訓練
マスケット銃「なぁ、主人公。前書きってなに書けばいい?」
ティオ「知らないよ」
ティオはどうしてこうなったのか考えながら準備体操を始める。
辺りで体操をしていたり、筋トレをしている男女に声をかけながら自己紹介をする。
「俺はアレイゴ、この訓練所で教官をしている。
ここでは対人の集団、個人の戦い方や魔法や剣技の練習、単純に体を鍛えたい奴が集まる。
そして俺たちは戦い方と鍛え方の指導をするのが仕事だ。
とりあえず今日は魔法は使わず、体を動かせ。いいな」
「わかりました」
なんだか予定が狂ってしまったけれど、せっかく教えてもらえるんだからとやる気を出して準備体操を始めている。
それを見たアレイゴは意外そうに片眉を上げる。
「ほう、てっきりビビッているかと思ったんだが、やる気はあるんだな。よし、それじゃあ、やっていこう」
「どんなことをやるんですか?」
最初の緊張はどこへ行ったのか、ティオはやる気満々にアレイゴに尋ねる。
「うむ、まずはお前の戦い方を見ようか。ダーグル、木剣2本持ってこっちに来い。」
「はい」
アレイゴに呼ばれて来たのは肌が黒い人族の青年。
彼も背が高く鍛えられた体をしているが、さっきの男たちのように筋骨隆々と違い、無駄な筋肉を削ぎ落とした感じだ。
アレイゴは顎をしゃくってティオに木剣を渡すように指示する。
「こいつと戦ってみろ。それからなにを鍛えるべきか判断する」
「はい!」
受け取った木剣の感触を確かめるように振ってみる。
いつも使っている剣より長いけれど、わずかだけこっちのほうが軽い。
「ダーグル、軽く痛めつけてやれ」
「こんな子供をですか? ちょっと気が引けるなぁ……」
その言葉にティオはカチンときた。
しかも、からかっているのではなく、木剣で打ちこんでも大丈夫なのか本気で心配しているのだ。
ティオは1度深呼吸をすると、剣を両手で握りしめる。
子供扱いしたことを後悔させてやる。ティオは心に強く決めた。
「よろしくお願いします!」
「ああ、よろしく頼む」
ダーグルもゆっくりした動作で剣を構える。
「始め!」
アレイゴが合図を出す。
先に動いたのはティオだ。
合図が出たと瞬間に正面から踏み込んで木剣を突き出した。
木剣はダーグルの鳩尾を捉え――きる前に叩き弾かれる。
と、同時に跳ね上がった足に側頭部を蹴られた。
視界がぶれる。
衝撃を受けきれずに倒れそうになったが、なんとか両足を広げてふんばった。
ダーグルが続けて軸となる右足から左足へ変えてティオの膝を蹴りつける。
避けられないと判断したティオは咄嗟に膝と足の間に手を滑り込ませる。
痛みに声が漏れそうになったけれど、歯を食いしばって耐える。
「だぁ!」
そして力任せに踏みつける足を振り払って、不安定な姿勢のまま殴りかかる。
けれどその1撃も簡単に受け止められ、逆に押し返倒されてしまった。
「よし、そこまで」
また立ち上がろうとしたところでアレイゴが止める。
わずか数秒の戦いだったけれど、ティオはダーグルとの力の差を痛いほど感じて俯いた。
1人落ち込むティオの頭を大きな手が掴む。
「ほれ、落ち込むのは勝手だが、まずは手合わせをした相手に礼を言え。冒険者だろうが傭兵だろうが、礼儀は忘れるな」
「……ありがとうございました」
アレイゴに言われるとおり、ティオはダーグルに頭を下げれば、ダーグルも笑顔で礼をしてくれた。
「こちらこそありがとうございました。なぁに、そんなに落ち込むことはないさ。アレイゴ教官の指導をまじめに受ければすぐに強くなるよ」
励ますように肩を叩くと、アレイゴに一言断ってからトレーニングしている若者たちのほうへ戻っていった。
腕を組んだアレイゴがティオを見下ろす。
「さて、今の戦いは何がいけなかったと思う?」
「……?」
相手が強かった。
それしか思い浮かばないティオは考えても答えが思い浮かばない。
彼の前に太い指が突きつけられる。
「相手の戦い方を見ようともせず、馬鹿正直に突っ込んだこと。
何も考えずに突っ込んでいたら、命がいくつあっても足らないぞ。
それに体が出来ていないのに、敵の攻撃を受け止めようとするな。
今みたいに受け止められずに体勢を崩して、次の攻撃を避けることも防御することもできない」
言いながらティオの周りを歩いて、彼の体をチェックする。
「まずはフットワークだな。足腰を鍛えて、足の運び方を教えてやる。
それから、そうだな。ちょっと待ってろ」
アレイゴはそう言うと、訓練場を見渡す。
そして、これから訓練場の周りを走ろうとするメンバーを見つけると、ティオにこっちに来るように手招きする。
「コリル、これからジョギングか?」
集団の中で先頭で準備体操をしている女性に話しかける。
「ええ、そうよ。なに、その子も加えてほしいの?」
「そうだ。冒険者だからペースに追い付けないことはないだろう」
それからアレイゴはティオにこれからどうするか説明する。
「とりあえずこのメンバーについて走ってくれ。その間に俺は特訓メニューを考えておく」
「わかりました。よろしくお願いします」
ティオはコリルと他の男女に頭を下げる。
「こちらこそよろしくね。私たちは訓練場を5周するけどゆっくり走るからね。それじゃ、みんなも行くわよ!」
コリルが合図を出して集団が走り出した。
とりあえずティオも集団のうしろについて走る。
******
健康目的で参加している一般市民が中心な為、長距離を走り慣れていないティオでもついていくことができた。
冒険者と接したことがないのか、何人かがティオに話しかけてきた。
本当にゆっくりなペースだったけど、話している間に――という名の質問責め――あっという間に終わってしまった。
入り口に到着すれば、アレイゴの巨体が彼を待っていた。
「アレイゴ、ジョギングは終わったわ」
「そうみたいだな。よし、坊主、ついてこい」
アレイゴはさっさと大股で歩きだす。
一緒に走っていた男女がアレイゴの後を追いかけるティオに声をかけていく。
「頑張れよ、冒険者」
「あの人、鬼教官で有名だけど挫けないでね」
「また一緒に走ろうな」
フレンドリーに声をかけてくれる人たちにティオも笑って答える。
「うん、また今度お願いします!」
アレイゴは歩きながら、メニューについて説明する。
「おまえは冒険者だからな。そう頻繁に訓練所には来れないだろう。
坊主、今はギルドの宿を利用しているか?」
「はい」
「なら体力に余裕がある日は走るんだ。週に3日か4日、走るようにしろ。
走る時間はお前に任せるが、夜のほうが人が少ない」
話しながら手に持っていた4番地区を詳しく書いた地図をティオに見せる。
「距離は4~5キロぐらい。コースはこうだ」
アレイゴはギルドの宿から指でなぞって教える。
コースはティオも利用することが多い道で、曲がる回数も少ないし、その時目印になる建物も知っている。
ざっと説明をしてもらっただけですぐに覚えられるコースだ。
「――というコースだが覚えられたか?」
「はい、大丈夫です!」
「わからなくなったら自分なりに走りやすい道を見つけろ。あと、クエストで激しく動いた日はやめるんだぞ。
それと、週に1回はここに来い。俺がいなくても他の奴が面倒見るだろう」
「はい」
「それじゃ、今日は終わりだ」
「え?」
まだなにかやるんだろうと思っていたティオはキョトンとした顔でアレイゴを見る。
「終わり、ですか?」
「そうだ。今日は体験みたいなもんだから。あんまり厳しくやると泣いて逃げ出すだろう」
「逃げないよ!」
そんなことはしないとティオは顔を真っ赤にして否定する。
アレイゴはフンと鼻を鳴らす。
「どうだがな、まずは俺の訓練についてこれたらの話だ。とりあえず今日はこれで終わりだから、あとは好きにしていいぞ。
訓練場の奥で魔法の練習所があるから、興味があるんだったら行ってこい。以上!」
「あ、ありがとうございました」
ティオは木剣で試合をしている男たちのほうへ始動しに行くアレイゴに頭を下げる。
アレイゴは何も言わなかったけれど、頷いて手を振ってくれた。
こうして、アレイゴの指導は終わった。
体験入学みたいな訓練は終了しました。
書いてから今さらだけど、このままじゃこの街から離れるの時間がかかりそう……。