冒険者の疑問
今回は主人公たちと違う冒険者の話です。
暗い林の中に輝く3つの怪しい光。
体全体が黒のために夜の林に溶け込んでいるけれど、装飾された骨の装飾と赤い目だけがわずかに存在を主張している。
茂みにしゃがんでいるアイアンドール3体は虫が体によじ登っても身動き一つしない。
ただ、林の沿って伸びている道を見張っているらしく、道に沿って頭を左右に動かしている。
武器は2体が剣と盾で武装し、マスケット銃を持った1体は森のほうに頭を向けている。
東から馬車が走ってくる。
それにいち早く気が付いた1体が味方の鎧を叩いて指をさす。
月の光も覚束ない夜に馬車を走らせる危険を冒す大事があるのか、しきりに馬に鞭を当てて走らしている。
商人の隣に座る人族の護衛――姿から冒険者か――は弓矢を膝に置いて林を見ていた。
アイアンドールは護衛が攻撃的な動きをした瞬間に撃てるように銃口で追いかける。
が、冒険者は隠れている魔物に気が付かず、商人の馬車はアイアンドールたちの前を通り過ぎて行った。
馬車が通り過ぎて行った後もしばらく構えていたアイアンドールは、自分たちの脅威にならないと判断してマスケット銃を下す。
木々の隙間を塗って飛翔した光の矢が警戒を解いたアイアンドールの頭を貫く。
矢は刺さった瞬間に爆発、アイアンドールの頭を粉砕した。
頭部を亡くしたアイアンドールは地面に倒れてスゥッと水に溶けるように消えた。
「いくぞ!」
冒険者のアルシムが身にまとっていた茂みを払って駆け出す。
その後ろを同じように茂みでカモフラージュしていたレイノとガブリオが続く。
思わぬ奇襲に味方が倒されたけれど、2体のアイアンドールは慌てず、盾を前にして冒険者たちを迎え撃つ。
1体はリーダーと予想してアルシムに斬りかかる。
1人と1体は剣がぶつかると離れて、またすぐに剣と剣をぶつけ合う。
体格では劣るアルシムは剣と盾で相手の剣を受け止め、軌道をずらして防御に徹する。
レイノが高く飛んで両手に持った短剣を同時に突き出す。
アイアンドールは盾を翳して防御、そのまま突き出してレイノの華奢な体を弾き飛ばす。
レイノは地面に叩きつけられたがネコ科の動物を思わせる動きで跳ね起きると、大きく横に飛んで振り下ろされた剣を避けた。
そしてアルシムと戦っていたアイアンドールの足を蹴りつける。
アイアンドールの体がバランスを崩してたたらを踏む。
タイミングを合わせるように踏み込んだアルシムの剣がアイアンドールの首を狙う。
が、その一撃すらも盾で塞がれてしまい、反撃に薙ぎ払った剣がアルシムの胸当てに傷をつけた。
レイノがうしろから短剣を指そうとしたが、盾を持った腕がバックハンドの要領で太い腕がふり払われたので慌てて下がった。
レイノに斬りかかろうとした1体は遅れて駆けつけたガブリオが引き受ける。
ドワーフの彼がアイアンドールと対峙すると、その身長さは2倍近くある。
けれど、力ならアイアンドールに負けていない。
打ち下ろされる一撃一撃を弾き返し、隙を見て叩き込む斧が鎧に亀裂を造る。
またガブリオの斧が足に打ちつけられ、アイアインドールの体が地面に沈む。
チャンスと感じたガブリオはその首を切断してやろうと斧を大きく振りかぶった。
が、アイアンドールはしゃがんだ姿勢から体を旋回させて、不用意に近づいたガブリオの脇腹に爪先を強打させる。
「ぐふっ!」
地面に転がったガブリオは苦しげに腹を押さえる。
骨がいったのか、蹲って呻くばかりで起き上がれない。
「ガブリオ!」
レイノがポーチからアイテムを取り出して起き上がるアイアンドールに投げつける。
爆竹はアイアンドールの顔の前で炸裂し、派手に火花と音を撒き散らして動きを止める。
「ルア」
その隙に魔法を唱えて蹴られた場所を治療する。
ほのかに光る手で脇腹に触れているだけで痛みが引いていき、わずか数秒でガブリオは立ち上がることができた。
「すまん、助かったわい」
「どういたしまして、ほら、来るわよ!」
まだ破裂する爆竹を無視して大きく踏み込んだアイアンドールが剣を突き出す。
レイノを押しのけるように前に出たガブリオが斧で受け止める。
剣と斧がぶつかって拮抗する。
ガブリオは腹が大きく膨らむほど息を吸い込むと、林中に響くほどの裂帛の気合いを入れる。
「ブルゥアァ――!」
筋肉が一気に膨れ上がって受け止めていた剣を勢いよく弾き返す。
そしてがら空きになった胴体に斧を叩き込んで鋼の鎧を破壊してしまう。
破壊箇所から黒い煙が吹き出し、巨体が大きくよろめく。
「アルシム!」
「任せろ!」
レイノが入れ替わってアルシムが相手をしていたアイアンドールを引き受ける。
「ライトニング・アロー!」
光り輝く矢が生まれて、アイアンドールの頭めがけて高速で発射する。
アイアインドールは避けることができず、狙い通りに兜に護られていた赤い石を貫いた。
光りの矢は爆発して兜もろとも石を粉砕、アイアンドールの体が砕けて消える。
回避に徹していたレイノは敵を1体撃破したことを視界の隅で確認して攻撃に転じた。
下から切り上げた剣を避けて体を旋回、遠心力を付けた一撃を腹に見舞う。
分厚い装甲に阻まれてダメージは与えられないが、アイアンドールの動きが一瞬止まる。
レイノは両手に持つ短剣をアイアンドールの剣を持つ腕に刺して一気に捻り上げる。
鎧の隙間に刺さった短剣が滑るように動いて、その腕を切り落とした。
「むぅん!」
さらにガブリオの斧が膝裏を破壊して、アイアンドールを跪かせる。
「これで御終いだ!」
アルシムの剣が一閃し、アイアンドールの首を撥ねた。
こうしてアルシムたちは3体のアイアンドール討伐のクエストは成功した。
クエスト成功の証拠品となる赤い石を回収して、離れた場所に止めた馬のもとへ向かう。
「それにしても今回のクエストはおかしかったわね」
エルフ族であるレイノは先頭に立って目を光らせながら、今回受けたクエストを振り返る。
クエスト依頼者は街でも有名な店の主人。
商品を運ぶ商隊が林の中で道を見張っているアイアンドールを発見した。
その時は襲われずに逃げることができたが、その道は商品を運ぶのに利用している道。
安全を確認するために魔物を排除してくれというものだった。
「あの魔物たちはなんで道を見張ってたのかしら? 明らかに誰かを待ってる様子だったわ」
「そうだな。商人の馬車が通っても攻撃を仕掛けなかった。特定の人物を見つけるように命令されていたのか?」
アルシムも疑問を感じて考える。
正直、商人が襲われたときはどうしようかと焦っていた。
せっかくカモフラージュしてアイアンドールに近づいていたのが失敗するかと3人は思った。
けれど、アイアンドールは商人を無視した。
なにを考えているのか知らないが、明らかに目的を持っていたとしか思えない。
「とりあえずギルドには報告しておこう。俺たちが考えたところでなにもわからない」
「奴らが何を考えてるかわかるわけないだろ。さっさと帰って酒を飲もう!」
ガブリオが豪快に笑って難しい顔をしているアルシムの腹を斧の柄で乱暴につつく。
「もう、あなたは大人しくしなきゃ駄目よ。街に戻ったらちゃんと蹴られた場所をケアしなきゃ!」
「そんなの酒飲んで寝れば大丈夫だ」
ガブリオは面倒臭げに手を振るけれど、レイノは眼を鋭くしてガブリオの顔に指を突きつける。
「駄目よ、脇腹の治療をするからお酒は禁止!」
「そ、そんな……!?」
レイノの発言にガブリオが信じられないと言いたげに限界まで目を開く。
その様がおかしくてアルシムはフッと笑ってしまう。
レイノとガブリオが酒を飲む飲まないかで言い争っていると、考える気が失せてしまった。
とりあえずは駄々をこねるガブリオを宥めてやることにした。
クエストの受け方・達成の仕方。
受けたいクエストが書かれた紙を受付に持っていき、サインすればそれでOK.
ただし討伐クエストだった場合、受ける冒険者が討伐対象と同じ星の数のモンスターを過去に倒していなければならない。
クエストを達成するには
採取系では目標の物を、討伐では討伐対象の部位を渡す。
運搬・護衛だった場合、ギルドから書類が渡されているので、対象者からサインをもらうこと。
クエストに関係なくてもモンスターの部位を渡せば道具屋やギルドで買い取ってくれる。
例 アイアンドールの赤い石 モンスターの毛皮や牙など。