魔王不憫譚
思いつきで書いたのでよく分からん話になりましたけど見てってください
登場人物のほとんどが頭おかしいと思います
魔王は引きこもった。
魔王といえば、禍々しいクソデカイ城で勇者一行を待ち構え、たまに足止め要員でそこそこ強い部下を向かわせ、そしてついにたどり着いた勇者パーティーの前へ立ちはだかり最終決戦へと臨む…これがまさしく王道な魔王、魔王道とも言っていいだろう。
彼もこの前までは立派な魔王道を歩んでいた。なんなら駆け抜けていた。フルマラソンもノンストップで5周はいけるくらいには。
しかしとある日を境にピタッと止まり、そのまま消えるように部屋の中へ入っていき、閉じこもってしまったのだ。ちなみに魔王の部屋の扉はバカみたいに重く、外の世界との繋がりを断つにはもってこいの場所だ。そしてその扉の前で頭を抱える少女が一人…
「魔王様ー。いい加減出てきてください! いつまでそこで弱音を吐き続けるおつもりですか!そろそろ今日の会議の時間が迫ってきているのですが!」
魔王軍幹部『吸血のセシリア』…と前まで呼ばれていた子だ。今の魔王軍はほぼ機能していないようなものなので、幹部という地位もあまり意味を持たない。
さて、魔王軍の現状をある程度話したところで、そろそろご本人様の登場が待ち遠しくなってきたんじゃあない?それでは登場していただきましょう、この世の絶対的な覇王、『ゼヴォルグ様』ーっ!
「無理です」
「一言目がそれで良いのですかーっ!! 即答、まさかの即答ですかっ!?」
「今日は"存在感が邪魔をしない日"なので」
「なんですかそれは! 新しい祝日ですか!?」
「はい。まぁ私の中だけでの話ですけど」
この淡々と"敬語で"部下へ話しかけている彼こそが、
『魔王ゼヴォルグ』。名前でギリ威厳を保っている状態だ。
「魔王様、他のみんなも待っているのです!」
「そうは言っても、私が行くと椅子に申し訳なくなるんですよ」
は?
「どういうことです!? 椅子は喋りませんよ! イキモノではないのですよ!?」
「前回きしみました」
「それただの老朽化ァーっ!」
「急激に老いてしまうほど、私を拒絶してるんです」
「めんどくせぇ」という言葉を抑えつつ、セシリアは必死に魔王へ訴え続ける。ほぼヤケクソ。
「いいから、本当にお願いします!」
「だったら一つ条件があります」
「じょ、条件…!? なんです!? なんでも言ってください魔王様ァ!」
「私が出てきた瞬間、"あ、思ったより普通じゃん"と言ってください」
「それマジでなにがフォローになってるんですか!?」
言ってることが全てハチャメチャ。
「では交渉は決裂です。私は部屋と一体化してきます」
「魔王様ァーーっ!」
ハァ…ハァ…ッ
セシリアの荒い息遣いがだだっ広い廊下に響きわたる。こうなれば、もう卑屈王を部屋から引っ張りだすことは不可能だ。くそ、どうしてこんなことに──
──────
多分二ヶ月前くらい。部下の一人が、勇者パーティーの到着を報告しに来た。
「奴らは既に、この城の目の前まで接近しております…!」
「待機させておいた門兵もやられており…魔王様、このままでは城の中へ攻め込まれてしまいますぞ!」
魔王軍というのは意外とあわてんぼうな一面もある。前日まで余裕をぶっこいていても、いざ勇者パーティーが近くに来ると城の中は急に慌てふためく。部下達が軽いパニックへ陥っているとき──
『フンっ…何をそんなに慌てておる。たかが門番が二匹やられたところで、なんの問題もないわ』
これがまさに二ヶ月前の魔王ゼヴォルグ。その佇まいは魔王にふさわしく、全員が強い忠誠を誓っていた。ファンクラブもできていたという説がある。
門に立たせていた魔物はこの辺りでも比較的弱いやつらだったので、魔王はまだ焦っていなかった。「まあ勇者パーティーなら普通に倒してくるだろ」みたいなかんじで全然余裕がある頃だ。まだ他にも魔物は配置してあるし、城にくるまではもう少し時間がかかるだろう。
『下がってよい。なにかあったらまた報告を頼む』
「はっ!」
部下は転移魔法的なものを使いその場から消え、そして三秒後にまた戻ってきた。
「魔王様! 我が魔王軍の四天王の一人、『暴食のヴェルセルク』がたった今やられました!」
『え?』
どうして「城に侵入された」という報告の前に「四天王が倒された」という報告をされるのだろうか。このとき魔王は本気で時間が飛んだのではないかと錯覚した。
だか大丈夫だ。まだ慌てる時間じゃあない。
『何せヤツは四天王の中でもさいじ』
「魔王様!四天王の一人、『破滅のゼノン』がたった今やられましたぁ!」
『え?』
あれ? ソイツってたしか「四天王の中でも最強…」じゃなかったっけ。じゃあ残った四天王って
ガチャリ…
不意に目の前の扉が開いた。そこに立っていたのは、どう見ても見慣れない者たちが三人。
「へえ、ここが魔王城の玉座の間ってやつ?」
「すごく綺麗というか…ちゃんとお掃除がされているかんじがします…!」
「ふむ、あの紫色に輝くシャンデリア…ぜひ私の教会にも欲しい…」
多分順に勇者、魔法使い、僧侶だろう。戦士もいるもんだと思っていたが。
またしても時間が飛んでしまったのかな? 残りの四天王の様子が気になりすぎるんだけれど。報告係の部下はどうした?なんであんなに余裕そうなの?
そんな動揺を悟らせないため、ゼヴォルグは玉座に座り出迎える。ギィ…っと少しきしむ音がした。
『…よくぞ、ここまで辿り着いたな…勇者一行よ』
完璧だった。声、顔の角度、座り方。その全てが"魔王の威厳"そのもの。
勇者パーティーは息をのみ、しばらくの沈黙が訪れる──ハズだった。
「ああ、うん。案外早く着いちったけど」
『え?』
「お城の廊下もすごく綺麗でした…! あれって魔法も上手く使った演出で綺麗に見せてるんですか?」
『いや演出とかじゃなくて』
「思ったよりちゃんとしてましたね」
『"ちゃんとしてた"ってなんだ』
おかしい。なんでこんなに余裕あるの?普通に観光しにきた人たちじゃん。なんで倒してきた四天王たちのことについて何も触れない?
ゼヴォルグは咳払いをし、なんとか気を取り戻そうとする。
『──我こそは魔王ゼヴォルグ。貴様らの希望を打ち砕き、世界を』
「そのマントって重くないんですか?」
『話を聞け』
「そんなデケェのに左右対称で豪華だなぁ…やっぱ魔王軍にも凄腕の仕立て屋的なのがいるかんじ?」
『だから話を』
「素材はなんですか? ぜひ神官の新しい服装の参考にさせていただきたい」
クソッ! 隙を与えてくれねぇ!
『貴様ら…ッ! 随分調子に乗っているようだが、もうこんな茶番には付き合ってられん! 四天王を倒したからといい気に』
「四天王ってなに?」
『は?』
「だから、俺たち四天王なんかに会ってないけど。いたのは…デケェ豚みたいなやつとカッチョいい黒騎士くらいで」
ソイツらが四天王だYO!
え、どういうこと? 普通の雑魚モンスターだと思って戦ってたの?
「まあちょっとだけ強い雑魚モンくらいに思ってたよな」
「はい! MP節約しながらでも勝てましたし!」
「戦士の彼なんて、飽きて途中で帰りましたからね」
戦士居ねぇなって思ってたらソイツ帰ってたのかよ。なんだよそれふざけんなよマジで。ウチの四天王ってそんな弱いの?
『…おい、他の二体はどうした』
「他の?」
『ソイツらの他にも、もう二体いるはずだ』
「別に見てないけど…でもこんなのを拾ったぜ。中はまだ見てねぇ」
勇者は懐から一枚の洋紙を出した。ゼヴォルグは目をこらし、そこに書いてある文章を読む。
魔王様。ご報告です。ちょっと流石に相手が悪すぎるというか、完全に予想外な強さだったので戦略的撤退を使います。私の他に四天王の方も二名、共にどこか遠くのこじんまりとした村にでも向かう予定です。置いていくような真似をしてしまい申し訳ございません。ですがっ、魔王様なら必ずやり遂げられると信じております! 我々は応援しています。村の素朴なスープと共に。後のことは、吸血のセシリアにお願いします。
───報告係(A)
……
長い沈黙が訪れた。まさかこんな形で空気が沈むことになるとは。勇者パーティーが、どこか憐れむような目で見てくる。やめて! 虚しくなるからそんな目を向けるんじゃあない!
「……まぁなんつーか…忠実な部下だけが全てじゃないと思うぜ? 孤高の王ってのもかっこいいし…」
「はい…人脈は狭く深くが、私の祖母の座右の銘ですよ」
「人は見捨て、しかし神は見捨てず…」
絶対に励ましになってない。
『…うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』
このとき、魔王ゼヴォルグは"最後の切り札"として用意していた『魔力限界行使』を使用した! その名の通り、限界を超え魔力を使用し強大な必殺技を放つぞ!
『ここが貴様らの墓場よ! くらえ! 究極破壊こうせ』
「『絶対吸収』」
キィンッ……
なんか高い音が鳴ったなーとか思ってたら、いつの間にかすごい力を秘めていたはずの魔力の塊が消え去っていた。
「やっぱこの神器超便利だな」
「神様に毎日百回お祈りしておいてよかったですね!」
「ふっ、我らが運命は常に神と共に…」
どうやら、神様からすごい道具をもらっていたらしい。魔力をごっそり吸われたみたい。
『…クゥン』
情けない犬のような声を出し、その場に寝そべった。マントが床に広がり、まるで高級なカーペットのようだった。
「…なぁ魔王様よ。俺ら、魔王様のこと倒すのやめるわ。なんか、見てらんねぇよ」
あれ
「私も賛成です。いくら魔王だからといって、こんなに弱ってしまったところを倒しちゃうなんて…」
すんごい情けかけられてる?
「神から授かった恩は、他の迷える者に返すもの…我が神の名のもとに、貴方を見逃してさしあげましょう」
もう魔王の威厳なんて消え去っていた。いや、コイツらが来た時点で、最初から威厳なんてなかったのかもしれない。
「…あ、はい…ありがとうございます…あの、この玉座譲りましょうか…ちょっと私にはもったいない気がしてきて」
「いやいや、勇者が魔王の玉座に座るとかシャレになんないから。その代わり、魔王のことは一応"討伐した"ってことにさせてもらうぜ。それでいいだろ?」
「それでいいです」
そのとき、バンっ! と大きな音を鳴らしながら扉が開かれた。そこに立っていたのは吸血のセシリア。
「ま、魔王様! 一体なにが…」
「わ、可愛い子です〜! 私たち、今から帰るんです」
「え、か、帰る?」
「魔王は討伐した、ってことにしてな」
話に全くついていけないセシリアは完全にポカンとした表情を浮かべている。
「ま、待ってくださいよ! まさか和解でもしたのですか!? 魔王と勇者が!」
「大体そんなかんじだな。あんま邪魔になんのもあれだし、そろそろ行くわ」
「え、ちょ……」
セシリアの横を素通りし、三人は暗い廊下の奥へと消えていった。楽しげな声が聞こえてくる。もう今日の晩御飯の話をしているらしい。
「……」
「……」
再び沈黙が訪れる。セシリアは床で大の字になっている魔王を見つめていた。
「……魔王様…あの、これって…?」
「…セシリア、報告係からの伝達です…後は、頼みます…」
スゥ〜…
ゼヴォルグの身体がだんだん薄くなっていく。死ぬ間際とかではなく、自分の部屋へと直接テレポートをしている過程で起こっているものだ。
「えぇ!? ちょっと魔王様待っ……魔王様ァーー!」
──────
クソ…魔王様がこんな事になったのは絶対あの勇者パーティーのせいだ…許すまじ…
「うぅ…魔王様は部屋と一体化してしまった…もう他に打つ手はないのですか…?」
頭を抱え、その場にしゃがみこむ。すると突然、なにか音が聞こえてきた。ゼヴォルグの部屋からでは無い。廊下の奥から...
「…足音…?」
セシリアは目をよーく凝らし、廊下の奥を見つめる。次第に人影が現れ、その姿が明確になってきた。一番最初に見えたのは、月の光を反射し輝くハゲ頭だった。そして鎧に背中にかついだデカイ斧…
「…ここが、魔王さんの寝床ですかい」
その声はよく響くものだった。
「あ、貴方は誰です! 勝手に城に入ってくるとはいい度胸ですね…!」
「まあ待ってくだせぇ。俺ァ戦士ってモンでして。元勇者パーティーでさぁ」
「なっ…勇者パーティー!? なにを今更のこのこと…! というか、前来た時に貴方いました!?」
そうだ。たしかにあの時いたのは三人だけで…!
「あぁ。ちょっと飽きちまったもんで、途中で帰ったんです」
えぇ…
「…そ、それでなんの用です…。魔王様は今、貴方たちのせいで引きこもりと化しているのですよ…!?」
「まさにその件でさぁ。随分悪いことをしたと思っとるんです」
なに…? 引きこもりへ追いやった自覚があるのか…?
「…と言いますと?」
「いくら余裕で攻略できたとはいえ、尊厳を破壊するような真似をしちまったでしょ」
「ぐ…否定できないのが悔しい…っ」
「だから、詫びと言ったらなんですが魔王軍に入っちゃおうと」
「は?」
今なんて?
「他の三人は国から大金もらって、とっくに引退しとるんですわ。俺ァ途中で帰ったから、あんま報酬もらえなくて…」
自業自得
「冒険者続けんのもなんか飽きちまったし…せっかくだし何か新しいことをしてみたくなったんでさぁ」
「い、いやいやいや! そうはならないでしょう!? 大体貴方が魔王軍に入って、一体なにを…!」
セシリアの言葉に、戦士は得意げな顔を見せる。鼻につく表情である。
「そこにこもってる魔王様を引っ張り出す係でさぁ」
「な…」
「あの三人に代わって、俺からの詫びみたいなもんですわ。自分のケツは自分で拭く…ってやつでさぁ」
いいことを言ってる風にしてるが、かなりズレている。言葉の使い方が合っているのかどうかも怪しいところだ。
だが何故か拒もうとする気にはならなかった。セシリアもここまできたら行くとこまで行ってしまおうと、やけくそになっているのだ。
「…元勇者パーティーが魔王軍にくるとか前代未聞ですけど…いいでしょう。魔王様が立ち直ってくださるのなら、それに超したことはありませんし」
「へへっ、交渉成立でさぁ。んじゃ早速やりましょうか。魔王引っ張り出し作戦でさぁ」
そう言うと、戦士は懐から数枚紙を、そしてペンを取り出した。そして流れるような手つきでサラサラと何かを書いていく。
「紙とペン…? それで一体何をするのです?」
「自分のコンプレックスってのは身内の中だけならいいが、外に漏れるとなると耐え難いものでさぁ」
言葉の意味を理解しきれないうちに、戦士は話を続ける。それは衝撃的すぎるものだった。
「今の魔王様の現状を、物語にして世に出すんでさぁ。架空の物語として、ですがね」
「……なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」
セシリアの声は廊下の最奥まで響いた。
「アホですかあ! いくら架空とはいえ、みんなに知らされるとなるとっ、嫌です! かなり嫌です!」
「大丈夫でさぁ。俺ァこう見えても、文章力ってのが高い方でして」
「表現どうこうの話じゃあないんですよォ! 魔王様をこれ以上惨めにしないでくださーーいっ!」
飛びつき、紙を奪い取ろうとするセシリアと戦士の攻防はしばらく続いた。多分これまでの会話は全部魔王の部屋の中まで聞こえているが、部屋と一体化した彼にはもはや届くことはなかった。
やがてセシリアの速さが戦士を上回り、紙をはじき宙に浮かせた。
「とったぁ!」
「あっ!俺の作品がぁ!」
ヒラヒラと宙を舞う二枚の紙。その表紙には、こう書かれていた。
────────『魔王不憫譚』と




