僕の後ろに道はあるのか
皆様こんにちはこんばんは、遊月奈喩多と申すものでございます!
何やらSFを書きたいぞという欲求に駆られつつ、いざ書き上がってみるとSFもどきを名乗るのも怪しさを感じてしまう何かが生まれていました笑
それでは、本編スタートです!
ふと、後ろが気になった。
ずっと僕の後ろについて来て、僕しか心を許せる相手のいないと思っていた幼馴染みが僕の知らない彼氏と付き合って、なんかその、恋人のすることを最後まで致している現場を覗き見て、あまりに辛い屈辱感と敗北感とに苛まれながら近くにいた幼児を小脇に抱えて走り出したあと。
泣き叫ぶ声があまりにうるさかったので実力行使で黙らせてから、そういえば幼児を処分する場所を考えなければと立ち止まったときに、ふと気になったのだ。
走っている間は、抵抗する幼児の手足が脇腹や腿に何度も当たって痛かったし、とにかく幼児の声がうるさかった。だから特段気にすることでもなかったのだが、いざ幼児が物言わぬ肉塊に変わってみると、周りが異様に静かなことに気付いたのだ。
この日本は、国民の九割九分九厘がロリコンでもあり、ショタコンでもある。いま絶賛流行っている言い回しをするなら、日本国民は皆、ロリコンとショタコンの性質を併せ持っている♤ことになる。僕だってご多分に洩れず、そんな国民性を誇りに思っているし、世界に通じる文化だと信じて疑っていない。そう、利権や権威を求める侵略戦争や民族・宗教の違いによる紛争、乱心した為政者による暴言暴論が跳梁跋扈するこの世界に平和と繁栄をもたらすことができるのは小児性愛者だけ──これはどんな信条を掲げているペシミストやニヒリスト、ついでにアナキストやアナリストだって認めざるを得ない事実だ。
しかし、どうだろう。
僕はあろうことか、そんな日本に暮らす民なら決して許してはおかないはずの幼児の誘拐殺人を犯したばかりだというのに、後ろがあまりに静かすぎやしないだろうか。
前のことはわかる。
前は、見えている。
この目で見ている。
だが、そう、後ろを正確に感知する術はない。
見ることのできない背後の様子は、僕が振り返ってからじゃないと──後ろを向いた僕の前にならないと全くわからない。
今のご時世なら、監視カメラだってある。だがそれすらも、監視カメラを見ている僕の前にある光景に過ぎないのだ。
そう。
人はどれだけ科学技術を進歩させ、どれだけ営みを繰り返しても。どれだけの愛を深めて、どれだけ人の心について内省を繰り返しても。
ただすぐ近く──自分自身の背後にさえ目を向けられない。
何てことだろう。
この地球の全てを掌握したかに思えた人類の思わぬ弱点に、僕はただ戦くことしかできない。そうだ、人はいちばん近い未知に踏み込む術をまだ持っていないのだ。
僕の背後は、静かなままだ。
まだ存在していないみたいに。
宇宙が5分前に作られたとする仮説がある。
全てのものはたった5分前に生まれたもので、僕が僕として歩んできた記憶や因果は、いわゆる辻褄合わせとして即席で作り上げられたものなのだという。
だから、僕の後ろに人がいるだとか、そもそも僕が人だとか。そんなものすらもただ脳神経を通る電気信号が見せる像に過ぎないのだそうだ。水槽に浮かぶ脳みそがどうだとかいう話もあるのだそうで。
そう、つまり抵抗した子どもを殺したという記憶も、やけに静かな背後も、僕という存在すらも、どこかに浮かべられたものが見せられている像に過ぎないのだという。
ということは、だ。
「ここに子どもがひとり転がってるのに、迷惑って思ってる奴いる!?」
…………。
無音だ。
「今から子どもの処理しようってのに、法律や倫理に日和ってる奴いる?」
…………これでも、まだ無音だ。
まるで、本当に僕の後ろに世界は存在していないみたいに。僕の視界以外の世界が、作り物であるみたいに。
まさか、本当に、そんなことが?
「いねえよなぁ!!?」
微かな戸惑いを隠すように、僕は声を上げた。メビウスの輪のように出口のない奇妙な世界に迷い込んだような錯覚に陥りながらも、僕は念のために持ち歩いているバタフライナイフを取り出して、…………っ!
キャアッ!
人殺しぃ!!
ふと、声がした。
ようやく、僕以外の声がした!
顔を上げると、そこには肥満気味の中年男性が、ろくすっぽ局部も隠せていないスリングショット姿で立ち竦んでいた。
ああ。
前からか。
後ろじゃないのか。
僕は、ひどい落胆と共に立ち上がる。
「後ろ」
「キャアッ! 人殺しぃ!!」
「後ろが見たいんだ、僕は」
「キャアッ! 人殺しぃ!!」
「ただ、後ろにも世界があると思いたかっただけなのに」
「キャアッ! 人殺しぃ!!」
壊れたマリオネットのように同じ動きを繰り返す中年男性の姿も、いよいよ作り物めいて見えてきて。
ああ、耐え難い。
頭が割れそうな痛みに苛まれながら、僕は歩みを進める。
世界が5分前に作られたのなら。
この世界そのものが誰かの5分前かも知れない。
全ては不確か、幻に等しい。
それならば、いっそ。
ああ、もう僕も“5分前”の一部になるのか。
いやだ、いやだ。
僕は僕だ。
誰かの──何かの“5分前”なんかじゃないんだ!
いやだ、いやだ!
その前に……せめて、その前に!
「僕に僕の後ろを見せてくれぇぇぇっ!!!」
曖昧になる意識に逆らうように、僕は。
前書きに引き続き、遊月です。今回もお付き合いいただきありがとうございます! お楽しみいただけていましたら幸いです♪
皆様、いよいよ4月も終わりですね。これで今年も三分の一が過ぎてしまったことになります。なんということでしょう。私は今月半ばにここ数年追いかけてきたBSS同人漫画の総集編(書き下ろしの最終回あり)をFANZAで購入し、更に昨年……かな、恐らく昨年に偶然体験版を聴いてから『これは! これは鬱になって“使う”どころじゃないな!』と深い満足感に包まれることになった、清楚系VTuberだったヒロインがクズ彼氏(タイトルの表記に従う)によって転落させられてしまう成人向け音声作品も取り扱われていることを知って即決購入したりしましたっけ。
いいですよ、聴き終わった後に胸が痛くてたまらなくなりますが、ここまで胸の痛くなる──言葉を選ばずに言うなら「胸糞系」といえるようなお話を書ける方というのは、同じ物語創作者として帽子も衣服も脱いでしまいたくなります。辛かった……とても辛かった……ありがとう、ありがとう。やはり適度に胸糞系の作品に触れ、胸を痛めると、心が豊かになっていくのかも知れませんね。私は勝手に、そう思っております。
閑話休題。
前書きにも書きましたが、このお話はSFを目指して書こうとしたお話でした。世界5分前説や水槽の脳みそみたいな説、確かありましたよね?
などと、確認などしつつ……
また別のお話でお会いしましょう!
ではではっ!




