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【完結】読心術と物理法則で、青春の嘘を完全論破する ~空気を読まない怪物が、仮面の聖女を「論理的」に救うまで~  作者: こころよみ
愛は猛毒の泥沼、あるいは『優しさ』という名の絞首台

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29/102

眠れない夜、バグる思考 ~妹の「沈黙」が、俺の睡眠効率を阻害している~

 金曜日の深夜、23時45分。


 マンションの灯りはとっくに消え、カーテンは隙間なく閉められている。わずかな隙間から漏れる蒼白い月光が、床の上に一本の線を引いているだけだ。


 基本的に、凛は平日には母親の元へ帰る。だが、金曜日と土曜日の夜だけは、決まって僕のマンションに現れる。


 理由は単純。『あの家の週末の空気は重すぎて窒息するから』だそうだ。


 これに対し、僕は黙認の姿勢を取っている。

 このマンションの法的所有権は父にあり、凛も父の娘として使用権を有しているからだ。


 今この瞬間、狭い寝室には、平穏な寝息だけが響いている。


 僕はベッドの左側に身を寄せている。


 そして僕の右側、およそ二十センチの距離を隔てて、もう一つの温かい肉体が横たわっている――霜月凛だ。


 「どこで寝るか」という問題については、かつて僕らの間で、ゲーム理論に基づいた短い討論が行われたことがある。


 僕は居住者であり、ベッドの第一使用権を持つ。

 凛は客であり、道理からすればソファで寝るべきだ。


 だが凛は反論した。「ソファは柔らかすぎて、長期的な睡眠は脊椎側弯症を引き起こし、発育に悪影響を及ぼす」と。

 僕もまた、自分がソファで寝ることを拒否した。「睡眠の質が低下し、翌日の知的生産活動の効率が下がる」からだ。


 結果、双方の寝相が「静的安定型(蹴らない、布団を奪わない、騒音を出さない)」であることを確認した上で、最適解に到達した。


 このセミダブルベッドを共有シェアすることだ。


 これは生物学的に遺伝子を共有する二つの個体が空間をシェアしているに過ぎず、倫理的な気まずさは存在しない。リソース利用率の観点から最も合理的な選択だ。


 ……本来なら、そうであるはずだった。


 0時30分。


 目を閉じてから四十五分が経過した。


 適温の環境、かつ馴染みのある熱源がそばにある状況下なら、僕の大脳は過去の記録上、五分以内にディープスリープモードへ移行するはずだ。


 しかし、現在。


 僕は目を見開いたまま、天井の隅で明滅する火災報知器のランプを凝視し続けている。


 眠れない。


 異性が隣にいるなどという低レベルな理由ではない。カフェインの過剰摂取でもない。


 ある種の……粘性を持った、消去不可能な「バックグラウンドの冗長データ」のせいだ。


 僕は首を巡らせ、微かな光の中で、隣の凛を見た。


 彼女は深く眠っている。


 長い睫毛が目元に影を落とし、呼吸は穏やかで均一だ。


 心声は一切聞こえてこない。

 夢の中で、彼女は絶対的に静かだ。


 普段なら、この静寂は僕に安らぎを与えるはずだ。

 だが今夜に限っては、この「空白」が、底知れない巨大なブラックホールのように感じられ、得体の知れない居心地の悪さを生んでいる。


 脳内で、数時間前の光景が制御不能なまま再生リプレイされる。


 着信音が鳴った瞬間の、身体の震え。

 電話に出た時の、蒼白で、しかし無理やり笑顔を作った顔。

 そして、「未央」という名前。


**理人(裏):**

**『……明日観測に行くと決めた以上、今の思考は無駄だ。』**

**『彼女が何を隠していようと、明日現場に行けば判明する。』**

**『現在の最優先タスクは休息だ。キャッシュクリア。強制スリープ実行。』**


 自分自身にコマンドを入力する。


 目を閉じる。呼吸数を調整する。筋肉を弛緩させる。


 一秒。二秒。


 ……


 失敗フェイラー


 胸の奥にある「焦燥」という名の気団が、まるで生命を持ったかのように膨張している。


 鬼道が悪質な嫌がらせを受けた時の怒り。千夏が孤立した時の忍耐。

 そして今、僕の妹もまた、危険で底知れない泥沼の中にいるように思える。


 まだ何も起きていない。僕は何も知らない。

 だが、未知のリスクに対する予感が、僕の理性を完全に機能不全にしていた。


「……まったく、故障か」


 僕は低く独りごち、寝返りを打って凛に背を向けた。


 自分の脳を制御できないこの感覚は、極めて非効率で、かつ不快だ。


 寝息だけが響く部屋で、僕は久々に、不眠という名の味を噛み締めていた。

 それは生理的な覚醒ではなく、魂の深部が焦げつくような感覚だった。


 ……


 翌朝、土曜日。


 アラームが鳴った時、まぶたに鉛を詰め込まれたような重さを感じた。


 【自己診断】:

 睡眠時間4時間未満。

 浅いレム睡眠の割合が過多。

 精神状態:軽度の疲労、集中力15%低下。


 徹底的な睡眠の失敗だ。


 僕が寝室を出ると、凛はすでに起きていた。


 彼女は洗面所で髪を梳かしていた。鏡の中の彼女は血色が良く、メイクも完璧で、昨夜の崩壊寸前の疲労感など微塵も感じさせない。


 まるで昨夜の電話が、僕の幻覚だったかのように。


「おはよ、兄さん」


 彼女は鏡越しに僕を見て、一瞬驚いたように目を丸くした。


「……うわ、なにそのクマ。昨日の夜、泥棒でもしに行ったの?」


「夜間の思考モデル再構築実験を行い、スリープ処理が遅延しただけだ」


 僕は冷水で顔を洗い、脳を物理的に冷却しようと試みた。


「意味わかんない」


 凛は舌を出した。「朝ごはんは食べたよ、冷蔵庫のパン。私、もう行くから」


 彼女は玄関の鞄を手に取った。その動作は素早く、決定的で、一秒でも早くこの家から出たいようだった。


 あるいは、行かなければならない場所に急いでいるのか。


「……気をつけて行け」


 僕は靴を履く彼女の背中を見送った。


 カチャリ。


 ドアが閉まる。


 僕はその場に立ち尽くし、顔の水滴を拭った。


 疲労感はある。だが、あの焦げつくような「混乱の気団」は、この瞬間、冷徹な行動コマンドへと冷却・凝固していた。


 場所確認ロケーション:ソラリウム。

 時間確認:10時30分以降に到達。


 僕は踵を返し、部屋へ戻ってパジャマを脱いだ。


 睡眠不足は観測効率を低下させる。だが、ベッドの上で無意味な空転アイドリングを続けるよりは、現場でバグの発生源を直接確認する方が、不快感を取り除く唯一の解法だ。


 十五分後。


 僕は私服に着替え、財布と、カモフラージュ用の買い物リストを持って、家を出た。


**【あとがき:システム・エラーの正体】**


「リソース利用率の観点からベッドを共有する」……。

同じベッドで寝ておきながら、手も出さず、ただ妹を心配して眠れなくなる兄。

理人くん、君は本当に不器用なシスコンだね(笑)。


**さて、次回はいよいよ『未央みお』という少女の本性が明らかになります。**

千夏とはまた違う、背筋が凍るような「依存」の形。


**なろう版は【明日 19:10】に更新予定ですが……**


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**【待ちきれない方へ!】**


カクヨム版では、すでに**【未央の正体】**と**【4万2千円のドレス事件】**まで公開済みです!


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なろうで追ってくださる方も、ブックマークしてお待ちいただければ幸いです!

それでは、また明日!

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