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【完結】読心術と物理法則で、青春の嘘を完全論破する ~空気を読まない怪物が、仮面の聖女を「論理的」に救うまで~  作者: こころよみ
偽物聖女の覚醒

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拒絶された依存

 私の自己嫌悪を聞いても、理人はいつものように即座に慰めの言葉をかけるわけでも、昨日のように「負の収益(マイナスリターン)」という言葉で正当化してくれるわけでもなかった。

 彼はただ、手の中にあるマグカップを軽く揺らし、カップの中で渦巻く焦げ茶色の液体を見つめながら、冷酷なほど平坦な声で言った。


「まずは、訂正だ」


 彼は瞼を持ち上げ、淡々と私を見た。


「俺は一度も『安っぽい道具になるな』などという命令的な言葉は発していない。俺はただ、『お前の時間の価値が不当に低く見積もられている』という客観的事実を指摘したに過ぎない」

「え……?」

「次に」


 理人はカップを置き、身体をわずかに前傾させた。その深淵のような瞳が、私を完全に解剖しようとしている。


「お前の質問――『なぜ俺が眉をひそめたか』について」


 彼は一拍置き、そこには純粋な、何の感情も含まない困惑の色が浮かんでいた。


「理由は単純だ。単に、理解不能だからだ」


「理解……不能?」私は呆然とその言葉を反芻した。

「そうだ」


 理人は頷き、一本の指を立てた。


「以前のお前は、内心では強い拒絶を感じ、脳内では『やりたくない』と考えていながら、口では『いいよ、任せて』と言っていた」

「それは『意志に反した(不本意な)』服従だ」


 彼は二本目の指を立てた。


「そして今日のお前。ゴミ袋を持った男子生徒と対峙した時、お前の微表情マイクロ・エクスプレッションは同情心が起動したことを示していた。身体の重心が前に傾いたのは、脳が『助けたい』と判断した証拠だ」

「だが、お前は口では『それはあんたの仕事でしょ』と言い放った」


 理人は私を見て、再び眉間にわずかな皺を寄せた。それはまるで、どうしても「1+1」の計算ができない小学生を見るような目だった。


「心で拒絶し、口で受諾する」

「心で受諾し、口で拒絶する」

「この二つに、何の違いがある?」


 彼は冷徹に問い詰めた。


「お前はスイッチを『常時ON』から『常時OFF』に切り替えただけだ。だが、『自分の意志に反した選択』をしているという点では何も変わっていない。お前は依然として、お前自身の意志に従っていない」

「そのような論理的進歩のない無限ループ(デッドサイクル)に対し、俺は理解に苦しむと言った。それだけだ」


 ドカン。

 理人の言葉が雷のように、私の脳天を直撃した。


 私……心の中では、受け入れたかった?

 山本君を助けたかった?


 そうだ。その通りだ。

 あの時、私は確かに彼を可哀想だと思った。手を貸してあげるくらい、どうってことないと思った。

 でも、それを無理やり押し殺した。

 自分が『強くなった』と証明するために、『道具じゃない』と証明するために、自分に冷酷さを強要し、悪人を演じた。


 それも……間違いなの?


 巨大な恐慌が瞬く間に私を飲み込んだ。

 手が震え始め、カップの中のコーヒーが数滴跳ねて、スカートにシミを作る。


 もし断らなかったら……また元通りになっちゃうじゃない。

 一つでも隙を見せたら、一回でも助けたら、みんなきっとまた以前のように、「千夏これやって」「千夏あれやって」って言ってくる。

 ハリネズミにならなきゃ、自分を守れないじゃない!


 じゃあ、どうすればいいの?

 受け入れるのも間違いで、断るのも間違い。

 聖女になっても悪人になっても、理人はおかしいと言う。

 一体何が正しいの?

 どうすればあなたは満足するの?

 どうすれば私は苦しまずに済むの?


 混乱。

 迷走。

 脳内で無数の糸が絡まり合い、首を絞められているように息ができない。


 私は溺れる人のように顔を上げ、救いを求める目で理人を見た。

 彼はこんなに賢い。彼なら何でもわかっている。

 彼ならきっと、正解を知っているはずだ。


「じゃあ……」


 私の声はひどく震え、泣き言じみていた。


「理人の言いたいことは……私は彼らのお願いを聞くべきだったってこと?」

「私は山本君を助けに行くべきなの? 加藤さんに赤いペンを貸すべきなの? それが『正解』なの?」


 教えてよ。

 お願いだから、どうすればいいか教えて。

 あなたがそう言えば、私はその通りにするから。


 しかし。

 私の懇願にも似た問いに対し。


 理人の顔から、表情が完全に消失した。

 さっきまでの困惑を含んだ生気ある表情は消え失せ、代わりにそこにあったのは、冷たく、硬く、すべてを拒絶する壁だった。


「俺はそんなことは言っていない」


 彼は冷たく私を遮った。

 その声には体温が一℃もなく、玲奈と対峙した時よりもさらに遠い。


「お前が受け入れようと、拒絶しようと。お前が聖女になろうと、悪人になろうと」


 彼は私を見た。まるで、見知らぬサンプルを見るような目で。


「それはお前自身の問題だ」


「え……?」


 心臓を冷たい手で鷲掴みにされたような気がした。


「勘違いするな、星野」


 理人は椅子に座り直し、くるりと背を向けた。私に残されたのは、冷淡な背中だけ。


「『選択』という義務を、俺に押し付けるな」

「俺はお前の取扱説明書(マニュアル)じゃないし、人生の指導者(メンター)でもない」

「もしお前が『自分が何をしたいか』さえ決められず、他人の命令(コマンド)に依存して動くことしかできないのなら……」


 キーボードを叩く音が再び響き始めた。冷徹で、一定のリズム。


「お前は依然として、安っぽい道具(ツール)のままだ。ただ使用者(ユーザー)が『玲奈』から『俺』に変わったに過ぎない」


 空気が凍結した。

 私は口を開けたまま、喉から音が出なかった。


 寒い。

 手には温かいコーヒーを持っているはずなのに、さっきまではここが温かい避難所だと思っていたのに。

 今の理人の言葉は、氷のナイフとなって、私の最も脆弱な部分を深々と抉り取った。


 彼は……私を拒絶した。

 私が一番迷っていて、一番導きを必要としている瞬間に、彼は私を突き放した。


『それはお前自身の問題だ』


 その言葉が、空虚な部屋の中で反響する。

 悔しさ、無力感、そして深い疎外感が、涙と一緒にこみ上げてくる。


 わからない。

 彼が言っている正論なんてわからない。

 ただわかるのは、今の私は、崖っぷちに一人ぼっちで立たされているということ。

 前に進めば奈落。後ろに下がっても奈落。

 そして唯一私の手を引いてくれると思っていた人は、冷たく背を向け、こう告げたのだ。


「勝手に飛び降りろ」と。


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