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【完結】読心術と物理法則で、青春の嘘を完全論破する ~空気を読まない怪物が、仮面の聖女を「論理的」に救うまで~  作者: こころよみ
『「みんな」に飲み込まれた真実』

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黒幕のプロファイリング

 キーンコーンカーンコーン――


 一時間目の予鈴が鳴り響く。

 数学教師が教室に入り、黒板に複雑な関数式を書き始めた。

 チョークが黒板を叩く音が、ある種の規則的なリズムとなって背景に溶け込む。


 僕は教科書を出さず、一枚の白紙のルーズリーフを取り出した。


 今、僕の脳は黒板の公式よりも遥かに複雑な非線形方程式を処理する必要がある。


 【現在の課題:鬼道蓮停学事件のロジック再構築】


 まず、「佐藤」という名の変数は、ついに僕のデータベース内で個体識別(ロックオン)が完了した。


 二週間前、旧校舎の渡り廊下での光景を再生する。

 鼻水と涙で顔をぐしゃぐしゃにし、床にうずくまっていた男子生徒。

 そして僕が背を向けた際、彼が言葉にせず、しかし心声を通じて暴露した呪詛。


『……また、その目だ。』

『鬼道と同じ目しやがって……』

『お前らみたいな奴等は……俺たちを虫ケラだと思ってやがる。』

『死ねよ。お前らみたいな傲慢な強者は、全員死ねばいいんだ。』


 当時、僕はその「鬼道」という単語を深く追求しなかった。

 だが今朝の鬼道の顛末、そして彼らが共に三年生である事実を結合すれば、解は明白だ。


 鬼道蓮 = 佐藤の憎悪の原点。

 霜月理人 = 新たな憎悪の対象(目が似ており、かつ「邪魔」をしたため)。


 動機は確定した。次は手口(メソッド)の解析だ。


 僕は紙の上にタイムラインを引き、この一週間で発生した全ての異常データをプロットしていった。


 フェーズ1:環境汚染と精神摩耗


 これは二正面作戦だ。

 一つは、匿名掲示板への合成写真投下による「鬼道=恐喝犯」という空気の醸成。

 もう一つは――これこそ最も陰湿な点だが――虫の死骸、切り刻まれた体操服、カミソリ入りの腐敗リンゴを用いた、鬼道への持続的かつ高頻度な精神的ハラスメント(嫌がらせ)。


 鬼道は強靭だが、この手の「見えない悪意」への耐性は低い。

 靴箱を開けるたびに直面するおぞましい光景、犯人が特定できない怒りは、確実に彼の冷静さを削ぎ落とし、リズムを狂わせていった。

 密閉された圧力鍋に、ガスを注入し続けるようなものだ。


 そして今朝の時点で、普段は傲慢ながらも理性的判断が可能だった鬼道は、実質的に「バーサク状態の臨界点」に達していた。

 火薬の詰まった樽だ。火種さえあれば爆発する。


 フェーズ2:精密起爆ルアー


 火種が投下された。

 佐藤は間違いなく、何らかの極めて侮辱的で、かつ鬼道にしか意味の通じない「特定のトリガー」を使用し、鬼道のボロボロになった精神防壁を正確に貫通した。

 その瞬間、一週間分の鬱積した怒りが制御不能になった。


 鬼道が教室へ突撃した行為は、もはや「偶発」ではなく、誘導された「必然的反応」だ。


 フェーズ3:公開処刑サクリファイス


 最も狂気的で、かつ最も効率的な一手だ。

 佐藤は自らをルアーとして、全校生徒と教師の衆目の中に晒した。

 激昂して飛び込んでくる鬼道を前に、佐藤はただ少しばかりの恐怖を演じればいい。そうすれば、噂によって洗脳済みの「正義の一般人」たちが、雪崩を打って彼を守りに来る。


 この「弱者=正義」という世論フィールドにおいて、圧倒的弱者である佐藤は絶対的な発言権イニシアチブを掌握している。


 結論:

 これは入念に計画された、特定個人に対する社会的抹殺(ソーシャル・デッド)の儀式だ。

 首謀者は高度な心理プロファイリング能力を持ち、感情操作によって鬼道の行動を制御し、復讐のためなら自らの肉体的苦痛すら厭わない実行力を有している。


 【推論:ネクスト・ステップ予測】


 終わったか?

 否。


 僕は紙に書かれた名前を見つめた。


 鬼道は単に「停学」になっただけだ。

 これほど執拗で計画的な復讐者にとって、これは単なる「ハーフタイム」に過ぎず、ゴールではない。

 彼の目的は、鬼道の完全な破滅(退学)であるはずだ。


 さらに、僕という「共犯者」は、まだ無傷で教室に座っている。


 推論:

 攻撃は継続する。

 そして、僕もターゲットの一人だ。

 何もしなければ、僕も遠からず鬼道の後を追うことになる。


 しかし、現在の僕は圧倒的に不利だ。


 信用破産:いかなる弁明も詭弁と見なされる。

 証拠欠如:犯人が佐藤だと分かっていても、物証がない。

 データ不足:佐藤と鬼道の具体的背景、過去の因縁の詳細が不明だ。


 データが必要だ。

 佐藤および鬼道の住所、過去の処分歴、あるいは中学時代の指導要録などのベースデータがなければ、彼の論理鎖(ロジックチェーン)の亀裂を見つけ出すことはできない。


 だが、孤立した一学生である僕に、それらへのアクセス権はない。

 クラスメイトに聞く? 誰も相手にしないだろう。

 鬼道に聞く? 少なくとも放課後までは接触不能だ。

 かといって今すぐ早退すれば、逃亡とみなされ、さらに立場が悪化するリスクがある。


 詰みか?

 否。


 この学校には一人だけ、高レベルのデータアクセス権を持ち、かつ「空気」の影響を受けない特異点(シンギュラリティ)が存在する。


 僕は顔を上げ、窓越しに特別教室棟の方角を見た。


 佐伯涼子。


 教師として教務システムへのログイン権限を持ち、気象部顧問として、僕が「変人だが悪人ではない」と知る唯一の大人。


 生徒のプライバシーに関わる違反行為だ。

 だが、あの面倒くさがりで、偽善を嫌い、独自の正義美学を持つ佐伯先生なら……。


 僕が十分な「取引材料(チップ)」、あるいは合理的な論理説得を提供できれば、協力者(コラボレーター)となる確率は80%を超える。


 キーンコーンカーンコーン――


 終業のチャイムが思考を中断させた。


 僕はロジック図を描いた紙を丸め、ポケットにねじ込んだ。


 周囲の生徒がざわめき始める。僕への刺すような視線は相変わらずだが、もはや気にならなかった。


 敵が剣を抜いた以上、座して死を待つ理由はない。


 反撃の第一手は、情報収集(インテリジェンス)だ。


 僕は立ち上がり、話しかけようとした前席の田中の動きも、遠くから嘲笑の目を向ける女子Aも無視して、教室を出た。


 目的地:物理準備室。

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