第13話 二階級特進と、巨頭の動向
昨夜の騒動から一夜明け、街にはまだ二人の噂が燻っていた。
宿の食堂で朝食を済ませたライルとフレイリアの元へ、ギルド職員がやってきたのは、二枚目のトーストを齧っていた時だった。
「ライル、フレイリア。ギルドマスターがお呼びだ。ギルド本部の最上階、執務室へ」
周囲の冒険者たちが息を呑む。ギルドの頂点に立つ人物に直接呼ばれるなど、新人にとっては異例中の異例だ。
「……何か規約違反でもしましたか?」
「いえいえライルさん! 昨日のカイスさんたちの件で、私たちが怒られるんじゃ……っ」
「いや、逆だ。……とにかく来い」
不安がるフレイリアを連れ、ライルは重厚な扉を叩いた。部屋の中にいたのは、傷だらけの顔に鋭い眼光を宿した巨漢、ギルドマスターのバザンだった。
「座れ。……昨日の一件、カイスたち三人は無期限の資格停止処分にした。仲間を見捨て、嘘の報告で保身を図るなど冒険者の面汚しだからな」
バザンは無言で、二枚の銀色に輝くプレートを机に放り出した。
「お前ら二人を、本日付で『レギュラー(一般)』ランクへ昇格させる。現在のお前らの『ノービス(駆け出し)』から見れば、二階級特進だ」
「……二階級? 『ビギナー(初心者)』を飛ばすのは、あまり効率的とは思えませんが」
ライルは冷静に問い返す。バザンは鼻を鳴らし、面白そうに目を細めた。
「変異種のアース・ベアを仕留め、ウォーリアーを無傷で狩る実力者が『ビギナー』に混じっている方が現場の混乱を招く。……だが、これは単なるご褒美じゃない。このランクに見合う『義務』が発生する」
バザンが広げた地図には、山岳地帯に不自然に現れた巨大な亀裂が示されていた。
「先日、大地震の影響で山の一部が崩れ、未知の『遺構(遺跡)』が姿を現した。王都からは高慢な『学術調査団』が派遣されてくることになっている。……そして、この調査には俺も同行する。」
「……マスター自ら、ですか?」
ライルの眉が動く。ギルドマスターが動くということは、それが単なる穴掘りではないことを意味している。
「ああ。俺を含め、この街のレギュラーランク以上の精鋭を数名選抜した。お前らにはその一員として、現地の魔物の特性を知る『案内役兼、遊撃部隊』を務めてもらう。これが昇格への最終試験だと思ってくれ」
「……分かりました。マスターやベテランの方々と同行できるなら、学ぶことも多そうです」
ライルの言葉に、バザンはニヤリと笑った。
「はっ、言うじゃないか。報酬は弾んでやる。……明日、東門へ来い。王都の『お偉いさん』共がお出ましだ」
翌朝。東門に現れたのは、黄金の刺繍が施された白銀の甲冑に身を包んだ、見上げるほど立派な馬車の一団だった。
王都から派遣された調査団。彼らの周りには、地方の冒険者を「野良犬」のように見る、選民意識に満ちた空気が漂っていた。
「……不穏ですね、ライルさん。なんだか、嫌な予感がします」
「……同感です、シスター。ですが、今回はマスターやベテランの連中もいます。俺たちは自分の仕事――あなたの安全を確保することだけを考えましょう」
バザンを中心としたギルドの精鋭たちと、王都のプライド。
二人の新たな冒険は、これまでにない巨大な組織の歯車に巻き込まれながら、静かに幕を開けた。




