どうしてこうなった
クエストが終わって街に帰ってきたティオ。
さっそく報酬を受け取りに行きますよー!
任務が終わって次の日、ティオは早速フラウディアの言っていた報酬を受け取りに図書館に向かった。
この街に図書館は2つある。
1つは番地区にある金持ちが利用するもので、本を読むというよりお茶をしながら世間話をするらしい。
遠くからだけどティオも見たことがあるが、それはとても大きくて歴史を感じさせる屋敷で、番兵が立つ門の前では豪華な馬車が停められていた。
もう1つは9番地区にあるもので、こちらも大きいけれど比較的新しい造りだ。
行きかう人々の中にはティオと同じ冒険者の姿も見られる。
冒険者はそのまま図書館に入らず、入り口の前にある小屋で武器を預けなければいけない。
ティオも小屋に並ぶ列に加わって順番が来るのを待つ。
「次の方、どうぞ」
順番はすぐに回って、職員がティオを呼ぶ。
「武具をお預かりします。こちらにサインをお願いします」
「お願いします」
ティオは腰から抜いていた剣をカウンターに置き、書類に名前を書く。
「ありがとうございます。では、こちらの札をお受け取りください。御帰りの際に見せて頂ければ、お預かりした武器をお返しをします」
「わかりました」
そう言って受け取った札を無くさないために胸ポケットにしまう。
中に入った瞬間、嗅ぎなれない臭い――大量のインクの――が鼻を突く。
もちろんティオは図書館がどういうところか知っている。
大量の本が貯蔵されていて、無償で借りることができる。
でも、汚したりしたら弁償しなければいけないし、期限内に返さないとまた弁償が発生する。
が、実際に見上げるほど大きな棚一杯に本が納められているのを見るのは圧巻である。
それも故郷の村の広場より何倍も広い場所でも足りないぐらいにた本が満載した棚が並んでいるのを見ると、つい感嘆の声を漏らしてしまう。
いったい、どれぐらいの本があるんだろうか?
「あ、それよりも報酬を受け取らなきゃ!」
つい茫然としてしまった自分を叱咤して、貸出所で書類を書いていた職員に声をかけた。
「すいませーん、ここに預かり物があるって聞いたんですけど……」
「預かりものですか? お名前をお願いします」
「ティオ・アルペノスです」
「アルペノス様ですね。少々お待ちください」
職員はティオに頭を下げて奥に引っ込んだが、すぐに袋を持って戻ってきた。
「はい、こちらがお預かり物です。こちらに受け取ったサインを書いてください」
すぐにサインを書いて紙袋を持ち上げたが、予想よりずっと重たくて驚いた。
中を覗いてみれば、厚さがばらばらの本が数冊と黒板にチョークが入っている。
「うわぁ……」
その数の多さになんとも言えない表情を浮かべる。
「あと、手紙も預かっています」
「手紙?」
「はい、これです」
そう言って手紙を渡される。
手触りのいい上質な紙を使っていて、封には王国の印が押されている。
職員はペーパーナイフも渡すと、あとは関係ないと言いたげに自分の作業に戻る。
けれど、新米冒険者に渡された手紙の内容が気になるらしく、チラチラとティオのほうへ視線を向けてくる。
それに気づかないままティオは手紙を開いた。
前回の例として初心者用の魔導書と、文字下記の練習用に黒板を用意した。
剣と魔法だけでなく、読み書きもしっかり勉強するんだ。
この街には訓練所があるから、そこで魔法を習得しなさい。
それでは、勇気ある冒険者に加護があらんことを。
「んーっと、すいません。訓練所ってどこにありますか?」
「訓練所は6番地区の警察署の隣にあります。警察署は各地に案内板があるので、すぐにわかりますよ」
「わかりました。ありがとう」
ティオはさっそく訓練所に向かうため、図書館を出て行った。
ティオが図書館を出ていくのを見送った職員はそばにいた同僚に声をかけた。
「ねぇ、あの子、王国の印が入った手紙を受け取ってたけど、何が書いてあったんだろ?」
「なに言ってんだよ、あの子どこかのチームの使いだろ」
******
6番地区に入ると4、5番地区と雰囲気が大きく変わる。
買い物をしている市民がぐっと多くなり、店に並んでいる商品も食べ物や雑貨がほとんど。
武器を持つ冒険者は少数で、市民が行き来するなかだと浮いている。
そして緑色の制服に身を包んだ警察官が馬に乗ってパトロールしている。
何回か野菜を売りに来ていたけれど、改めて来てみると新鮮に感じる。
「ええっと、ここが訓練所かな?」
高い塀に囲まれた、威圧する様に高くそびえる警察署。
その隣に立つ灰色の壁に囲まれているのが訓練所のようで、中から威勢のいい声が聞こえる。
「よし、行くか!」
中の雰囲気に負けないように気合を入れて、訓練所の門を勢いよく開けた。
そして後悔した。
目の前に並んでいた男たちが一斉にティオに視線を向ける。
人族や魔族、エルフ族と種族が違うけれど全員がティオよりも背が大きくてがっしりした体躯をしている。
汗に濡れた筋肉は時折ぴくぴく動いており、うっすら蒸気が上がっているのは幻覚だろうか?
そんな一種のモンスターと勘違いしてしまうような彼らの視線を受けて、入れたばかりの気合いはどこかへ消えてしまい、何か言おうとしても口がパクパク動くだけで声が出ない。
男たちも不思議そうにティオを眺めている。
互いに何もしないまま、無駄に時間だけが過ぎる。
が、沈黙を破るように男たちの奥から野太い怒声が轟く。
「おまえら、なにをしておるか! さっさと次のトレーニングに移れ!」
「うす!」
男たちが威勢よく返事して駆け足で駆けていく。
視線から解放されたティオは緊張が解けて、長い溜息を吐いた。
「おまえはそこで何をしている?」
「え?」
声をかけられて何気なしに顔を上げたティオはまた体が固まった。
目の前にいるのはドワーフ、だろうか?
それとも筋肉の塊と化したモンスターなのだろうか?
いや、たぶん形からしてドワーフだろう。
体は脂肪ではなく筋肉で膨れ上がり、腕や太腿はティオの胴回りよりも二回りは太い。
いたるところに傷が刻まれていて、口元を覆う髭は木の根のように広がっている。
そして、ドワーフは背の低いのが特徴なのに、目の前の存在はさっきの男たちよりもさらにでかい。
その、圧倒的存在にティオは飲み込まれ、言葉を無くして立ち尽くす。
筋肉の塊はぐぃっと顰めた顔をティオに近づける。
「俺はなにをしているかと聞いているんだ。何か言ったらどうなんだ?」
唸るような声で尋ねられ、ティオはしどろもどろになりながら答える。
「あ、あの、ここで魔法の訓練ができると聞いて、来ました……」
「うむ、魔法の訓練か。確かにできるぞ。だが、おまえは冒険者だろ?」
「は、はい」
「うぅむ」
ドワーフは乱暴にティオの体を触れると、厳しい顔をさらに顰める。
「駄目だな」
「はい?」
「そんな体じゃすぐにへばっちまう。1人前に魔法を使う前に体力をつけろ。
体力をつけていけば魔力も増幅できる。まずは基礎体力をつけるんだ。
荷物はそこに置いて俺について来い」
「え、ここに? というか、え?」
「早くしろ! そんなもん、誰も盗りはせんよ。仲間がちゃんとしまってくれる。来い!」
「はい!」
なにがどうなっているのかわからないまま、ティオは荷物を置いてドワーフの後を追いかけた。
ティオが走り去った後、スタッフの一人は苦笑しながらの持つを回収した。
「さてと、今度の冒険者は何時間で逃げ出すかね……」
はい、地獄の特訓が始まりまーす! 頑張れ、主人公ww