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幻想世界ルクサーシア物語  作者: PYT


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第12話 沈黙の帰還と、再誕の鋼

 冒険者ギルド『鋼鉄の槌亭』の中は、不自然なほどの熱気に包まれていた。


 その中心にいるのは、息を切らし、泥だらけの顔で


「悲劇」を語るカイスたち『暁の風』だ。


「……信じてくれ! 俺たちは最後まで戦ったんだ! だが、あのゴブリン・ウォーリアーは異常だった。あのガキとシスターを逃がすために、俺たちが囮になって……だが、あいつらは……っ」


 カイスが目元を拭う。ミーナとジグも、罪悪感からか下を向いて震えている。


 周囲の冒険者たちは「薬草園の英雄が、そんなところで」「期待の新人が惜しいことをした」と、同情と好奇の混じった囁きを交わしていた。


 ――その時、ギルドの重い扉が静かに開いた。


 入り口に立つ影が二つ。


 夕日に照らされ、長い影がギルドの床に伸びる。


 カラン、カラン……と、聞き覚えのある「借り物の剣」が揺れる音がした。


「……あ、……え?」


 最初に気づいたのはジグだった。彼は幽霊でも見たかのように指を指し、声にならない悲鳴を上げる。


 カイスがゆっくりと振り返り――その顔が、恐怖で土色に染まった。


「……よぉ、リーダー。随分と派手な葬式をしてくれていたみたいですね」


 ライルの声は、いつになく澄んでいた。


 返り血を拭い、身なりを整えた二人は、死地を潜り抜けたとは思えないほど淡々としていた。


 ライルは腰を抜かしたカイスの横を無言で通り過ぎ、受付へと向かった。


 呆然としている受付嬢の前に、ドサッ、と重苦しい布包みを置く。


「……ゴブリン・ウォーリアーの核です。あと、シャーマンとホブゴブリン三体分。確認をお願いします」


「え……あ、は、はい! ……間違いありません、これは……ウォーリアーの核。まさか、本当に二で……」


 ギルド全体が凍りついた。


 カイスたちが「全滅した」「囮になった」と語っていた化け物を、この少年たちは何食わぬ顔で狩り取って戻ってきたのだ。


「ライル……お前、生きて……いや、どうって ……!」


 カイスが震える声で問いかける。ライルは報酬の金貨袋を手に取ると、一度だけ冷ややかに彼を見下ろした。


「……囮、ありがとうございました。おかげで邪魔者がいなくなって、効率的に仕留められましたよ」


「っ……!」


 皮肉を込めた一言に、周囲の冒険者たちからもカイスたちへ冷ややかな視線が向けられる。ライルはそれ以上何も言わず、フレイリアの肩を軽く叩いた。


「行きましょう、シスター。不純物の多い場所は疲れます」


「はい、ライルさん! ……カイスさん、次はもっとお勉強してから森へ行ってくださいね?」


 フレイリアの聖女らしからぬ一刺し。二人はギルドの連中の視線を背中で受け流しながら、堂々とその場を後にした。


 次に向かったのは、職人通りの鍛冶屋だった。


 ガラムは工房の奥で、まだ熱を帯びた炉の前に立っていた。


「……ガラムさん。剣、治りましたか?」


 ガラムは振り返り、ライルの腰にある借り物の剣を一目見て、ガハハと笑い声を上げた。


「おいおい坊主。あんなに頑丈に作ってやった店売りの剣を、たった一日でボロボロにしてきやがったか。よっぽど激しいダンスを踊ってきたようだな」


「……少し、不器用な相手に付き合ったもので」


「いいぜ。……待たせたな。こいつがお前の『本物』だ」


 ガラムが差し出したのは、ライルが預けていたあの剣だった。


 折れかけていた刀身は、以前よりも深みのある黒銀色の光沢を放っている。ひび割れ一つなく、それどころか以前よりも鋭く、空気を切り裂くような冷たさを纏っていた。


「……っ、これは」


 ライルがその柄を握る。 その瞬間、まるで自分の指先が延長されたような、完璧な一体感が腕を駆け抜けた。


「ただ治しただけじゃねえ。お前の戦い方……あの折れ方を見てな、衝撃を流すように芯に柔軟性のある鋼を挟み込んで打ち直した。名は変えねえが、中身は別物だぜ」


「……最高です。ありがとうございます、ガラムさん」


 ライルは珍しく、満足げな笑みを浮かべた。


 折れた剣が治り、それどころか以前よりも強く生まれ変わる。それは、昨日までの自分を超え、新たな一歩を踏み出したライル自身の姿とも重なっていた。


「あ、これ戦利品の斧です。良かったらどうぞ」


ライルは雑にゴブリン・ウォーリアーの戦斧を差し出した。


「なんじゃそれは?!」


ガラムは一目見てとんでもない物だと理解した。


「僕が持っていても使いみちがないんで、借りていた剣のお詫びです」


「ふん、遠慮なくもらっておくぜ。また何かあったらいつでも来な」


 店を出ると、街には夜の静寂が訪れようとしていた。


 腰に戻った愛剣の重みが、ライルに心地よい緊張感を与える。


「ライルさん、やっぱりその剣が一番似合ってます」


「……道具ですから、使いやすいのが一番なだけですよ。……でも、そうですね。これでようやく、まともな仕事ができそうです」


 ライルは夜空を見上げた。


 アムネジアに放り出され、シスターと出会い、不条理なパーティに振り回された。だが、そのすべてが、今の自分を形作っている。


「シスター。明日は、もう少しまともな依頼を探しましょう。……俺たち二人で受ける、本当の『仕事』を」


「はい! どこまでもついて行きますよ、ライルさん!」


 二人の足取りは、昨日よりもずっと力強く、迷いがなかった。

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