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いきなりバトル!

はい、いきなり戦闘に入ります。

拙い文章ですが、人が死にますのでご注意ください。

ティオの村からは近い町まで歩くと3日はかかる。

馬車に乗れれば1日で街に着くけれど、ティオはせっかくの旅立ちということで歩くことを選んだ。

幸い、草原にモンスターは出ることはないし、天気も丸々太った雲が流れている快晴だ。

だから道端に生えている薬草を摘みながらのんびり歩こうと考えていた。


薬草は何種類もあって組み合わせ方で傷に利く薬になったり、腹痛に利く薬になる。

ティオは母親に教えられた薬草を摘んでは袋に入れていく。

道には思ったよりも薬草の種類が豊富で、つい座り込んで摘み取ってしまう。


道端に座り込んで薬草を摘んでいると背後から声をかけられた。

「おい、坊や。こんなところでなにやってんだい?」

振り返れると、幌馬車にのった商人がティオを見下ろしていた。

「えっと、街に行くんだけど、その前に薬草摘んでおこうと思って……」

「へぇ、それなら馬車に乗るといい。今なら安くしといてやるよ」

「いいんですか?」

ありがたい申し出にティオはパァっと顔を輝かす。

格好を見て冒険者、それも旅の常識もまだ知らない新米だと見た商人は、ティオの子供らしい反応につい笑ってしまった。

「構わんよ。さっきも二人拾ったんだ。一人ぐらいどうってことないさ」

「ありがとうございます」

ティオは商人に頭を下げてから、駄賃を払って後ろの荷台に乗る。

中は木箱が場所をほとんど占めているけれど、なんとか空いている場所を見つけて座る。

商人はティオが座ったのを確認してから、手綱を振って馬車を出発させた。


ティオと向かい合う位置に二人の男女が座っていた。

軽く頭を下げれば、眼鏡をかけた黒髪の女性がにっこり笑って挨拶をしてくれた。

「こんにちわ、もしかして冒険者かな?」

「はい、あー、えっと、今日村を出たばっかなんです」

「へー、そうなんだ。いーねー。若いねー」

そう言って人懐っこい笑みを浮かべる。

「私たちは冒険者じゃないけど、わからないことがあったら聞いてね」

歳は20代後半だと思ったが、ふにゃっと笑うと幼く見える。

「あ、そうだ、紹介をしてなかったね。私はセレハート。

で、彼はトール。無口だけど私のパートナーよ」

「ティオです。よろしくお願いします」

セレハートは魔術師らしく、黒の皮鎧の上に紫色のマントを羽織っていて、透明な結晶がはまった杖を持っている。

背中まで伸びた髪を邪魔にならないようにゴムで縛り、化粧も控えめだけど綺麗な人だ。

そして眼鏡の奥では子供みたいに瞳がキラキラ輝いている。


そしてトールはティオより2、3ほど歳が上の褐色肌の青年で、とげとげした灰色の髪が無造作に伸びている。

胸当てと肘と膝を護るプロテクター、鉄鋼が仕込まれたグローブと動きやすさを重視した軽装備。

己の体を武器とする拳闘士のようだ。

トールは二人の会話に加わろうともせず、紹介されたときも頷いただけだった。

セレハートと違って話すのが苦手らしい。


馬車の振動に揺られながらティオはセレハートから冒険者としてのアドバイスを聞いていた。

冒険者は仕事を斡旋するギルドでクエストを受ける。

受けられるクエストの種類は内容によっていくつかに分けられている。

人に害をなすモンスターや魔物を退治したり、物を調達して納めたり、街から街への護衛などなど。

お使い程度の物から命がけの物まで、クエストは常に堪えずにギルドに依頼される。


そして採取系ならまだいいが、討伐系のクエストでは必ずチームを組むのが冒険者の常識だ。

仲間の短所長所を把握し、戦闘での役割分担をつけておくこと。

また散策するときもメンバーの配置に気を配らなければいけない。

射手や魔法使いが奇襲を受けないように、モンスターと遭遇したらすぐに剣士が前衛として活躍できるようにすること。

戦いはわずかな時間でも生死を分けるから、チームの配置も死活問題になる。


セレハートは他にも思いつくことをティオに教える。

「一番やっちゃいけないのは単独でモンスターと戦うことと、道具をそろえておかないことね。

魔物は弱ってる者や集団から逸れた者を狙うことが多いし、一人で魔物を相手にするのは自殺するようなものよ。

それに道具を揃えなかったためにベテランが毒に侵されて死ぬこともよくあることよ。

町の外で生き残るには最低でもこの二つは犯しちゃ駄目ね」

「わかりました」

なんとかセレハートのアドバイスを聞き逃すまいと、書き慣れない文字でメモを取る。

その様子を見ていたセレハートはつい笑ってしまった。

「いやー、なんか久しぶりに反応を返してくれる子がいると、ついつい喋っちゃうわねー。

この子、見ての通り無口だから寂しかったのよ」

そう言ってセレハートは隣に座るトールを肘で小突く。

「あんたも先輩としてなにかアドバイスしなさいよー」

「……敵」

帆の隙間から外を眺めていたトールは小さな声でつぶやいた。

「え?」

強めに小突かれても無反応だったトールが急に立ち上がる。

ティオも釣られて外を見て、そこでやっと馬車に近づいてくる存在に気が付いた。


まだ遠すぎるために姿ははっきり見えないけれど、どんどん近づいてきている。

目を細めて見ていたセレハートが帆をめくって、手綱を操っている商人に呼びかける。

「商人さん、ちょっと問題が起きたみたいよ」

「問題?」

問題という発言に敏感に反応した商人は不安そうにセレハートの顔を見る。

セレハートは頷いて背後を指さす。

「うしろから人が来てるんだけどさ、たぶん盗賊だね」

「なんだって!? ああ、くそ!」

商人は罵声を吐くと馬の尻を叩いて拍車をかけようとする。

しかし荷を満載した馬車が出せる速さも限度があり、追いかけてくる集団と距離がぐんぐん縮まる。

セレハートは帆からわずかに顔を覗かせて、追いかけてくる集団の数と武装を把握する。

「数は8人、弓は持たずに剣か斧を持ってるね。よし、ティオ君は二人ぐらい任せてもいい?」

ティオは鞘から剣を引き抜いて、深呼吸を一度してから頷いた。

「大丈夫です。やれます!」

「人は殺せる?」

セレハートがあっけらかんと聞いてきたために言葉に詰まってしまったが、やがて覚悟を決めて頷いた。

「……人を殺したことはあります」

過去に殺した光景を思い出して、言葉が喉に詰まってうまく出てこなかった。


が、セレハートは彼の様子を見ても、表情を少しも変えずに頷く。

「なら大丈夫だね。トール、あなたもよろしくね」

声をかけられたトールは軽く頷くと、強張った体をほぐそうと狭い馬車の中で体を伸ばす。

今から戦闘に入るのに緊張していないトールに、ティオは驚きを隠せなかった。


もう1度外を見れば、盗賊たちはすぐそこまで来ていた。

馬に乗った盗賊は汚れた衣服を着こみ、手入れをしていない剣や斧、鎌で武装している。

ほとんどが肌色が悪く、貧弱な体つきをしていて暴力を働くには慣れていないようだ。

これから物を奪おうとしているのに、緊張した表情をして自信ないように見える。

ただ、リーダーらしき男はがっしりした体をしていて、大きな鉈を片手に持っている。

盗賊たちは同じように骨が浮いた馬を走らして、あっという間に馬車を囲んでしまった。


盗賊の一人が斧を振り回して商人を脅す。

「死にたくなけりゃ止まれ! 大人しくしてりゃ命はとらねぇ!」

商人は逆らったらまずいと顔を強張らせながら、盗賊の言うとおりに馬車のスピードを落とした。

盗賊たちは馬車を包囲しながら馬を下りて、警戒しながら馬車に近づく。

「へ、へへ、大人しくしてろよ? こちとら食い物さえ手に入りゃいいんだからよ」

一人が近づいて帆をめくろうと手を伸ばす。

が、盗賊がめくる前にティオとトールが飛び出して襲い掛かった。

「うおわ!」

飛び出したティオは目の前にいた盗賊を地面に押し倒す。

そのまま相手に反応を取る間も与えず倒そうとしたが、剣を持つ腕を掴まれて阻まれてしまう。

剣を胸に突き刺そうと力を入れるけれど、盗賊も刺されてたまるかと必死に抵抗する。

貧弱な身体からは想像できない力で抗い、ティオの握る剣を皮膚1枚のところで押し留める。

ティオはすぐに剣で刺すことを諦め、空いている腕で盗賊の顔を殴りつけた。

盗賊は片腕で顔を庇おうとしたが、容赦なく何回も殴り続ける。

鼻が折れて血が噴き出し、唇が避けて歯が砕ける。

折れた歯が刺さってティオの手も血が流れるけれど、ティオは殴ることをやめない。

腕を握っていた手が離れ、悲鳴を上げなくなってからようやく止めた。

顔を腫らした盗賊はすでに気を失っていて、か細い呼吸を繰り返す状態だった。

「このやろう!」

そこへ小太りの盗賊が斧を振り上げてティオに襲い掛かる。

咄嗟に振り下ろされる前に横に転がって避けるが、次に繰り出された蹴りを顔に受けてしまった。

「ぐぅ!」

視界がぶれて痛みに目の前に火花が散る。

急いで立ち上がらなきゃ甚振られて殺されるのはわかっているけれど、踏みつけてくる足から身を守ることに精一杯だ。

「立て、クソ野郎。鱠切りにして喰ってや……!」

喚きながらティオの頭を掴もうとした盗賊が白目を向いて前のめりに倒れる。


後ろに回り込んだトールが男の股間をけり上げたのだ。

さらに倒れようとした男の首に両腕をからめて一気に捻り上げる。

大して力を入れてないように見えたけれど、それだけで盗賊の首が音をたてて圧し折れた。

「早く立て」

頭を押さえているティオに手を貸して起こす。

助け起こされたティオは頭がくらくらしたけれど、指し出された手を掴んで素早く起き上がった。

「大丈夫か?」

「あ、うん、大丈夫です。ありがとうございます!」

「礼はいい。まだ戦闘中だ」

そう言って、及び腰で武器を構えている盗賊たちに向き直る。

残っていた盗賊は遠巻きに二人を囲んではいるが、自分から斬りかかろうとしない。


トールのそばには今さっき殺されたものと別のもう一つ死体が転がっていた。

その盗賊は荷台から飛び出したトールに殴り倒されて、起き上がる間もなく踵で首を踏み潰されたのだ。

仲間が3人も――その内の2人は容赦なく殺されて――倒されたことに盗賊たちは動揺する。

互いに目配せをして先に仕掛けるように催すが、誰も自分から動かない。

「なにビビってるんだ、腰抜けども!」」

そこへリーダーが毒づきながら鉈を構え、怖気づいた部下を叱咤する。

「ガキはどうでもいい! まずはそこの冒険者を殺すんだ!」

トールを恐れて動かなかった部下たちもしぶしぶながら武器を構えて、3人がトールに、1人だけがティオと対峙する

一番の脅威となるトールを数で片付けようと考えだろう。

だが、脅威が二人だけだと早とちりしたためにその作戦も失敗することになった。


今にも斬りかかろうとした二人の回りに突然火花が散ったかと思ったら、いきなり電気が走って盗賊を感電させた。

2人の盗賊は悲鳴を上げて地面に倒れると、身体を痙攣させながら泡を吹いて気絶した。

いきなりの出来事に盗賊たちは唖然としてしまった。

「はいはい、もう、あなたたちに勝ち目はないわよー」

魔法を唱えたセレハートは馬車の上で仁王立ちして盗賊たちを睨み付ける。

「私たちも逃げるなら見逃してあげるから、さっさと諦めなさい」

小馬鹿にした口調にリーダーは腹を立てて前に出ようとしたが、セレハートの前にトールが1歩前に踏み出すと、後ろの部下たちが怯えて後ずさる。

リーダーは完全に飲まれている部下に舌打ちを打つ。

共に戦うとしては頼りないが、共に生きてきた大事な仲間たちだ。

既に2人も殺されている。

これ以上、仲間が殺されるわけにはいかない。

リーダーの判断を後押しする様に、セレハートが脅すように指先に電気を走らせる。

「それとも皆殺しがいいかしら? あなたたちぐらいなら1分もかからないわよ」

リーダーはセレハートとトールを交互に見ながら考えていたが、やがて剣を鞘におさめて両手を上げた。

「……チ、わかった。俺たちの負けだ」

リーダーが武器を捨てて盗賊たちは動揺したが、やがて同じように武器を捨て始めた。

彼らが大人しく投降したことに気をよくしたセレハートは得意げに鼻を鳴らす。

「ま、私たちも弱い者いじめは趣味じゃないもんね。このまま大人しく引き下がるなら見逃してあげるわよ」

「本当か?」

セレハートの言葉を信じられず、リーダーはうさん臭そうな目で彼女を見る。

「だって農民崩れを捕まえたってお金にならないし、街まで引っ張っていくの面倒だもん」

リーダーはどうすればいいのか迷ったが、やがてセレハートの好意に甘えることにした。

「……わかった。俺たちはこのまま逃げさせてもらう」

そう言ってリーダーは敵意がないことを示すために、両手を上げたまま自分の馬のところまで下がり出す。

「今日は運が悪かった。あんたたちみたいなベテランの冒険者とぶつかっちまうなんてな」

「あら、生きて帰れるのよ? 運がいいと考えなさいな」

「言ってろ」

リーダーは肩をすくめると、未だ剣を構えているティオを見て鼻を鳴らす。

「武器はしまいな、ルーキー。

おまえらの勝ちだ。いつまでもガチガチになってんじゃねぇよ」

「な、なんだと!」

敵に馬鹿にされて顔を赤くしたティオがリーダーに掴みかかろうとしたが、簡単に避けられたうえに、逆に軽く腕をひねあげられて返り討ちにされてしまった。

「あいたたたたっ!」

「まだまだ素人に毛が生えた程度だが、ま、頑張ればいい線行きそうだな」

そう言ってティオを突き飛ばすと、素早く自分の馬に跨る。

「頑張れよ、ルーキー。もう会うことはないだろうがな」

怒りも収まらないティオは去ろうとする盗賊の背中を睨み付ける。

「あいつらを逃がしていいんですか?」

「うーん、さっきも言ったけ、面倒臭いし……。別にいいんじゃない?」

そんな理由で盗賊を逃がすなんて、ティオには信じられない話である。

「そんなことでいいんですか?」

「それでいいのよ――」

突然耳障りな羽音が鼓膜を打つ。

ティオが驚いで見上げれば人よりも大きな蜻蛉が2匹、自分たちの頭上を通り過ぎる。

しかもその蜻蛉は長い鎌状の前足で鎧を着こんだ人間を運んでいた。

去ろうとしていた盗賊たちも驚いて声を上げる。

セレハートが長い溜息をついて額に手を当てる。

「勘弁してよー。なーんでこんな所でアイアンドールに見つかるかなー」

2匹の蜻蛉はティオたちの頭上を飛び過ぎた後、ゆっくり旋回して戻ってこようとしていた。

トールはなにが起きているのか理解できておらず茫然としているティオの肩を叩く。

「構えろ、死ぬぞ」

「え、あ、はい!?」

状況を掴めていないティオは混乱したまま鞘に納めた剣を抜く。

どうやら本当の闘いはこれからのようだ。

はい、盗賊との戦いは終了しましたが、次はもっとやばそうなのと戦います。

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