捨て猫を拾った不良少女 ~あるいは、私が「檻」に足を踏み入れた日~
私の名前は霜月凛。
神楽坂高校の一年生だ。
私という人間を一言で要約するなら、「単純暴力」だろう。
心の中では憎んでいるくせに、食卓で笑顔で親父におかずをよそう母親も、世間体ばかり気にして家庭に関心のあるフリをする親父も、大嫌いだ。
あの家の空気には腐った嘘の匂いが充満していて、嗅ぐだけで吐き気がする。
それに比べれば、「変人」と呼ばれる私の兄――霜月理人の方が、この世で一番マシな人間に見える。
あいつは木石だし、口も悪いけど、嘘だけはつかないから。
兄の影響を受けて、私もシンプルな生存法則を身につけた。
好きなものは好き、嫌いなものは嫌いと言う。
不快なことがあって、もし手が出るなら、グダグダ言わずに手を出す。
この法則に従って、私は学校でもそこそこ上手くやっていた。
周りには少しうるさいけど義理堅い連中が集まり、毎日ヘラヘラと笑うリア充生活を送っていた。
あの日、一匹の「捨て猫」を拾うまでは。
……
高一に入学して間もない頃の昼休みだ。
私は課題を出しに職員室へ行く途中、隣のC組の教室の前を通りかかった。
C組の後ろのドアが開いていた。
中の雰囲気が奇妙だった。不気味なほど静かだったのだ。
私は無意識に中を覗いた。
教室の隅で、数人の女子が一つの机を取り囲んでいた。
囲まれているのは、うつむいている一人の女子生徒。
人形のように整った黒髪のロングヘア、透けるように白い肌、目を逸らせなくなるほど綺麗な横顔を持っていた。
木島未央。
クラスは違うが名前は知っていた。
あまりに可愛いくせに性格が暗すぎるため、男子人気は高いが、女子からの評判は最悪だ。
今、彼女の教科書は床に投げ捨てられ、無数の靴跡がついていた。
机の上には牛乳がぶちまけられ、白い液体が机の縁から滴り落ち、彼女のスカートを濡らしている。
リーダー格の女子――確か山田とかいう名前だった――が、未央の髪を掴み、ニヤニヤしながら何か言っていた。
「あーあ、ごめんねぇ、手が滑っちゃった」
「でもあんた、いつも喋んないじゃん? 喉乾いてるんじゃないの? 牛乳飲んで潤しなよ」
周りの連中は見ているだけだ。
誰も声を上げないし、助けようともしない。
空気中には、反吐が出るような、「いじめ」という名の腐臭が漂っている。
ムカつく。
猛烈に、ムカつく。
私の身体は、脳より先に反応していた。
私はドアを押し開け、大股で中へ入っていった。
「喧嘩を売りに行く」というオーラがあまりに強かったのか、野次馬たちは慌てて道を開けた。
私は山田の背後に歩み寄り、その襟首を鷲掴みにした。
「おい」
「え?」山田が振り返った。間抜けな顔だ。
私だと分かると、彼女は手を振り払おうとし、苛立ちを露わにした。
「はあ? なによあんた。霜月凛? 何の用……ぎゃっ!」
《《ドォン!》》
私は彼女の顔のすぐ横の壁を蹴り飛ばした。
轟音が響き、チョークの粉がパラパラと落ちる。
教室が瞬時に静まり返った。山田は首をすくめ、言いかけた悪態を飲み込んだ。
「無駄話は嫌いだ」
私は彼女を見下ろした。燃えないゴミを見るような目で。
「ここは人が多すぎて空気が悪い。場所を変えるぞ」
「はあ? なんで私がアンタなんかに……」
拒否権など与えない。
私は手に力を込め、死んだ犬でも引きずるように、彼女の襟首を掴んだまま強引に歩き出した。
山田は暴れたが、長年鍛えている私の腕力は、弱い者いじめしか能のない女に負けるほどヤワじゃない。
クラス中の驚愕の視線を浴びながら、私は彼女を教室の外へ引きずり出した。
「死にたいなら、来い」
加勢しようとした取り巻きを睨みつけると、彼女たちは石になったように固まり、動こうともしなかった。
【あとがき:エラーの起源】
作者「凛ちゃん、カッコいい! まるで少年漫画のヒーローですね。これは惚れても仕方ない」
霜月「……確かに、その時点での彼女の行動は『短期的なトラブルシューティング』としては正解だったかもしれない。だが、長期的なリスク管理が欠如している」
作者「リスク?」
霜月「『依存体質の人間を、劇的な状況で救助する』という行為が何を引き起こすか。……これは人助けではない。時限爆弾のスイッチを入れたに過ぎないんだ」
作者「(お兄ちゃん、言い方……!)
さて、明日は【2 話更新】を予定しています!
それでは、また明日(12:10)にお会いしましょう!」




