片想いの生霊
写真には、笑顔でピースをする目が伏せられた女性、その横のテレビの画面には、女性を凝視する男性の顔。これはテレビの心霊写真コーナーで紹介された写真である。
騒めくスタジオ。
画面には幽霊と思われる男性の顔がアップされ、司会者が解説も含めてコメントをした。
「これは…怖すぎます。テレビは消えていますから、この人はテレビの人じゃないですよね」
驚愕するスタジオ。
ゲストのお笑い芸人が、「見たことある顔だな」と言うと、「あいつかぁ?」と相方も呟いた。笑いでスタジオが和むと、司会者は霊媒師に見解を求めた。
「どういうことですか」
霊媒師がキッパリと言った。
「生霊です」
「生霊!」と司会者がたじろぐと、スタジオは騒ついた。
「するとこの世にいるということですよね?」
司会者の問いに霊媒師は頷いた。そこで司会者は正面を向き直ると、改まって言った。
「今日はスタジオにお呼びしてます」
「生霊をですか?」
お笑い芸人がボケを差し込んだ。
「違います!この写真に載ってる女性ですよ!」
笑いに包まれたスタジオに颯爽と登場したのは、今人気アイドルの森下燈二十歳であった。スタジオは驚愕の声に変わった。
一ヶ月前。
「何言っているんですか。そんなんでテレビに出たくないですよ」
そう言うのはお笑い芸人の坂下駿、二十三歳。
「写真を見せていただけますか」
番組プロデューサーの田中が写真を見せた。駿は写真をじっくりと見た。
「僕に似てますね」
「生霊です」
「い、生霊?僕のですか」
「ではないでしょうか」
駿は顔をしかめて言った。
「で、テレビに出るっても、生霊って…」
駿は売れないお笑い芸人で、森下燈の大ファンであった。それは公言しており、イベントやライブにも足繁く通い、燈と面識もあり、いつか売れて共演したいと願っていた。芸歴五年目の駿は、劇場だけでテレビに出たことはなく、とにかく売れる気配はなかった。
かつてファンイベントで燈と話すこともあったが、芸人であることは伏せて、燈を笑わせることに夢中だった。
相方は、「あいつは客席に向かって『ですよね!燈さん』って、みんな誰だよってなって。笑。それもネタは下ネタでしたからね」とエピソードを語った。
三年前。駿はテレビで燈に一目惚れをした。燈がブレイクするとバラエティ、ドラマ、CMとテレビで見ない日はなくなり、駿はファンの域を超えて、燈に恋をしていた。いつか売れて燈と結ばれたいと強く願うようになっていった。
プロデューサーが言った。
「燈さんが写真を見て、ファンの君かもと…」
「幽霊を見て、俺かもと言われても」と、駿は苦笑いをした。
「こうして君の気持ちが生霊となって現れたのも、森下さんが気付いたのも何かの縁。番組で共演してはどうかな」
プロデューサーの言葉に、駿は燈に会えるならと渋々承諾した。
現在、スタジオ。
「森下さん、この生霊に見覚えはありますか」
司会者の言葉に、燈は「はい」と小さく頷いた。
「今日、お越しいただいてます」
「生霊がぁ?来てるぅ?」
ゲストは驚き声を上げ、燈も目を見開いた。スタジオは騒然とした。知っているのは、司会者とスタッフだけであった。
司会者の「では、生霊さんどうぞ!」の声に駿がスタジオへ登場した。
「よくお越しいただきました、生霊さん」
司会者の言葉にスタジオは爆笑に包まれた。
ゲストのお笑い芸人は、「やっぱお前かぁ!」と叫んだ。彼らは駿の先輩芸人であった。
「お前、燈ちゃんのファンって言ってたなぁ」
「でも、生霊ってキモいだろ!」
先輩芸人らは駿をいじった。
駿が照れ笑いで燈にお辞儀をすると、燈も照れ笑いで応じた。
司会者は駿の方へ向いて番組を進行した。
「坂下さんはお笑い芸人をしていて、熱烈なファンが故に森下さんちのテレビから出てきてしまったのですね」
「テレビから出てきたって、貞子じゃないんですから。笑」
駿のツッコミでスタジオがウケた。司会者は燈に話を振った。
「で、森下さんは坂下さんとわかったのですか」
燈は写真を覗き込みながら、「似てるなぁとは思いました」と答えた。
「面識はあったのですか」
「はい。イベントで話したことはあるので。でも、お笑いやられているとは知らなかったです」
司会者はカンペを見ながら言った。
「ここで生霊が告白。そうなんですか、坂下さん」
「聞いてませんよ!!」と駿が司会者の言葉を手で払った。そこに先輩芸人がガヤを飛ばした。
「何のための生霊だよ」
「番組壊すなよ」
駿は先輩芸人に言い返した。
「心霊番組で告白なんてないでしょ!」
しかしその後、駿が告白する流れとなった。
「燈さん、よろしくお願いします」
手を差し伸べた駿の言葉に、燈はお辞儀した。
「ってなるじゃん!生霊だし!」
駿はツッコんだ。
しかし、燈は駿の手を取り言った。
「こちらこそよろしくお願いします。生霊を出すくらい想っていただけたのですから、私も気持ちに応えます」
スタジオは大きな拍手に包まれた。
完




