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襲われる少女

虫退治を終えた次の日、新しい魔法の訓練に励むティオ。

その頃、林の中では……?


それとお知らせ。

今まで投稿した話を訂正していこうと思うので、次の投稿が遅くなると思います。

この作品を読んでくださる皆様、大変申し訳ございません。

林の中、狩人が休憩兼動物の解体に利用する小屋。

今日はここを利用する狩人はおらず、中は静まりかえっている。

その代わりというべきか、少女が1人椅子に座って眠っていた。

衣服の代わりに巻きつけたぼろと体は泥と垢に汚れている

それでも少女は美しかった。

日に当たっていないのか病的に白い肌、頬はわずかに赤く色づいている。

そして薄く色づいた唇や整った長いまつ毛、まだ幼さが残る顔は貴族の人形のようにかわいらしかった。

けれど、その美しさも口や胸元についた血のせいで台無しにしていた。

もちろん彼女の血ではない。

食い散らかされたウサギの残骸がテーブルの上に転がっている。

食欲を満たすために生きたまま食らったため、彼女の体だけでなくテーブルの上や椅子の足元まで汚れてしまっている。

けれど、少女は体の汚れなど気にせず、椅子の上で丸くなって気持ちよさそうに眠っていた。


けれど突然、いきなり少女は目を覚まして椅子から飛び起きる。

そして壁に身を寄せて、慎重に窓を覗く。

木々が生い茂る中に危険なモンスターは見当たらないけれど、少女は気に入らないと言いたげに眉をひそめる。

そして窓から離れて小屋の中を見渡し、何を考えたのかさっきまで寝ていた椅子を壁に引き寄せた。

金色の目には恐怖心はなく、諦めることを知らない生存本能で強く輝いていた。


木々の隙間を塗って進む鎧姿の魔物。

なにかを探すように首を左右に動かしながら進むアイアンドールの分隊。

数は12体。

剣と盾、槍などで武装したアイアンドールが3体前に、4体が左右に展開して周囲を警戒。

そしてマスケット銃を持ったアイアンドールが4体とリーダー格が中心核となって進んでいる。

先頭を進むアイアンドールが狩猟小屋を見つけると、手を振って仲間に小屋の存在を知らせる。

リーダーは味方が発見した小屋を囲うように身振りで指示を出す。

マスケット銃を持ったアイアンドールが小屋の中で動いている者がいないか警戒しながら、近接タイプのアイアンドールが近づく。

3体がドアに接近する。

そのうち、メイスを持ったアイアンドールがメイスを振りかぶってドアに叩きつける。

丈夫な木で作られていたドアだが1回の打撃で大きく震えて、2回目で表面に亀裂が入り取っ手が弾け飛ぶ。

そして3回目で蝶番が壊れて支えられていたドアが倒れた。


3体のアイアンドールは武器を構えて中を見渡すが、動くものが見当たらず、拍子抜けしたように武器を下す。

1体がテーブルに散乱したウサギの残骸に気づいて近づく。

何時間も放置されたために血が固まり、残っていた温もりもすっかり冷えている。

人間なら動物を生きたまま食べないし、獣はこんなに無駄に肉を残さない。

けれど、魔物たちが狙っている目標ならありえる。

証拠を手に取ったアイアンドールは振り返って仲間に見せようとしたが、2体の後ろにあるものを視界に捉えて武器を構える。

会話ができないために2体は味方がどうして武器を構えたのかわからなかったが、背後で物が落ちる音に振り返った。


梁にしがみついていた少女は着地と同時に走り出して小屋から飛び出す。

ドアの前に立っていたアイアンドールが少女の胴体を狙って槍を薙ぎ払う。

少女はしゃがんで槍を避け、そのままアイアンドールの横をすり抜ける。

さらに2体が追いかけようとしたが、少女は目もくれずに彼らを振り切って林の中に逃げ込んだ。


アイアンドールが容赦なくマスケット銃を撃つ。

少女を捕らえきれなかった銃弾が木を傷つけ、砕けた破片と枝が飛び散る。

銃弾が肌を掠めても少女は悲鳴も上げず、ただ真っ直ぐに林の中を走る。

アイアンドールの1体が火をつけた手榴弾を投げた。

手榴弾はアイアンドールの狙いから外れて少女の走りすぎた後に落ちたが、その爆風は身軽な少女の体を吹き飛ばすには十分だった。

華奢な体が木にぶつかり、崩れるように倒れた彼女の体に枝や葉っぱが落ちてくる。

そこへ距離を詰めた1体が駆け寄って槍を突き出す。

が、穂先が刺さる前に少女は猫を思わせるしなやかな動きで起き上がる。

そして引っ込めようとした槍の柄を手刀で切断、その穂先を掴んでアイアンドールの首に突き刺した。

が、頭のコアを破壊されない限り致命傷にならないアイアンドールは倒れない。

穂先が刺さったまま、両手を伸ばして掴みかかる。

少女は不満そうに唸り声を上げると、くるりと回れ右して再び走り出した。

爆風の衝撃を受け、体に手榴弾の破片が刺さっているのに、少女は信じられない速さで駆け続ける。

そのあとをアイアンドールの群れが追いかけていく。


木々に止まっていた鳥たちが人間と魔物の追いかけっこに巻き込まれてたまるかと、我先に空へと飛びあがった。


◇◇◇


「さて、昨日は短時間で炎の初級魔法ファイアスローだったが、今回は氷の初級魔法をしよう」

「わかりましたー」

村から少し離れた場所でティオとティーガーは魔法の訓練を始めた。

ティオはこれからどんな魔法を教えてもらえるのか楽しみで、口元に浮かぶ笑みを隠すことができなかった。

「ファイアスローは手から生み出した炎を投射するものだったが、今回も同じように氷柱を発射するものだ」

まずはやってみようと、ティーガーは離れた場所に置いた石に掌を狙う。

「アイシクル」

掌から小さな氷の破片が生まれると、すぐに30センチほどの氷柱になって射出、的になった石を砕いて地面に突き刺さる。

「わぁ!」

それを見ていたティオは目を輝かせて歓声を上げる。

ティーガーはもう一度アイシクルを唱えて氷柱を造ると、それを足元の地面に撃ちこんだ。

「さ、やってみろ。掌に魔力を集めながら氷柱を撃ちだすことをイメージしてみろ」

「うん、わかった」

ティオは言われたとおりに魔力を集めて、ティーガーがやってみせたように生み出した氷柱を撃ちだそうとした。

掌に氷の破片が生まれて、すぐに大きくなる。

そしてティーガーが示した的へ勢いよく――飛ばずに、すぐに落ちて粉々に砕け散った。

「あ、あれ……?」

想像した通りに飛ばず、落ちて砕け散った氷の破片を眺めて茫然としていたが、すぐ我に返ってもう一度アイシクルを唱える。

が、結果は同じで的に届く前に落ちて細かく砕けてしまった。

「な、なんで飛ばないの……?」

「そりゃ魔力の使い方がなってないからな」


こうなることを予想していたティーガーはティオのなにがいけないかを指摘する。

「おまえは魔力のほとんどを氷柱にすることだけに注ぐだけで、飛ばすことに振り分けていないんだ。

これがファイアスローと違うところだな。

ファイアスローは魔力を注いだ分だけ火が大きくなるから、むりやり距離を伸ばすことはできる。

けど、アイシクルは氷柱を造るだけでなく、氷柱を発射させる分も考えないといけない」

説明しながら指先に小さな氷柱を作り出した、それを空高く発射する。

「マスケット銃をイメージするんだ。鉛玉だけでなく発射するための火薬も魔力で作り出す。

十分な魔力を火薬にすることができれば、小さな氷柱でも十分な距離を飛ばすことができるし、でかいものも飛ばせられる。

それにこれは射出させて攻撃する魔法の基本だから、アイシクルができないとほかの魔法もできない」

攻撃魔法に特化した魔族の血が半分流れるティオとしてはなんとしてでも出来るようになりたい。


「よし、氷柱を造る魔力と飛ばすための魔力、だな……」

ティオはアドバイス通りに魔力をためる。

まずはさっきよりも小さい氷柱を造り、残りを発射するための火薬役に回す。

そして溜めた魔力を一気に爆発させて氷柱を発射、的からは大きく逸れたけれどさっきとは比べ物にならない速度で飛んで行った。

これにはティーガーも驚いたらしく、はるか遠くに飛んで行った氷柱の方角を凝視する。

ティオも自分が想像した以上に氷柱が飛んで唖然としていたが、やがて嬉しさに笑みがこぼれた。

「やった! さっきよりもすごい飛ぶようになったよ!」

「それはいいが、今度はコントロールができていないな」

「え?」

褒めてくれるとばかり思っていたティオはティーガーの言葉にキョトンとする。

「コントロールができてない?」

「そうだ、一回の魔法に使う魔力が多すぎる。そんな風に一回の魔法を使いすぎるとすぐに限界が来るぞ」

「あ、そっか……」

氷柱を飛ばすことしか考えていなかったティオはそこまで言われてやっと何がいけなかったのか理解した。

「そのことも考えて練習するんだ。そうだな、まずは20歩離れた位置から始めよう。

的に当てること。同じ大きさの氷柱を撃つこと。氷柱を飛ばしすぎないこと。この3つを頭に入れて練習してくれ」

ティーガーは気を付けることを言いながら、魔法を唱えて地面に刺さっていた氷柱を彼の胴回りよりも大きくさせる。

「俺は村に戻るから、しばらく練習していてくれ。そうだな、1時間後には戻ってくるよ。

それまでに魔力の配分をうまくできてるように」

「わかりました!」

「出来なかったらお仕置きな」

「え……?」

笑顔でお仕置き宣言を受けたティオは固まっていたが、ティーガーは気にせず村に戻っていった。


ティオが1人で練習している間に村人からいくらか食料を分けてもらおうと考えていた。

けれど、ベルトナの家の前まで行ったとき、それも叶わないかなと判断した。

彼女の家の前ではエルサスとアイシャが二人の男たちと話していた。

彼らは村に行く途中で人を訪ねた冒険者の格好をした男たちである。

そしてティーガーのよく知る存在で、本当ならここで会うことはないはずだった。

「フォーデル! シュミット! 俺が恋しくてここまで来たのか?」

2人の男たちを呼べば、フォーデルと呼ばれた40代の顎髭を整えた男が申し訳なさそうに頭を下げる。

「申し訳ない。火急の用が入りました」

「だろうな。そしてその火急の用ってのは姫についてだな?」

「その通りです。また兵士の訓練について行ってしまったのです……」

「あのお転婆娘め……」

ティーガーがうんざりするように深いため息をついた。


ティーガーとフォーデルが話しているのを見ていたエルサスは申し訳なさそうに頭を掻く。

「いや、まさか探してる人物がティーガーさんだったとはね。気づかなかったな」

「しょうがないでしょ。口だけじゃわかりづらいし、額当ても外してるんだから」

フォーデルもやっと探してる人が見つかって安心したのか、疲れた表情で笑っている。

「ところで2人が言ってる姫って?」

「ああ、俺たちのところのお嬢様だよ。元気がありすぎる子でね、俺たちも困ってるんだよ」

「へ―そりゃ大変だね」

「でも、護衛は多いんだから私たちがいなくても大丈夫じゃないの?」

アイシャが疑問に思ったことを聞いてみると、シュミットはそうはいかないと肩をすくめる。

「親父さんは心配性なんだよ。だから俺たちについていくように言われたんだ」

「なるほどね……」

エルサスは納得したように頷くが、アイシャは非難するような視線を送る。

彼女の視線に気づきながら、シュミットは素知らぬ顔でエルサスと話を続ける。

「だいたい場所はわかってるんだ。今から行けばすぐに合流が……」


銃声が響く。

それも1発だけではない。何発も連続して発射する音と爆発する音が村にまで響く。

遠くに見える林からたくさんの鳥が逃げるように空へ飛び立つ。

恐らくあそこで何かが起きているのだろう。

作業をしていた村人たちは不安げに銃声の聞こえるほうを眺め、子供たちは親にしがみつく。

家の中でくつろいでいたベルトナとハーメルも何事かと慌てて出てきた。


「隊長!」

「そう遠くない、行くぞ。ハーメル君も来てくれ」

「わかった」

ティーガーはフォーデルたちを連れて、自分の馬がいる厩舎に急いで向かう。

その途中、数人の男たちを捕まえて指示を出す。

「何があったのか俺たちが確かめに行くから、誰も村から出さないでくれ」

「わ、わかった」

男たちはティーガーに言われたとおり、村人たちを家に避難させるために分かれて走り出した。


「ティーガ―さん!」

銃声を聞きつけて村に戻ってきたティオがティーガーたちを見つけて駆け寄る。

「あの銃声ってなんですか?」

「今から確かめに行く。冒険者とモンスターの闘いじゃないはずだ」

「僕も行きます!」

そう言うだろうと思っていたティーガーはため息をつきたい衝動を抑える。

「……馬で行くから俺と一緒に来てくれ。なにがあっても俺の命令を聞くんだぞ」

「はい!」

フォーデルがなにか言いたげにティーガーに視線を送るが、ティーガーはしょうがないと苦笑した。


正直、新米冒険者を連れて行くのは危険だが、ティオを説得するのは時間がかかるし、そんな時間はない。

だから連れて行くしかないと判断した。

「まぁ、死なないようにカバーするしかないよなぁ」

彼らは未だ銃声が止まないほうを目指して馬を走らせた。

今さら解説。


パラトカムシ

大型犬ほど(高さが50~60センチ)の足が長い虫。

繁殖能力が高く、一匹の女王が住む大きな巣を中心に複数の巣穴を各所に作っている。

攻撃方法は顎で噛み付くか、腹に生えた針で刺す。

危険度は星つだが1体の戦闘能力はそれほど高くはないので、初心者でも落ち着いて戦えば1人で倒すことはできる。

が、大きな群れを相手にするときは囲まれて引きずり倒されれば、起き上がることができず生きたまま分解されて餌にされてしまうだろう。


炎の攻撃が弱点で、体に引火すれば枯れ木のようにあっという間に燃えてしまう。

巣穴が攻撃されてたくさんのパラトカムシが殺されると、別の穴からだ脱出して仲間の巣穴に逃げ込む。

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