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セレハートのお願い

はい、3人でレビを見に行きますよー。

警備室に入ると兵士と遊んでいたレビがすぐに反応して、ティオのもとへ駆け寄ろうとしたが、セレハートとハンクがティオの後から入ってくると、顔を顰めて離れてしまった。

兵士の机の下に隠れて、ぷいっと顔をそむける。

あからさまに嫌がられて、セレハートも苦笑するしかない。

「うーん、やっぱ薬の臭いがきつすぎるかー。もふもふしたかったのになー」

試しに手を伸ばしてみるけれど、この間と同じように牙を向いて威嚇されてしまった。

「ほら、そんなに嫌がらないのって、え……?」

ティオが宥めようと手を伸ばす。

レビは鼻を伸ばして指し出された掌を嗅ぐと、困った顔でティオの顔を見上げる。

「え、ちょ、どうしたの?」

思わぬ反応に困惑しながら、もう1度指し出してみれば、頭をそむけて避けてしまった。

ティオはレビがどうしたのか理解できず、困惑して避けられた手を見る。

その様子を見たハンクが肩をすくめる。

「き、きっと、研究所の臭いを嫌がってるんだな。だ、だが、君は短時間しかいなかったから、すぐに取れるはずだ」

ティオを慰めながら、ハンクは目を輝かしてしゃがんでレビを観察する。

「おぉ、確かに色が違うな……。な、なにか他に違いは……おっと!」

もっと近づいてみようとしたらレビが牙をむき出して唸りだす。

ハンクは慌てて後ろに下がり、ティオとセレハートに笑って見せた。

「だ、だ、大丈夫、大丈夫。さっき言ったことは忘れてないよ」

そう言って安心させるように胸の前に手を上げてアピールしても説得力がない。

セレハートは呆れたように溜息をつき、ティオはじどっとハンクを睨む。

彼は忙しなく手をすり合わせながら視線を動かす。

「あー、し、しかし、本当に珍しい色の毛並みだな」

そう言いながらレビにもう1度触れようとしたら、口を大きく開けて噛みつこうとしたので引っ込めた。


レビも本気で噛むつもりはないらしく、ハンクが手をひっこめると威嚇するのをやめた。

「そ、そんなに警戒しなくてもいいのに……」

ハンクはぶつぶつと文句を零しながらティオたちのうしろに下がる。


「ほら、一応悪い人じゃないから、そんなに怖がらないで」

ティオがなんとか機嫌を良くしようとお腹を撫でてあげても、レビはプイッと顔をそむけてしまう。

「ほら、嫌がらないの……」

「ま、しょうがないっか。臭いはどうしようもないもんね」

そう呟きながら、ちらりと同僚を見る。

ハンクはポケットからメモ用紙を取り出すと、忙しげになにか書きこんでいる。

興味本位に覗き込んでみれば、一般的なゼルビッドとの違いや自分の予想を書いている。

わずかな時間でよくこれだけ書けるものだとセレハートは感心してしまった。

「あなた、よくそんなに書けるわね」

そう言いながらハンクの手からメモを奪って書いてあることをよく見る。

「ん、この子、他の子と毛並の模様が違うの?」

「そ、そうだよ。首回りや尻尾の模様が違うんだ。だ、だから病気で色が変わったんじゃなくて、生まれ持っての特徴なんだろうね」

「ふーん、観察はほどほどにしておきなさいよ? また噛まれても知らないからね」

「わ、わかってる」

ハンクはメモ用紙を奪うようにセレハートの手から取り上げてポケットにしまった。

そして尻の噛まれた古傷を庇いながら、レビから距離を取る。


「そ、そ、それより、君も彼に頼みたいことが、あ、あるんだろう?」

「ええ、そうよ」

このタイミングで言うことじゃないけど……。

そう言いかけた言葉を飲み込んで、ティオにその頼みごとを話す。

「実はね、ティオ君。あなたにお願いしたいことがあるの」

「お願い、ですか?」

「そう、トールと一緒にモンスターの素材を持ってきてほしいのよ。

詳しい話はそうね、事務のほうでしましょう。

そこなら薬品の臭いも薄いから、あーっと、レビ君だっけ? 彼も大丈夫よ」

「わかりました。ほら、行くよー」

寝そべってリラックスしきっているレビに声をかけて起こす。

それから今まで預かってくれていた兵士に礼を言う。

「預かってくれてありがとうございました」

「なぁに、こういうのも仕事だからな。おまえもまた遊びに来いよ」

兵士は二カッと笑ってティオとレビに手を振ってくれた。

レビも兵士のことが気に入ったのか、元気よく吠えて返事をした。


事務は研究所の入り口にあり、セレハートの言うとおり薬品の臭いもコーヒーや紙の臭いで消されていた。

レビも大丈夫なようで、行き来する職員や物を忙しなく目で追いかけている。

「それじゃあ、そこの椅子に座って待ってて」

セレハートはティオとハンクを待たせて、眼鏡をかけた太り気味の職員に声をかけた。

「ブル、クエスト依頼書持ってる?」

「ん、あるよ。ちょっと待っててくれ」

ブルと呼ばれた職員は机の上に積んだ書類の束から目的の紙を見つけ出す。

「後ろの子に依頼するのか?」

そう言って、来客用の椅子に座っているティオへ顎をしゃくる。

「ええ、そうよ。あ、大丈夫よ。トールもつけるから」

「それでもまだ子供じゃないか。死ぬんじゃないか?」

「大丈夫よ。ああ見えて、結構度胸はあるわよ」

「そう言って死んだら、おまえさんのせいになるんだぜ」

そう言いながら紙を渡す。

「もう、馬鹿にしないでよね。そのぐらいわかってるわ」

セレハートは怒ったふりをしながら受け取ると、椅子に座らせたティオのほうへ向かう。

「おい、わかってる人間はそんなクエストしないぞ」

ブルが離れていく背中に忠告をしても、彼女は手をひらひら振るだけだった。


「はいはい、お待たせ。それじゃ、任せたい依頼の説明をするわよ」

セレハートはクエストの説明を始めた。

「君にお願いしたいのはコボルコングの捕獲。生きたままこの研究所に連れてくるの。

いい? 捕まえるのは1匹でいいから、絶対に殺しちゃ駄目よ。成功すれば討伐よりも多く報酬を払うからね」

そう言ってコボルコングの資料を見せる。

筋肉が盛り上がった、頭が禿げ上がった猿が描かれている。

これがコボルコングらしく、危険度は星2。

見た目の割に食べる物は果実で、特定の範囲を縄張りに持つ。

群れは6~7匹で行動するが、大きい場合は20を超えることがある。

そして群れが大きいほど統率するリーダーも強く、危険度は3に上がるほどだ。


クエスト内容はコボルコング1匹の捕獲。

報酬は6500エルク。

コボルコングを最低でも1匹は生きて街まで連れてくること。

死体を連れてきた場合はクエスト失敗と判断。生きていても損傷が激しいと報酬は下がる。

逆に捕獲した数が多ければ報酬は倍加し、強い個体の場合――判断は研究員がする――もプラスされる。


「報酬は6500エルク。あなたにとってはいい額だと思うんだけど、どうかしら?」

「1匹だけ連れてくればいいんだ。む、無理に何匹も捕まえる必要はない」

ハンクもセレハートの説明に言葉を添える。

ティオが受けてくれるか不安で、しきりに手をこすり合わせる。

「これを……僕だけでですか?」

コボルコングの資料を読み終えたティオは不安そうにセレハートを見上げる。

ハンクはティオを安心させるようにニコリと笑って見せる。

「も、もちろん仲間を誘って受ければいい。そ、そ、それに、と、トールもこのクエストに参加する」

「彼の実力はもう知ってるでしょ? 私たちだって1人で受けろなんて無茶は言わないわよ」

そう言ってセレハートもくすくす笑う。

あのアイアンドールを1対1で撲殺したトールが来てくれる。それはティオにとってとても心強いことだ。

ティオは安心して息を吐いた。

「わかりました。この、コボルコングの捕獲クエスト受けます」

「そう、なら、さっそくギルドに行ってお友達を誘って南門に行きなさい。トールも準備を終えたらそこへ向かわせるわ」

「あの、サインは?」

「南門に来てくれれば職員もいるから、彼が渡す紙に書けばオーケーよ」

「わかりました。じゃあ、ギルドに行って人を探してきます」

ティオはクエスト内容が書かれた紙を持って立ち上がる。


が、そのまま出て行こうとしないで思ったことを訪ねてみた。

「捕獲したコボルコングはどうするんですか?」

その質問にハンクは下を向いて視線をそらす。

セレハートは笑みを浮かべたまま、ティオの口元に指を当てる。

「ひ、み、つ。そういうのは聞かないのがマナーよ」

そんな言葉で頷けるわけがないが、セレハートの瞳を覗き込むと言葉が喉で詰まり、背中を悪寒が走った。

「わ、わかりました……」

なんとかそれだけを絞り出すように零して、急いで事務から出て行った。

そのあとをレビが吠えながら追いかけて行った。

「はいはーい、気をつけてねー」


出ていくティオに手を振りながら、隣で居心地悪そうに座り直しているハンクに視線を向ける。

「そんなんだから、いつまで経ってもカードは負けるのよ」

「す、すまない……」

ハンクは申し訳ないと頭に手を当てて深く溜息をつく。

自分が嘘をつくことが下手なのを理解しているが、どうやっても治すことができない。

セレハートも彼が訓練したって、平気な顔で嘘をつくことができないのは理解しているので追及はしない。

「まぁ、しょうがないわね。そういう所があなたらしいしね。それよりトールを呼んでくるから、ポプチャかエレンを探しといて

あの2人なら冒険者の扱いもわかってるでしょ」

「わ、わかった」

ハンクはそう言って立ち上がり、指名された同僚の研究室に探しに行った。


セレハートも机に並べた書類をまとめて出て行こうとしたが、彼女の前に老人が座る。

「少しいいかい。セレハート殿?」

「あら、なにかしら。ヴァルじいさん?」

セレハートは愛想のいい笑みを少しも変えないまま、正面に座った白衣を着た小柄な老人を見やる。

老人は子供ぐらいの背しかないが、頭は縦に長い。

何十年も、それこそセレハートが生まれる前からこの研究所に勤める研究者で、所長とも長い付き合いのある魔族だ。


けれど、立場が上な人間を相手にしてもセレハートは身を強張らせたり、緊張したりはせず、普段通りの態度を貫く。

「悪いけど、いつも通りの話ならパスよ。ちょうど彼をクエストに向かわせなきゃいけないの」

「うーむ、それはつれないのぉ。それに研究対象を私物として扱うのもよくない……」

そう言って額に生えている大きな目をぎょろりと彼女に向ける。

「何度も言っておるが、彼もわかっておらんことがあるんだぞ。そう易々と外に連れ出さんでここで保管するべきじゃ。

外で壊れたらどうする? いや、逃げ出したら大問題じゃ。それこそ大損害という物じゃろうて」

「それについてはもう何回も話してるでしょ?」

そう言ってセレハートは立ち上がり、事務を出ていく。


その後ろを老人がついていく。

「そしてわしは納得しておらんよ。あれは謎の塊じゃ。そんなもんを前になんで研究者が我慢しなきゃいかん」

周りの職員はちらりと通り過ぎていく2人を盗み見るが、すぐにいつものことだと視線を戻す。

「それでも彼を他の実験体にするのは駄目よ。前にそうやって兵士が7人けがしたじゃない。それも3人は骨を折られて、1人は右腕だっけ? 千切られたのよ」

「奴がどれだけ危険か把握できてなかったからだ。もっと厳重にしておけば……」

「それで今度は何人が犠牲になると? 対モンスター用の鎖を千切って、封印魔法を撃ち破ったのよ。

どうやって押さえるのよ?」

「それは……」

とっさに言い返すことができず、老人は言葉に詰まる。

ここで畳み掛けるようにセレハートが振り返って、彼の額の目に指を突きつける。

「トールは実験体としてではなく、研究所の私兵として扱う。

この考えを変えるつもりはないし、所長だってそうよ。だから、彼を実験するのは諦めなさい。以上!」

最後に強く言い放つと、トールを呼びにさっさと歩きだしてしまった。

圧倒的に歩幅が足りない老人は追いかけることを諦めて、しょんぼりと肩を落として文句を零す。

「あんまりじゃ……。あれは素晴らしい実験体なのに、なにもしないなんてあんまりじゃ……」

老人の悲しげな呟きは、誰の耳にも届かなかった。

ええっと、いまさらなんですが、この小説はモンスターハンターを参考にしている部分が多いです。

が、設定の中でおかしいところが出てくるかもしれませんが、そこは生暖かい目で見てください。

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