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【完結】読心術と物理法則で、青春の嘘を完全論破する ~空気を読まない怪物が、仮面の聖女を「論理的」に救うまで~  作者: こころよみ
愛は猛毒の泥沼、あるいは『優しさ』という名の絞首台

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解析不能の無限ループ ~なぜ俺は、この「非合理な献身」を無視できないのか~

 凛と未央は去った。


 僕は追わなかった。脳がデータ処理の真っ最中だったからだ。


 あの粘着質な空気に支配されていた席は空き、すぐに新しいカップルが座り、栄養価皆無の笑い声を上げ始めた。


 僕は依然として隅の影に座っている。

 目の前のアイスコーヒーの氷はとっくに溶けきり、グラスの縁に醜い水垢を残している。


 手元の気象学の参考書は12ページ目で開かれたままだ。

 この四時間、僕は一行たりとも読み進めていない。


 思考。計算。シミュレーション。


 僕の脳はかつてない高負荷運転を行い、先ほど観測した全データの解析と、合理的行動プランの導出を試みている。


 だが、何度配列を組み直しても、弾き出される結果は――【ERROR(エラー)】。


 まずは「未央」という個体の行動ロジックについて。


 一見すると、彼女は底なしの献身者(ギバー)だ。高価な贈り物をし、愛を語り、「友情」という名の善意を惜しみなく提示する。


 だが、経済学の第一法則は教えている。「タダより高いものはない(フリーランチは存在しない)」と。


 過剰な供給は、必然的に過剰な請求を伴う。


理人(裏):

『彼女は「高価な物質」と「重い感情」を提供した。』

『では、彼女が請求している対価は何か?』

『あの「泥棒猫」という言葉の裏にある排他性か? それとも最後の視線にあった「監禁欲」か?』

『彼女は「愛」という通貨を用いて、凛の「全人生」を買収しようとしている。』


 これは寄生ではない。強引な敵対的買収だ。


 次に、凛の行動ロジックについて。


 これが、僕にとって最も理解不能な領域だ。


 先ほどのシーンを回想する。

 凛はあの服を明らかに嫌がっていた。未央の粘着質に疲弊していた。値段を聞いた時には絶望さえしていた。


 だが、彼女は拒絶しなかった。


 拒絶しないどころか、自ら金を払うと固執し、借金を背負ってまで名目上の「対等な関係」を維持しようとした。


理人(裏):

『なぜだ?』

『面倒事を避けるためなら、プレゼントを受け取って適当に流す方が低コストではないか?』

『あるいは僕のように、「悪性関係」と判定して即座に切断すればいい。』

『なぜそこまでする? 彼女の価値体系において、「未央」という友人は、自己を犠牲にしてまで維持すべき重要事項なのか?』


 ここが無限ループ(死のループ)の核心だ。


 もし凛が脅されているなら、もし彼女が心の中で助けを求めているなら、僕は家族(および同居人)として介入する正当性を持つ。


 だが、彼女は助けを求めなかった。


 彼女はまるで、信仰を守るために自ら進んで祭壇に上がる信徒のようだった。

 苦しみ、震えてはいても、それは自発的な意思によるものだ。


 結論:【干渉の正当性不足。】


 彼女が主観的に「この関係は必要だ」と認定している以上、僕の介入は、彼女の意志を粗暴に踏みにじることに等しい。


 それは僕の独りよがりだ。


 論理は完璧だ。


 推論に隙はない。


 過去十六年間の僕の生存法則に従えば、今すぐ本を閉じ、席を立ち、帰宅し、今日見た全てを忘却して、あの高効率で静謐な生活に戻るべきだ。


 しかし。


 僕は視線を落とし、自分の胸元を見た。


 そこに、黒く、混沌とした、論理のかけらもない気団が居座り、心臓の鼓動に合わせて膨張している。


 吐き気がする。


 苛立つ。


 未央のあの死んだ水面のような目と、凛の強張った笑顔の横顔を思い出すたび、指先が制御不能な痙攣を起こす。


理人(裏):

『……なんなんだ、これは。』

『なぜ「無視」のコマンドが実行できない?』

『論理的には棄却すべきなのに、なぜ生理機能がこれほど強烈な拒絶反応(エラー)を返す?』


 僕は論理でこの感覚を分解しようと試みた。


 未央の「凛は私だけのもの」という視線が、僕の縄張り意識を刺激したのか?

 それとも、この「非合理的取引」に対して、美学的な不快感を覚えただけか?

 あるいは……データベースに未登録の変数が存在するのか?


 迷走。


 「理性の機械」である僕にとって、最も馴染みのない状態。


 僕はGPS信号を喪失したドローンのように、空中でホバリングしたまま、着陸すべきか帰還すべきか判断できずにいる。


「……あの、お客様?」


 躊躇いがちな声が、僕の思考ループを強制中断させた。


 顔を上げる。


 若い男性店員がテーブルの横に立っていた。手には布巾を持ち、顔には職業的な苦笑いを貼り付けている。


「申し訳ありません、当店も回転率の目標がありまして……」

 彼は僕の目の前にある、氷の残骸しか入っていないグラスを指差した。


店員(裏):

『なんなんだこの客……』

『一番安いアイスコーヒー一杯で、四時間も粘るとか正気かよ。』

『しかも虚空を睨んで固まってるし、顔色が大量殺人を計画してる犯人みたいで……怖すぎるんだよ。』

『早く帰ってくれ、店のイメージに関わる。』


 四時間。


 僕はスマホを見た。


 午後2時40分。


 僕はあの死角で、廃棄寸前の機械のように、それほどの長時間フリーズしていたのか。


「……すまない」


 僕は立ち上がり、機械的に本を片付けた。「すぐに出る」


 店を出ると、午後の日差しが網膜を刺した。


 通りは依然として人波で溢れ、誰もが明確な目的地を持ってせわしなく動いている。


 僕だけが。


 交差点に立ち尽くし、信号が赤と青に切り替わるのを眺めながら、どちらへ足を踏み出すべきか分からずにいる。


 胸の奥の混乱は消えていない。


 「どうすればいいか分からない」という無力感は、肉体的な疲労よりも耐え難い。


 どこへ行く?


 家か?

 駄目だ。そこには帰宅した凛がいる可能性がある。

 今の僕が、あの「自ら進んで苦しむ」彼女と対面すれば、予測不可能な事態を引き起こすリスクがある。


 書店か?

 無理だ。文字情報が脳に入ってこない。


 意識が決定を下すより先に、僕の両脚が勝手に動き出していた。


 方角は……学校。


【本日は2話更新です!(1/2)】


続きのは、今夜【19:10】に公開します!


──────────────────────


【あとがき:エラーコードの正体】


作者「理人くん、完全にバグってますね。妹が借金してまでメンヘラ女に尽くしてるのを見て、論理回路がショートしたようです」


霜月「訂正する。これはショートではない。未知の変数(家族愛? 倫理的義憤?)に対する処理遅延だ。再起動には外部からの冷却措置が必要だ」


作者「その冷却措置をしてくれるのが、次の回で待っているあの子ですね。


(理人が部室で出会うのは? )」

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