帰還
今回は短いです。ご容赦ください。
あれから休んでいたティオも動けるようになったので、エルサスの馬車に乗って出発することにした。
村を出発するとき、ティーガーとアイシャが見送ってくれた。
「いろいろ巻き込んでしまってすまかなかったな。本当に助かったよ」
「こちらこそ、ありがとうございました。僕も勉強になりました」
「あんまり魔法を教えることはできなかったけど、練習を怠るなよ? 図書館で魔導書が借りられるから、新しいものも少しずつ覚えていくんだぞ」
「わかりました!」
ティーガーのアドバイスを聞いてティオは元気よく返事をする。
ティーガーは笑って少年冒険者の頭を撫でる。
「そうだな、新米って言われたくなかったら、魔法を10個ぐらい使いこなせるようにしようか」
「え……」
その一言にティオの笑顔が固まる。
「当たり前だろー。せっかく魔族の血が流れてるんだから、それぐらいできるようにならなきゃ」
弱気なティオを叱るように、頭を撫でる手に力を入れる。
「いたたたたたたっ!?」
「最低でも3,4種類の属性は使えるようにしとけ。いいな?」
「わかりました! わかったから頭離して!」
よほど力を入れているのだろう。
ティオが両手で掴んで引きはがそうとしているのに、ティーガーの手はびくともしない。
その様子を見てアイシャがおかしそうに笑う。
「なんか、ほんと、ティオって子供みたい」
「は!?」
「だって、その態度、まるで子供じゃない」
そう言って未だティーガーに鷲掴みにされている頭をつつく。
「悔しがったら、もっと大人の態度とってみなさいよ。例えば……そう、ハーメルとか隊長みたいな感じ?」
「別にこのままでもいいんじゃないのか?」
ハーメルがティオの体を上から下へと見る。
「それに見た目が子供なんだから、大人ぶろうとしても失敗するだけだろ」
「うぅ、ハーメルまで……」
ティオが恨めし気に睨むが、ハーメルはわざとらしく視線をずらす。
「ま、次、会うときは少しぐらい成長しておけばいいのさ」
ティーガーはティオの頭を離して1歩離れる。
「それじゃ、冒険者稼業も頑張れよ」
アイシャが笑って手を振る。
「次会うときまでに、その弱虫直しなさいよ!」
「うるさい!」
最後の最後まで馬鹿にされながら、ティオも笑って手を振り返した。
「それじゃ、出発するぞー」
エルサスが馬の尻に鞭を当てて、馬車がゆっくり走り出した。
******
「終わったー」
ティオは1人呟くと馬車の中で精一杯体を伸ばして体をほぐす。
治療してくれた衛兵の腕がよかったようで、今では違和感も痛みもなくなっていた。
村で待っていたエルサスは何があったのかハーメルから話を聞いて、感心したように2人を見る。
「ほぅ、2人とも今回はよく頑張ったな」
「なんか疲れました……」
そう言ってくたぁとだらけきった姿勢で壁に寄り掛かる。
ハーメルも壁に寄り掛かって目を閉じながらも頷いた。
「そうか、でもいいことはあったんだろ?」
「え?」
「鏡を見てみろよ。顔がにやけっぱなしだぞ」
「あ……」
言われてから、自分が感情を隠せていないことがわかった。
けれど、今回のクエストを思い返すと笑みがこぼれてしまう。
攻撃魔法が使えるようになったし、新しい仲間と協力できた。
そして勝てなかったアイアンドールに勝つことができた。
まだ自分は弱いままだろうけど、まだ1人じゃなにもできないだろうけど……。
それでもできることが増えたのは嬉しかった。
「ねぇ、ハーメル」
「ん?」
「僕さ、このクエスト受けてよかったと思う」
「そうか、よかったな……」
ううむ、魔法の表現方法をもっと頑張らないといけないな……。