綿飴でできた絞首台
あの花火大会の日から、私たちの関係はより親密になった。
あるいは、より「緊密」になったと言うべきか。
未央はようやく引き取り手を見つけた捨て犬のように、二十四時間私に張り付こうとした。
最初は、単なる不安感の表れだと思っていた。
私はできる限り彼女の面倒を見て、悪意ある視線から守り、彼女の些細な悩み事に耳を傾けた。
しかし、いつからだろうか。空気の味が変わったのは。
彼女は私の私生活を気にし始めた。
「凛ちゃん、週末どこ行ってたの?」
「凛ちゃん、そのLINEの相手、誰?」
「凛ちゃん、私って凛ちゃんの中で一番だよね?」
最初は甘えるような問いかけだったが、次第にそれは執拗な「確認作業」へと変質していった。
その感覚は、蔦に手足を少しずつ絡め取られていくようだった。
蔦には綺麗な花が咲いていて、甘い香りがするけれど、肉に食い込む棘が、鈍い痛みを訴え始めていた。
そして、あの三つの出来事が起きた。
それは、私の「自由」を完全に磔にする、三本の釘だった。
***
一本目の釘:「恩返し」という名の自己陶酔。
うだるように暑い日の午後だった。
私は女子バスケ部の手伝いに行き、未央も応援に来ていた。
いつものことなので、特に気にしていなかった。
休憩中、私は何気なく愚痴をこぼした。
「あーあ、駅前の限定ミントソーダ飲みてぇなー。購買に置いてないのがクソだわ」
本当に、ただの独り言だった。
未央はそれを聞いていた。
彼女は何も言わず、姿を消した。
四十分後、後半の練習を始めようとした時、彼女は戻ってきた。
汗だくだった。顔色は蒼白で、制服の背中まで汗でぐっしょりと濡れていた。
彼女は息を切らして私の前に走り寄り、結露したソーダのボトルを強く握りしめていた。
片道二キロの駅まで走って買ってきたのだ。
「はい……凛ちゃん」
彼女はボトルを差し出した。媚びるような、卑屈な笑顔を浮かべて。
「遅くなっちゃったけど……まだ冷たいよ」
「凛ちゃんが欲しいものなら……私、なんでもするから」
周りの部員たちが囃し立てる。「うわー、未央ちゃん凛のこと好きすぎでしょ!」「尽くすねー!」
私だけが、背筋の凍るような悪寒を感じていた。
私はただ喉が渇いていただけだ。
冗談で言っただけだ。
こんな息苦しい献身は、友情なんかじゃない。強要だ。
「……未央、次からこういうのやめて」
私は眉をひそめ、受け取らなかった。
「危ないし、水で十分だから」
その瞬間、未央の表情が崩れ落ちた。
まるで世界の終わりのように、涙が堰を切ったように溢れ出した。
「ごめんなさい……私がノロマだから……遅かったから……」
「凛ちゃんはいらないの? 私はいらない子なの?」
彼女は泣いた。
みんなの前で。
周囲の視線が「凛、冷たすぎない?」「あんなに頑張ったのに可哀想」という非難の色を帯びていく。
その瞬間、私は屈した。
飲みたくもないソーダを受け取り、笑顔で「ありがとう」と言わなければならなかった。
心の中の私が絶叫していた。
『やめろ。お前が尽くせば尽くすほど、私は苦しくなるんだよ』
***
二本目の釘:「共生」という名の論理的支配。
先々週の週末のことだ。
私は窒息しそうな空気に耐えられなくなり、少しだけ息抜きがしたかった。
だから、未央が家に遊びに来たいと言った時、私は嘘をついた。
「ごめん、今日は家の手伝いがあって無理なんだ」
本当は一人で本屋に行って漫画を読みたかっただけだ。「凛ちゃんすごい」というBGMのない、静かな時間を楽しみたかっただけだ。
私は午後いっぱい本屋で過ごした。
途中で未央らしき姿を見かけた気がしたが、隠れてやり過ごした。
上手く誤魔化せたと思っていた。
翌朝。
登校しようとドアを開けた時、私は絶句した。
未央が、マンションの下の電柱のそばに立っていた。
昨夜は一晩中、土砂降りだった。
彼女はずぶ濡れだった。唇は紫色に変色し、全身が激しく震えていた。足元の水溜まりには落ち葉が積もっていた。
私が出てきたのを見て、彼女は顔を上げた。
なぜ嘘をついたのかとは問わなかった。なぜ家にいなかったのかと責めることもしなかった。
ただ、弱々しく、嬉しそうにさえ見える笑みを浮かべた。
「よかった……凛ちゃん、出てきてくれた」
彼女の歯がカチカチと鳴っている。
「私……凛ちゃんに嫌われたかと思って……いらないって思われたのかと思って……」
「だからインターホン押せなくて……邪魔しちゃ悪いと思って……」
「あんた……一晩中そこにいたの!?」
私は駆け寄り、彼女の額に触れた。焼けるように熱い。
高熱を出している。
「だって……待ってないと、凛ちゃんがいなくなっちゃう気がして……」
彼女は私の胸に倒れ込み、服を掴んだ。
「凛ちゃんがまだ会ってくれるなら……雨なんて、平気だから……」
その時、私が感じたのは感動ではなかった。
おぞましいほどの恐怖だった。
こいつは、イカれてる。
自分の命をチップにして、私に賭けているんだ。
もし私が従わなければ、もし私が見捨てようとすれば、本当に死んでみせるつもりだ。
私は彼女を部屋に運び、着替えさせ、薬を飲ませた。
私のベッドで安らかに眠る彼女の顔を見て、私は絶望した。
『私が手を離せば、こいつは本当に死ぬかもしれない。そして私は人殺しになる』
あの日から、私は抵抗を諦めた。
***
三本目の釘:「贈り物」という名の泥沼。
そして、昨日の出来事だ。
放課後の帰り道、彼女は突然悲鳴を上げた。私が最初にあげた、数百円の安っぽいプラスチックのキーホルダーがないと言い出したのだ。
「あれは凛ちゃんが初めてくれたプレゼントなのに! あれがないと生きていけない!」
それから、四時間の捜索が始まった。
公園の泥の中、ゴミだらけの草むらの中。
日は暮れ、雨が降り出し、虫に刺された。
腰が痛くて限界だった。私は「新しいの買おうよ」「明日探そう」と言った。
ダメだった。
彼女は泣きながら泥を掘り続けた。
「凛ちゃんは疲れたなら帰ってていいよ……私一人で探すから……死んでも見つけるから……」
これは探し物なんかじゃない。
服役だ。
物をなくした自分への懲罰であり、帰ろうとした私への懲罰だ。
結局、見つかった。
彼女は泥だらけのキーホルダーを捧げ持ち、泣きながら私に抱きつき、私の服に泥を擦り付けた。
「よかった……凛ちゃんがいた。私と凛ちゃんの絆、まだあった」
彼女の狂信的な目を見て、私はただ疲れを感じた。
骨の髄まで染み渡るような疲労を。
これが、今の私の生活だ。
「愛」という名のフワフワした綿飴で幾重にも包まれ、呼吸もできず、身動きも取れない。
逃げたい。でも逃げられない。
私が少しでも動けば、この脆い陶器の人形は、私の目の前で粉々に砕け散ることを知っているから。
そして私は、殺人者にはなりたくない。
【あとがき:三本の釘】
作者「あぁ……。未央ちゃんの行動、完全にホラー映画の文法じゃないですか。一晩中雨の中で待つとか、泥の中でキーホルダー探すとか……」
霜月「これが『境界性パーソナリティ障害』に近い挙動だ。 彼女は『見捨てられ不安』を解消するためなら、自身の健康や尊厳をコストとして支払うことを躊躇しない。 そして、そのコストを見せることで、相手に強烈な罪悪感を植え付け、支配する」
作者「凛ちゃんからすれば、優しさで始めたことが、いつの間にか『命がけの介護』になってしまったわけですね!
それでは、また明日(19:10)にお会いしましょう!」




