vsパラトカムシ
虫の表現は難しいですね。そして魔法の表現も難しいですね。
あれ、それ言ってったら全部難しいじゃねーか……。
村から街につながる道を外れて、草がはげて肌がむき出しになった大地。
そこに大人一人が入れるほどの穴が開いている。
1つではない。一定の間隔をあけてもう1つあり、さらに離れた場所に穴がある。
全部で5つ。
周りには今回の討伐対象であるパラトカムシが仕留めた鹿を分解して穴に運んでいた。
頭部、腹部、腹部の間にくびれがある蟻に似た虫で大型犬ほどの大きさである。
赤と黒が混じった毒々しい色で長い腹部には長い針が生えていて、強力な顎で噛みつき針で刺し殺す戦い方をする。
分解されている鹿も囲まれて逃げ場を無くし、足を噛まれて動けなくなったところでめった刺しにされて殺された。
「数多いね……」
「そうね、外に出ているだけで20は超えてるわよ……」
離れた位置にしゃがみ込んで観察していたティオとアイシャはそれぞれ感想を漏らす。
2人は巣から出てきたパラトカムシが動き出したら知らせるように見張りを任されていた。
「いい? パラトカムシは動きが遅いけど針には気を付けてね」
「うん、わかってる」
ティオはアイシャに返事をしながら、夕方までに習ったことを思い返していた。
自分の体に流れてる魔力を一か所に集めて、それをイメージした形に放出する。
言葉にすると簡単だが、標的を攻撃できるほどの威力にするには訓練が必要だった。
攻撃魔法が得意な魔族の血が流れてるのが幸いして、簡単な魔法を覚えることは早かった。
ティーガーはティオが覚えがはやいとわかると予定していた練習内容を変えてみた。
「うん、やっぱり魔族だから覚えが早いな。それじゃもう少しハードにするか」
そう言って案山子を建てる。
それからは同じ魔法をより速く、より強く撃てるように3時間も繰り返し続けた。
簡単な魔法でも長時間、撃ちつづければ魔力が枯渇し気力も萎えてくる。
けれど、少しでも失敗するとティーガーは笑顔で木の枝で叩く。
「集中しないと駄目だろ。ほら、今度は1分以内に案山子の頭に5発当ててみろ」
練習が終わってみるとティオは心身ともにずたぼろで、出発する前からぐったりしていた。
ティオは練習の成果を試したくて、じれったそうに身じろぎする。
「まだ虫も動かないかな?」
「もう、ちょっとは落ち着いてよね。そろそろティーガーさんたちも終わるでしょ」
アイシャの言葉が合図になったように、群れの一部が鹿の死体から離れだした。
「よし、動き出した!」
ティオとアイシャも気づかれないように注意しながらその後を追いかける。
群れから離れたパラトカムシは撒き散らした野菜のくずを見つけた。
周囲からはおかしな臭いが混じっているけど、パラトカムシは気にせずに野菜を食べ始めた。
野菜に集まっているのは7。
周囲を警戒もせずに散らばっている野菜を食べるのに夢中になっている
離れた位置ではティーガーとハーメルが身を隠していた。
ティオたちが来るとティーガーは笑いながら手を振る。
そして発煙手榴弾に火をつけてパラトカムシの中央に投げた。
パラトカムシたちは投げ込まれた発煙手榴弾に気が付かなかったが、一気に煙が噴き出すと甲高い悲鳴を上げて逃げ出した。
仲間の悲鳴を聞きつけたパラトカムシが穴から這い出して周囲を警戒しだす
その数は50を超える。
腹を立てて首を左右に振って、4つの目で敵の姿を探している。
ティーガーが握った拳を2回振りかぶる。
攻撃の合図! ティオは立ち上がって掌をパラトカムシに向かって突き出す。
ティーガーも立ち上がり、広げた両手を突き出す。
現れた敵にパラトカムシが一斉に動き出す。
群れをなした大きな虫が目を光らせて向かってくる様は鳥肌物だが、集中して掌に魔力を集める。
意識して体を流れる魔力を意識すれば、手が淡い光に包まれて暖かくなる。
それから頭の中で炎をイメージ。溜めた魔力を一気に放出した。
掌から放出された真っ赤な炎がパラトカムシを飲み込む。
パラトカムシは苦しむ間もなく高温の炎に身を焦がされて死に絶えていく。
ティーガーも攻撃を始める。
炎の弾が着弾して爆発、パラトカムシをまとめて粉砕していく。
「前に出るけど、私を焼かないでよ!」
アイシャが前に飛び出して、焼け焦げた仲間の死骸を踏み越えて近づいてくる1匹の頭に槍を突き立てる。
緑色の体液が噴き出すけれど、パラトカムシは死なずにアイシャに噛みつこうと迫る。
アイシャはそのしぶとさに顔を顰めながらも引き抜いた槍を素早くもう一度突き立てた。
さらに刺した状態で乱暴に槍を横に振って、頭の中身を派手に撒き散らす。
もう1匹、横から針を刺そうとするパラトカムシの背中に石突き(刃とは逆の先端方向)をぶつけて怯ませる。
そしてまた頭を潰そうとしたが、護るように2匹がアイシャに襲い掛かる。
「アイシャ、下がって!」
腹を狙った針の攻撃を防ぎながら、素直にティオの指示に従う。
ティオがアイシャを追いかけようとしたパラトカムシを焼き払う。
「ティオ!」
目の前の敵に集中していたティオの後ろから忍び込んだパラトカムシが太ももに噛みついてきた。
「いってぇ!」
あまりの痛みに悲鳴を上げながら、足を振って噛みつくパラトカムシを引きはがそうとするけれど、パラトカムシは決して顎を離そうとしない。
「この、離せよ!」
ティオは剣を引き抜いてパラトカムシの首に突き刺し、力任せに胴と頭を引き裂いた。
けれど、死んで頭だけになってもパラトカムシは噛みついたままで足から離れない。
しょうがないので痛みに耐えながら顎を開けて無理やり引きはがす。
「ティオ!」
1匹に気を取られていたティオに襲い掛かろうとしていたパラトカムシの頭に矢が刺さる。
ハーメルが近づいてくるパラトカムシを足蹴にしながらティオを狙うパラトカムシに矢を射かけ続ける。
「早く魔法を唱えろ! また噛まれるぞ!」
「ご、ごめん!」
急いで魔力を掌に集める。
アイシャが守ってくれているとはいえ、さっきよりも近いパラトカムシの数に恐ろしさを感じる。
けれど、短時間の訓練で覚えたたった一つの魔法を素早く唱えることができた。
再び高熱の炎がパラトカムシを包み込み、一瞬で黒焦げに炭化させていく。
「もう少しだ! 頑張れよ!」
ティーガーは刀身に炎を帯びせた剣で切り払いながら仲間たちを励ます。
ティオも足の痛みを我慢しながら迫るパラトカムシの群れに火を放ち続ける。
アイシャとハーメルも炎魔法から逃れたパラトカムシを払いのけ、囲まれないように互いに援護しあう。
腕を横に払って3匹をまとめて焼き払った所でパラトカムシの群れが逃げ出した。
焼け焦げ、斬り殺された虫を踏み越えて穴へと逃げ込んでいく。
「待て、逃がすか!」
そのあとを追いかけたティオは穴の中に炎を浴びせる。
暗くて見えないけれど効果はあったらしく、中から複数の悲鳴が聞こえた。
悲鳴が聞こえなくなっても炎を放ち続けていたが、ティーガーに優しく肩を叩かれた。
「もう大丈夫だ。俺たちの勝ちだよ」
「勝ち、ですか?」
「そう、俺たちの勝ちだ」
しばらく炎を放てるように身構えていたけれど、やがて、へたりと地面に座り込んでしまった。
「やっと終わったー」
気が抜けて座りこんでしまったティオは腕で額の汗を拭う。
その隣にアイシャが座る。
彼女も疲れた表情をしていたが、へにゃりとティガに笑いかけた。
「お疲れ様、やればできるじゃん」
「僕だって冒険者だもん。これぐらいやってみせるよ」」
ティオも笑って見せたが、足の痛みを思い出して顔をしかめる。
「そういえばパラトカムシに噛まれていたな。ちょっと見せてみろ」
ハーメルがティオを寝かして太ももを見る。
噛まれた部分は真っ赤に腫れていて、パラトカムシの剥がれた牙が何本か刺さっていた。
「待ってろ、すぐに治療してやるからな」
そう言って牙を引き抜くとポーチから薬草をすりこむ。
痛みに呻きながらティオはハーメルが回復魔法を使わないことに疑問を感じた。
「なんで回復魔法使わないの?」
「菌が入ったかもしれないから、まずは薬草で殺菌してからだ」
「あ、なるほどね……」
「村に帰ったら回復魔法をかけてやるからな」
「ほら、もうちょっと我慢しようねー」
「ねぇ、子供扱いしないでよ……」
頭を撫でようとするアイシャの手を払いのけてジト目で睨みつける。
「なに言ってんの。私より年下でしょー?」
「これでも15歳だよ!」
「え……?」
その瞬間、アイシャだけでなく、ハーメルとティーガーも驚愕に固まった。
虫退治終了。ちょっとあっさりしすぎましたか?
そういえば、いろんな人の作品を見てるから感想書きたいんだけど、どんな腑に書けばいいのか悩んでしまう。