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【完結】読心術と物理法則で、青春の嘘を完全論破する ~空気を読まない怪物が、仮面の聖女を「論理的」に救うまで~  作者: こころよみ
『「みんな」に飲み込まれた真実』

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獅子の礼と、シャッター越しの悪意

「退学?」


 鬼道はその言葉を繰り返した。まるで馬鹿げたジョークでも聞いたかのように。


「あんな子供騙しでか? 学校の頭の固い連中もウザいが、そこまで間抜けじゃねえだろ」


「それは学校の知能指数の問題ではない。世論の圧力の問題だ」


 僕は冷静に分析した。


「佐藤の目的は、お前に『勝つ』ことじゃない。お前を『破滅』させることだ。現在の彼の動機は、長期間の無視によって生じた、極度に歪んだ『承認欲求』に由来する」


 僕は鬼道の「気色悪い」と言わんばかりの顔を見据え、さらに追撃した。


「簡潔に言えば、彼はかつてお前を神として崇めていた。だがお前は彼を空気として扱った。だから今、彼は神を泥沼に引きずり込み、敵としてでもいいから、死ぬほど自分のことを記憶させようとしているんだ」


「それは変質した、攻撃性を帯びた『愛』だ」


「……オエッ」


 鬼道は本気で吐きそうな顔をし、手の中の空き缶をさらに強く握り潰した。


「やめろ。マジで気持ち悪い。あんなドブ川のボウフラに……殺された方がマシだわ」


 彼は苛立たしげにベンチを蹴った。

 口では悪態をついているが、反論はしなかった。

 彼も気づいているからだ。「何もしていないのに全員から糾弾される」という今の無力感こそが、佐藤が精密に設計した牢獄なのだと。


「……チッ」


 鬼道はボサボサの頭をかきむしり、ついに何かを諦めたように長く息を吐いた。

 彼は虚空から目を逸らし、初めて助言を求めるような目で僕を見た。


「おい、霜月」


「テメェがそこまであのクズの腹の中読んでんなら……なんか手があんだろ?」


「俺はどうすりゃいい? あいつの家行ってシメるか? それとも放送室占拠して『俺はやってねえ』って叫ぶか?」


「それは最悪手(ワースト)だ」僕は即座に否定した。


「それではお前の『暴力狂』および『反省の色なし』というキャラ設定を補強するだけだ」


「じゃあどうすんだよ」


「何もしないことだ」僕は提案した。


「当分の間、お前は大人しく家に引き籠もっていろ。学校にも行くな、コンビニにも行くな、一歩も外に出るな」


「公衆の面前から完全に消失しろ。そうすれば奴の追撃は空振りに終わる」


「ハァ? 亀になって縮こまってろってか?」鬼道が不満げに眉を跳ね上げる。


「『潜伏する狩人』になれと言っている」


 僕は訂正した。


「奴はお前の失言や暴走を待っている。お前が現れなければ、奴の脚本は進行しない。そしてお前が消えている間に、僕が奴の論理鎖の綻び(バグ)を探し出す」


 鬼道はじっと僕を見つめた。

 夕陽の残光が、彼の彫りの深い横顔を照らしている。

 やがて彼は唇を歪め、ベンチに背中を預け直した。


「……分かったよ」


 彼は不承不承言った。


「どうせ雑魚どもの顔色窺うのも飽きたところだ。長い休暇だと思ってやるよ」


「任せたぜ、軍師サマ」


「僕は軍師ではない」僕は条件反射的に反論した。


「うるせえな」


 鬼道は立ち上がり、ズボンの埃を払った。

 彼は去ろうとしたが、一歩踏み出す直前、動きを止めた。


 いつも顎を上げ、不遜を絵に描いたような鬼道蓮が、今はどこか居心地が悪そうに頬をかき、視線を泳がせていた。


「あの……おい」


 彼の声は小さく、少し不明瞭だった。


「サンキュ」


「……?」


 僕は呆けた。

 脳内に一瞬の空白が生じる。


「何だ?」僕は無意識に聞き返した。


「チッ! 二度も言わせんじゃねえよ!」


 鬼道は顔を赤くして僕を睨んだ。


「ありがとうっつってんだよ」


「全校生徒が俺を叩いてて、俺と関わりゃ面倒なことになるって分かってて……テメェは来たんだからな」


鬼道蓮(裏):

『……こういうの慣れてねえんだよ。』

『けど……マジで助かった。』

『こいつがいなけりゃ、俺は今頃本当に佐藤を殺しに行って、まんまと退学になってただろうな。』


 傲慢さも狂気もない。

 ただ不器用で、純粋な感謝だけがあった。


【システム報告】

【異常データ受信。】

【対象:鬼道蓮。行動パターン:謝意の表明。】

【自己状態:……演算遅延発生。】


 僕は彼を見た。

 この獅子が、こんな……「家猫」のような表情を見せるのを初めて見た。

 意外にも、不快ではない。


「……礼には及ばない」


 僕は視線を逸らし、一瞬の動揺を隠した。


「お前を助けるためじゃない。佐藤の計画では、僕も攻撃対象(共犯)に含まれている。奴を排除しなければ、僕の学園生活にも支障が出る」

「これは共通利益に基づく戦術的提携に過ぎない」


「はいはい、センジュツテケイね」


 鬼道は鼻で笑い、いつもの不遜さを取り戻した。


「テメェ、たまに俺よりひねくれてんな」


 彼は手を振り、今度こそ立ち去った。


「行くわ。吉報待ってるぜ」


 鬼道の大きな背中が角を曲がって消えるのを見届け、僕は長く息を吐いた。

 少なくとも、最大のリスク要因(鬼道の暴走)は一時的に制御コントロールできた。

 あとは、闇に隠れた佐藤との知能戦だ。


 僕は踵を返し、公園を出ようとした。


 しかし。


 一見無人に見える公園の片隅。

 ベンチから四十メートルほど離れた植え込みの奥深く。


 カシャッ。


 極めて微細な、シャッター音が鳴った。

 黒いレンズが、葉の隙間から、今のやり取りを冷ややかに見つめていた。


佐藤雄大(裏):

『……ククッ。』

『撮れた。』

『バッチリだ。』


 植え込みの陰で、佐藤はカメラのプレビュー画面を見ていた。


 画面は、鬼道が立ち上がり、屈み込んで僕に話しかけている瞬間で静止している。

 夕陽の逆光で鬼道の表情は読み取れないが、その動作はまるで僕に何らかの指示を与えているように見える。

 そして僕が「呆けている」表情は、「真剣に拝聴している」ように解釈可能だ。


佐藤(裏):

『鬼道は停学直後、即座に霜月と秘密裏に接触した。』

『二人は無人の公園で密談し、鬼道はあの「信頼」の表情さえ見せた。』

『これが「共謀」の動かぬ証拠だ。』


 佐藤の指が震えている。極度の興奮によるものだ。

 彼は霜月理人をどうやって引きずり込むか悩んでいたが、まさか向こうからネタを提供してくれるとは。


『最高だ……最高だよ!』

『この写真に、さっきの「カツアゲ」写真を加えれば……』

『お前ら二人まとめて、地獄に送ってやる!』


 僕は背後の悪意ある視線には気づいていない。

 ただ鞄のベルトを引き直し、夜風を受けながら、家路についた。


 僕の後ろで、明日全校を爆発させることになる「罪証」が、SDカードに保存されたことも知らずに。

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