豪雨の中の暴論 ~友達であることに、資格も対価も必要ない~
雨脚が強まった。
細かった雨糸はいつしかバケツをひっくり返したような豪雨となり、世界を水底に沈めようとしていた。
氷水のような雨が顔を打ち、首筋から服の中へと流れ込んでくる。だが不思議と、寒さは感じなかった。
むしろ、発熱した時のような熱い塊が身体の奥底から湧き上がり、この漫天の冷気に対抗していた。
未央は依然として地面にうずくまっていた。
全身ずぶ濡れで、黒髪が蒼白な頬に張り付き、かつてないほど無様な姿を晒している。
彼女は何も言わず、私を見ることさえできないでいた。
彼女の身体が小刻みに震えている。
恐怖だ。
怯えているのだ。
私の次の言葉が「さよなら」であること、先ほどの独白が最後の別れの言葉であることを恐れているのだ。
触れれば砕け散ってしまいそうなその脆い姿を見て、私の心の底に残っていた、束縛に対する僅かな怨嗟も、雨と共に流れ去ってしまった。
残ったのは、どうしようもないほどの、「放っておけない」という感情だけ。
「……未央」
私は顔の雨を拭い、再び口を開いた。
「さっきあんた、私の中で何番目かって聞いたよね」
未央の肩がビクリと跳ねた。判決を待つ囚人のように。
「実はね、そんなこと一度も考えたことなかった」
私は彼女を見つめ、残酷なまでに正直に告げた。
「私、人間に順位をつけるのが一番嫌いなんだ。人間関係はテストのランキングじゃないんだから、単純な数字で定義できるわけないでしょ?」
「一番好きな相手だって、『こいつマジうざい』って思う時はあるし、逆に嫌いな奴でも、『やるじゃん』って思う瞬間はある」
「人は流動的なの。感情だって流動的でしょ」
「だから、あんたがどうしても聞きたいって言うなら……」
私は深く息を吸い、彼女を失望させるかもしれないが、唯一の真実である答えを口にした。
「『分からない』」
「……え?」未央が固まった。
彼女は弾かれたように顔を上げ、雨に洗われた瞳を見開いた。
「わ……分からない?」
「そう、分からない」私は悪びれもせず頷いた。
「あんたが何位かなんて知らないし、これから変わるかも分からない。そんなこと考えたこともないし、これからもそんな無駄なことに脳みそ使いたくない」
未央は呆然と私を見ていた。
「一位」「最下位」「他人」――あらゆる答えを予想していただろうが、これだけは想定外だったようだ。
その答えは彼女を混乱させたが、同時になぜか……彼女の肩の力を抜かせた。
「でもね」
私は彼女の目を見て、言葉に力を込めた。
「順位は分からないけど、一つだけ、迷いなく言えることがある」
「最初から最後まで。あのトイレの前でも、花火大会の河川敷でも、そして今も……」
「私はあんたのこと、『友達』だと思ってるよ」
「……とも、だち?」
未央はその言葉を反芻した。まるでそれが、遥か彼方の、手に入らない星であるかのように。
雨水混じりの涙が口に入り、彼女の顔を歪ませる。
「でも……でも私……」
彼女の声は震え、自己嫌悪に満ちた嗚咽が混じる。
「凛ちゃんに買いたくない服を買わせて……自殺するって脅して……凛ちゃんを鎖で繋ごうとして……」
「こんな救いようのないことしたのに……こんなに醜いのに……」
「それでも……友達でいてくれるの?」
信じられないのだ。
彼女の論理では、過ちを犯せば罰せられ、悪い子は捨てられる。
自分はもう手遅れなほど腐っているのに、愛される資格などあるはずがないと。
私はそんな彼女の怯えた様子を見て、思わず笑ってしまった。
それは呆れたような、でもどこか清々しい笑いだった。
「うん」
私はきっぱりと断言した。
「あんたは私の友達だよ。――でも、それが『あんた』と何の関係があるの?」
「……は?」
未央の泣き声がピタリと止まった。
彼女は口をぽかんと開け、私の頭が雨でおかしくなったのかという顔をした。
「どういう……意味……?」
彼女はたどたどしく聞いた。
「友達なのに……私と関係ないって……?」
「文字通りの意味だよ」
私は両手を広げ、雨を受け止めた。
「私が『あんたは友達だ』と思って、一緒にいたいと思って、引き止めたいと思った。それは『私』の意志で、『私』が決めたことだ」
「あんたがイカれたメンヘラだろうが、悪事を働こうが、私を監禁しようとしようが……まあそれは超迷惑だけど、『私が友達でいたい』って事実には影響しないの」
これは兄さんが教えてくれた論理だろうか?
いや、これは私、霜月凛の論理だ。
私が気に入ったなら、私が守る。
たとえそいつがどうしようもない厄介者でも、私が飽きてないなら、手は離さない。
これは強者の傲慢であり、私の等身大のワガママだ。
「ぷっ……」
私のあまりに当然だと言わんばかりの顔を見て、未央が突然、短く吹き出した。
それは、この状況の全てが馬鹿らしく思えてきたような、心からの笑いだった。
「なにそれ……すごい暴論」
彼女はお腹を抱え、肩を震わせて笑った。
「ジャイアンみたい……理不尽すぎるよ、凛ちゃん」
「私、死ぬ気だったのに……あんなに絶望してたのに……」
「関係ないって……ひどいよ」
彼女は笑いながら、さらに激しく涙を流した。
だが今度こそ、その瞳から濁りと死の色は消え失せ、代わりに生々しい、人間らしい光が宿っていた。
彼女はようやく理解したのだ。
「一番」を勝ち取る必要はない。死んで「記憶」を刻む必要もない。
なぜなら、目の前のこの人の前では、対価なんて支払う必要がなかったのだから。
未央はゆっくりと身体の向きを変え、私の正面に来た。
以前のように卑屈に抱擁を求めることはせず、彼女は手を伸ばし、私の手を、強く、対等に握り返した。
「……分かった」
彼女は私を見て、ボロボロで、でも最高に美しい笑顔を浮かべた。
「凛ちゃんがそう言うなら……しょうがないね」
「私も」
彼女は深く息を吸い込み、この暴風雨に向かって大声で宣言した。
「私、木島未央は! 永遠に! 永遠に! 霜月凛を、最ッッッ高に大事な友達だと思いまーーす!!」
「……バカ」
私は悪態をついたが、目頭が熱くなるのを止められなかった。
「あはははは……」
「ふふふ……」
私たちはずぶ濡れの互いの悲惨な姿を見合い、堪えきれずに、同時に爆笑した。
笑い声が分厚い雨の幕を突き抜け、無人の屋上に響き渡る。
重い鎖も、病的な執着も、虚飾の忍耐も、もうない。
今ここには、ずぶ濡れになった、どうしようもなくバカな二人の女子高生がいるだけだ。
雨は依然として激しい。
世界はまだ暗い。
けれど不思議と、身体を打つ冷たい雨水が、前代未聞の……温かさを帯びているように感じられた。
【雨過天晴】 泥だらけの二人の友情に、少しでも心を動かされた方は、 ぜひ【★★★】や【フォロー】で、彼女たちの再出発を祝福してあげてください!
(この雨上がりの空に、皆様の星を輝かせていただけると嬉しいです!)
それでは、また明日(19:10)にお会いしましょう!




