んで女主人に声をかけた。


「すいませ―ん、これくださ―い」

「あ、ごめんね。ちょっと待っててくれる?」

買う物を決めたティオは商品を手に女主人に声をかけたが、女主人は大きな袋に野菜や果物を入れるのに忙しくて対応できない。

しかも相手をしている女の子が「それじゃなくって、あの大きなほうください」と注文が多い。

仕方ないので、もう1人いる店員に頼もうとしたが、小さな声が聞こえた。


「あ」

声をしたほうを見てみれば、女主人とやりとりしている女の子と手をつなげた銀髪の女の子――ネルと目があった。

「撃たれた冒険者」

ネルがティオを指差した。

「久しぶりだね、覚えててくれてたんだ」


まさかこんな所で会えると思っていなかったティオは驚きながら、ネルが自分を覚えていてくれたことが嬉しかった。


ネルは可愛らしいワンピースを着て、頭に花の髪飾りをつけている。

ネルは無表情のまま、ティオの撃たれた場所を指差す。

「大丈夫?」

「うん、すっかり治ったよ」

「そう、なら、よかった」

ティオが言葉通り、もう大丈夫なんだと知るとネルは嬉しそうに口元が綻んだ。

「今日は買い物に来たの?」

逆に訪ねてみれば、ネルはコクリと頷く。

「マーレと買い物」

そう言って、ようやく満足のいく買い物を終えた女の子を見る。

「こんにちは」

一杯になった袋を両手で持ったマーレがお辞儀をする。

「お兄さん、ネルちゃんとお知り合いなの?」

「前に一度だけ会っただけなんだけどね……」

「魔物に撃たれて倒れてた」

「ちょ!?」

もっと他に紹介の仕方があるだろうと抗議したかったが、残念ながら襲撃の際、ティオがどう活躍したのかネルは知らない。ネルはなにか違うのかと言いたげに首を傾げる。

「そうだったんだ。大変な目にあったのね……」

マーレが同情するような目でティオを見る。


ティオはもう、いいやと溜め息をついた。

「そうだ、きみを探してる人たちが孤児院に行ってるよ」

「パパ?」

「うーん、そんな感じじゃなかったな」

ネルは顔に指を当てて考える。

「じゃあ、ベル?」

「ベルって、ベルシグルさんのこと?」

どうやら正解のようで、ネルは嫌なのか眉に小さな皺が寄る。

「ベル、すぐ怒るからいや……」

「あぁ……」

ネルの言い分にティオも納得した。

が、人の悪口はいけないとマーレがネルを叱る。

「そういうことは言わないの」

「でも、すぐ怒るもん」

ネルはぷいと顔を背ける。


ネルの様を見ていたティオはつい笑ってしまった。

ネルは感情は豊かなのに、それを表情に出すのが少ない。

それがおかしくて、つい笑ってしまった。


「それじゃ、お客さんが来るんだから早めに帰ろう」

「けっこう重たそうだけど、大丈夫?」

孤児院まで持っていこうかとティオは手を差し出すが、マーレは首を振って断る。

「大丈夫。いつもこれぐらい持ってるもん」

「私も持つもん」

「あ、こら!」

ネルはどこからともなく袋を取り出すと、マーレが止めるのも聞かずに野菜を入れていく。

「ネルちゃんも手伝うなら大丈夫か」

そう言って優しく撫でようとしたが、指が髪に触れる所で止まった。


どうして手を止めたのか不思議そうにネルとマーレがティオを見るが、ティオは彼女たちの後ろを見ていた。


あれは、兵隊……?

路地裏からふらっと出てきた存在にティオは眉を顰めた。

濃紺色の軍服。

スパイクのついた兜に顔を隠す鉄仮面。

肩に担いだ小銃。

人の流れに逆らうように道の真ん中に立ち止まると、周囲を見渡す。

周囲の人は迷惑そうに、または奇異の目を向けるけれど、兵隊は気にもせずに首を左右に動かす。


ティオは兵隊から目が離せなかった。

なぜか分からないけれど、全身が緊張で強張る。

まるでモンスターを前にしたような――。


アーロイ・パペットがマスケット銃を構える。

ティオは咄嗟にネルとマーレを地面に押し倒した。

「キャ!?」

マーレが上げた短い悲鳴は乾いた破裂音と、かき消される。


外れた銃弾が壁に穴を穿った。

「撃った!? こいつ撃ったぞ!」

いきなりの発砲に周囲の人間が悲鳴を上げてアイアン・パペットから離れる。

アイアン・パペットはすぐに次弾をカルカ(銃弾を奥に押し込むための棒)で押し込む。


ティオは急いでネルとマーレを起こす。

「逃げるよ!」

2人の背中を叩いて、ティオもアイアン・パペットから逃げる。

その背を銃口が追いかける。


男がティオとアイアン・パペットの間、射線上に割り込んだ。

不幸な男は腹から血を吹き出し、悲鳴を上げて倒れた。

人が撃たれて群集のパニックが大きく膨れ上がり、我先に逃げようと他人を押しのける。


「あ……」

マーレが背中を押されてバランスを崩してしまい、袋を地面に落としてしまった。

ティオは慌てて野菜を拾おうとしたマーレの手を掴む。

「野菜が……」

「早く逃げるよ!」

人混みに紛れ込むように走る。

アイアン・パペットは射撃の姿勢をとるが、人が邪魔で狙いが定められない。


ティオは先を走るネルを見る。

ネルは少しも恐れず、余所見もしないで走っている。

が、ティオの問いたげな視線に気付いて振り返る。

「あれは、きみを狙ってるの?」

ネルは考えるように視線をずらしたが、すぐに頷いた。

「たぶん、私」

「なんで――」


3発目の銃声が響き渡る。

「ぎゃあ!」

今度は主婦が肩から血を流して倒れた。


「――!」

「早く逃げよう」

こんな街の中でマスケット銃を撃つアイアン・パペットを止めに行こうかと、ティオは振り返りかけたが、ネルがその手を掴む。

「戦ったらダメ、逃げて」

「でも!」

ネルはチラッとアイアン・パペットを見てから、ティオと目を合わせる。

「あなたはマーレを助けて」

「え?」

ネルはティオたちから離れて、1人、人の少ない細い道に走り出した。

ターゲットを逃すまいと、アイアン・パペットも後を追いかける。


「ネルちゃん!」

マーレも走りだそうとしたが、ティオにむりやり抑えられる。

「離してよ! ネルちゃんが殺されちゃう!」

「僕が追いかける!」

ティオはマーレの肩を強く掴む。

「だから、きみは助けを呼んで来るんだ。いいね?」

マーレはしばらくティオの顔を見ていたが、やがてコクリと頷いた。

「ネルちゃんを、助けて……」

「もちろん!」

そう言って、ネルを追いかけるために走り出した。

新しい敵キャラ登場。

次回はドンパチ逝きますよ―!

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