野営地設置
サブタイトルの通り、野営地を設置します。
まだ日が沈んでいないけれど、村までの道が半分まで来れたティオたちは野営の準備を始めた。
草が踏み締められた道から離れた場所にテントを張った後はティオが見張りに立ち、ハーメルは周囲を見回りに出かけた。
視界が開けているため、ティオが立っている場所からもハーメルの姿が見える。
しゃがみ込んで穴を開けると、ポーチから取り出したアイテムに火をつけて埋めていく。
するとうっすらと煙が上がっていく。
埋めたアイテムから煙が昇っていくのを確認したハーメルは一定の間隔をあけて、また同じアイテムに火をつけて埋めていく。
ハーメルは全部で6個、野営地を囲うように埋めて戻ってきた。
なにをしていたのか気になったティオが聞いてみると、モンスター避けの仕掛けをしてきたそうだ。
掌に青色と緑色の混ざった粉末を広げて見せる。
「これを燃やすとモンスターが嫌って近づいてこないんだ。発煙手榴弾と違って臭いは凄い薄いから、僕たちはなんともないよ」
「へー、こんなのがあるんだ」
「エルフ族の知恵だよ」
そう言って少し誇らしげに胸を張る。
彼が言うには材料はすぐに手に入るけれど、分量に気を付けなければいけないこと。
失敗すると効果が発揮できなかったり、ひどい臭いがして嗅覚が潰れてしまうらしい。
「まぁ、よかったら教えてあげるよ。別に他種族に教えちゃいけないものじゃないし」
「本当に? ありがとう!」
それからエルサスが食事を用意するまで、ティオはハーメルからいくつかの薬の造り方を習った。
干し肉と野菜を煮込んだスープに固い黒パンが振る舞われた。
3人で食べるには少ない量だけれど、久しぶりに温かい食事に思わず笑みがこぼれる。
皿を拭ったパンを頬りながらエルサスが二人に提案する。
「見張りは俺も含めて3交代にしよう。最初はティオ君で次がハーメル君、俺が最後って順番だ」
エルサスの提案にハーメルは首を振る。
「護衛対象であるエルサスさんは休んでいてください。見張りは俺たちがやります」
ティオもハーメルの考えに賛同して頷く。
「おいおい、2人で後退しながら見張るってのはきついもんだぜ。ここは大人の好意に甘えてくれよ」
「けれど……」
なおもハーメルが何か言おうとしたしたけれど、言わせないように手を上げて制する。
「俺だって狩りにいくから武器の扱いは素人じゃない。それにやばくなったらこれであんたらを起こすよ」
そう言って立ち上がると馬車からマスケット銃を取り出してきた。
ティオたちはわからなかったが、それは銃身の内側に溝が彫られた命中精度の高い狙撃銃である。
さらにもう1つ、腰から拳銃式のマスケット銃を2人の前にかざして見せた。
こっちは溝が掘られていないし銃身が短いので至近距離で撃たなければ当たらないだろう。
「これだけあれば俺だって時間稼げる。どうだ、少しは任せられるだろ?」
ハーメルはエルサスの自信たっぷりな発言に不安を感じてティオに視線だけを向けて尋ねる。
ティオも悩んでマスケット銃を見つめていたが、やがて大丈夫だろうと判断して頷いた。
「エルサスさんも見張りに立ってもらおうよ」
「……それじゃあ、お願いします」
ハーメルも観念したように溜息を吐くと、エルサスに頭を下げた。
「でも無茶はしないで下さいよ。なにかあったらすぐに俺たちを呼んでください」
認めてもらったエルサスは満足そうに頷く。
「わかってる。無茶はしないよ」
そう言うと布を広げて、そのうえで分解を始めた。
手際よく解体していくと、部品1つ1つを念入りに布で拭って油を薄く塗布していく。
そして手早く組み立て直して作動を確認すると、今度は拳銃の掃除を行う。
ティオはその手慣れた動作を珍しそうに眺める。
「マスケット銃っていろんな種類があるんですね」
「まぁな、特にドワーフの造るものは数が豊富だ。奴らの技術力は高いからなぁ」
あっという間に組み立てた拳銃を手で弄びながら、自分の知ってる物を上げていく。
「まず挙げられるのはアクス砲ブロヌス砲だな。
アクス砲は拳ぐらいのでかい球を撃ちだす小型の大砲みたいなもんで、モンスター相手でも一発で殺せる。
ブロヌス砲は銃身を長くすることで射程距離を伸ばしたマスケット銃だ。
他にも小さな玉をばらまく奴とかいろいろあるな。
ま、やっぱ重たいし装填の時間がかかるから使わないけどな」
「そうですね、1発は強いですけど、好んで使う冒険者はいませんね」
火薬銃を好まないエルフ族らしくハーメルも嫌そうな目でエルサスが持っている物を見る。
この時代のマスケット銃は内側に溝が掘られているか、いないかで分けられる。
内側に溝が掘られていないものは安価だけれど命中精度は絶望的で、軍隊では相手の目が見えるぐらいの距離で撃てと教えられる。
溝が掘られている物は命中精度が高く、狙撃銃として利用される。
ただし弾を込めるときに溝が引っかかってしまい、装填に時間がかかってしまう。
軍隊ではマスケット銃歩兵、魔法兵士、騎兵を組み合わせて戦うが、モンスターと戦う冒険者はマスケット銃を使わない。
動きが俊敏なモンスターでは攻撃に時間がかかるし、生命力も高いため一発で殺せない確率が高い。
それなら威力は弱いけど連射が利き、毒を塗りこめる弓矢を使用したほうがいい。
「ほら、3人が固まってるのもなんだろ。ティオ君はそろそろ見張りに立ってくれ」
「あ、わかりました」
持っている武器の手入れが終わったエルサスはティオにそう言うと、放置していた3人分の食器を馬車にしまう。
「ティオ、頼むから居眠りはしないでくれよ」
「失礼な! 僕は子供じゃないよ!」
憤慨して立ち上がったティオは見張りをするために馬車に上る。
食器をしまったエルサスは食後の酒を飲みながらハーメルに小声で話しかける。
「あの坊や、絶対に寝ちまうだろ」
「……それはない。と、言いたいところだけど、怪しいですね」
「そうだな、後退する前に寝ちまうに500エルク賭けるぜ」
「交代は3時間後ですよね。なら眠らないほうに賭けますよ」
内心、勝率の悪いかけだと思いながらエルサスの賭けを承諾した。
身体能力が高いティオは二人の話し声をしっかり聞いてしまっていた。
「絶対に眠らないもん……」
ハーメルが交代に立つまでの間、ティオは苦い木の実を齧って眠気と戦った。
また説明長いかな……? もっと簡潔にまとめられるように頑張ります(汗)