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三年後に世界が滅ぶゲームのチュートリアルで死ぬモブキャラに転生した俺はたぶん世界を救わない。  作者: あかむらさき


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第01話 『もしもこの世界が夢の中なら』

「お兄ちゃん! どうしてまだ寝てるの!?」


 朝から『妹』の可愛らしい、そして姦しい声が部屋の中に響く。


「いや、どうしてって言われても……今日は久しぶりの連休だし? ゴーイングマイウェイ、寝過ぎで顔がむくんで自然に目が覚めるまで寝る! そしてゲームの続きをする予定なんだけど?」


「何を寝ぼけたこと言ってるの!? 連休は昨日までだよ! 今日は高校の入学式の日だからね? それに、お兄ちゃんがゲームしてるトコとか見たコトないんだけど?」


 何やらプリプリしている妹を華麗にスルー。掛け布団をズリズリと頭までかぶり直す。


「とりあえずあと五分だけ……」


「駄目だってば!」


 ぐいっ。


「ならあと三十分……」


「どうして大幅に伸びてるの!?」


 ぐいぐいっ。

 華奢な彼女の体のどこにそんな力があるのか。

 妹様との布団引っ張り合戦はこちらの力負けで終わりそうだ。


「クッ……こうなれば最後の手段」


「えっ?」


「抱き枕、確保ォ!」


「きゃんっ!?」


 勢いよく布団を跳ねのけ、そのまま妹の腕を掴んで深淵(ベッド)の中へと引きずり込む。


「ちょ、まっ!? お、お、お兄ちゃん!?」


 ぎゅっと抱きしめた彼女の体はとても柔らかく。

 両腕にすっぽりと包みこまれた柔らかな小さな頭部――その髪からはフローラルなシャンプーと子ども特有の甘い匂いがする。


「……うん。これならあと三時間は余裕で戦えるな」


「何とっ!?」


 妹が素っ頓狂な声を上げる。


「ていうかお兄ちゃん? 本当にどうしたの? お兄ちゃんってそういうキャラじゃないよね? やっとあのクソ女の呪縛が解けて妹愛に目覚めた? もしかしてこれ、実妹ルート来ちゃってる?」


 それから少しの時間フリーズの後。彼女の中で何かが天元突破したらしく。


「お兄ちゃんフォーーーーーーー!!」


 と、どこかで聞いたことがあるような奇声を上げる妹様。

 コアラのように両手両足でガッチリと俺の体を固定(ホールド)する。

 ……抱き枕に抱きつかれるとはこれいかに。それにしてもこの体勢は……。

 さすがに兄妹でも、むしろ兄妹だからこそマズイのではなかろうか?



 ――というような、ほんわかした(?)朝の一コマの途中で我に返る。


 ……オーケィ。一旦冷静になろう。

 まず、俺の腕の中に居るセーラー服姿の小柄な少女。

 小学生……いや、セーラーってことは中学生だろうか?

 現実には絶対に存在しなさそうなとても愛らしい妹様が人様に見せられない蕩け顔でガッチリと抱きついている。


 ……俺、一人っ子で姉妹とか居たこと無いんだけど?

 そんな俺が、どうみても未成年の見知らぬ少女をベッドの中にひっぱり込んでるとか。


「これ、どう考えても事案だよな?」


「大丈夫だよ! 愛があれが血縁関係なんて乗り越えられるよ!」


「それ、社会常識もだけど法律的に絶対乗り越えちゃ駄目なヤツだからな?」


 意識がハッキリしてしまえば、そこは分別のあるアラサーなオッサンの俺なのである。


「えっと……お兄ちゃんは、どうしていきなりスンッとした顔になって、私を部屋から追い出そうとしてるの?」


「これから着替えるからだけど?」


「お着替えっ! だったら私もお手伝いをいたします!」


「しなくていいから出てって?」


「お兄ちゃんはどうしてそんな酷いことを言うの!?」


「一般常識しか語って無いんだよなぁ」


 頬を膨らませながらゴネ続ける妹様と押し合いへし合い。

 なんとか部屋の外へ押し出すことに成功したのは十分後。


『もう! もう! もう! じゃあ、着替え終わったらちゃんと呼んでね?』


「牛かお前は。着替えたら俺が下におりていくから呼ばねぇよ」


 扉の外、小さく音を立てながら離れていく彼女の足音。


「……てことで、やっと一人になったわけだが」


 改めて部屋の中を見回す。

 広さは六畳……いや、八畳はありそうだな。

 白い壁にフローリングの床。

 一人で寝るには少し広め、セミダブルサイズのベッド。


 シンプルな多機能デスクにはパソコンとモニターアームに支えられた27~28インチサイズのディスプレイ。

 こちらも白い洋服箪笥の隣、大きな本棚に実用書があいうえお順に綺麗に並べられている。


「どこからどう見ても俺の部屋じゃないんだよなぁ」


 少なくとも一人暮らしを始めてから、俺の部屋がこんなに整理整頓されたことは一度もない。


「一応様式儀みたいなものだし? 記憶喪失のテンプレみたいなことを言うけど……ここはどこ? 俺……とあの妹は誰? いったいこれはどういう状況なの?」


 ぶっちゃけ浅い夢、明晰夢とかそういうのだとは分かってるんだけどさ。

 まぁそのうち目が覚めるだろうと、暇つぶしに家探し――


「九郎ちゃん、ちゃんと起きてる?」


「えー……」


 しようとした所で『ガチャリ』と音を立て、妹様とは違う侵入者によって閉じたばかりの扉が開かれた。

 ……まったく状況整理が出来てないのに、また登場人物が増えたんだけど?

 扉の隙間からひょっこりと顔を覗かせたのは一人の少女。


 肩下まで伸びた黒髪に、透き通るような白い肌。

 病弱というわけでもなさそうだが、どこか「俺がこいつを守ってやらなければ!」という決意を起こさせる、幸の薄そうな雰囲気を漂わせるその顔(かんばせ)。


 さきほど見た妹より少し年上だろうか?

 落ち着いた黒いブレザー、金糸で縁取られた制服に身を包み――ってこの子の着てる制服、そして胸元に付いてる厨二病チックな、龍を象った校章。


「……それって黄龍学園の制服だよな?」


 えっ? 今日は入学式だとか妹が言ってたけど、どうしてこの女の子は朝っぱらからコスプレしてるの?

 思わず彼女を不躾に見つめてしまう俺の視線に、くるりとその場で一回転。

 ……いや、なんで回った?


「もう。そんなにじっと見られたら恥ずかしいよ?」


 『照れたように笑う美少女』という破壊力抜群の攻撃。

 オッサンにはクリティカルヒットな眩しさである。


「どうかな? 似合ってる?」


 似合ってるというか、似合いすぎていて意識を持っていかれそうだったわ。

 しかし! 今の俺が意識を向けるべきはふわりと舞い上がった制服のスカートでも、折りたたまれたソックスからスカートまでの憎々しいまでに肉々しい生足でもなく。


 ……この子の顔に物凄く見覚えがあるんだけど?

 もっとも、見たと言ってもそれはモニター越しの話で。

 二次元の立ち絵姿なんだけどさ。


「もしかしてだけど……九重(ここのえ)牡丹(ぼたん)さん?」


 そんな俺の問いかけにキョトンとした顔で目を丸くする彼女。


「どうしていきなりフルネーム? もしかしなくても、牡丹だけど?」


 マジかよ……。


 九重牡丹。

 『魔人戦記』――俺が昨日、寝落ちするまでプレイしていたゲームに登場するヒロインの一人。

 正統派ヒロインと言えるその容姿から、公式の人気投票でも常時トップファイブに入るキャラクター。

 画面の中でしか見たことのなかったそんな少女が、今は目の前で自然に動き普通に会話をしている。


「なにこれ立体感がすげぇ……」


 先程の妹様のように、思わず『フォォォーーーーーー!!』と叫びそうな衝動に駆られる俺。

 ゲームのキャラクターが現実にいる!

 しかも推しヒロインの一角!

 なんだこれ最高なんだけど!?


 さきほどまで『ここはどこだ?』とか『何が起こったんだ?』とか悩んでいたことなんて一瞬で頭から吹き飛びそうになるほどの大・興・奮っ!!

 ……まぁそれも一瞬で、すぐに顔を引き攣らせることになるのだが。


「九郎ちゃん、どうしたの?」


 彼女が家まで迎えに来る男子。

 彼女が九郎と呼ぶ――幼馴染。


「もしかしなくても九郎って『駿河(するが)九郎(くろう)』のことだよな?」


「どうして自分の名前なのに疑問形なの?」


 駿河九郎。

 もちろん彼もゲームに登場するキャラクターの一人。

 そしてゲームの序盤も序盤、チュートリアルダンジョンで起こるイベントで……


「よし! 今日の入学式の参加は中止で! ていうか、今すぐに転校の手続きをしなきゃ!」


「どうして!?」


 死んでしまうモブキャラの名前なのである。

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