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【完結】読心術と物理法則で、青春の嘘を完全論破する ~空気を読まない怪物が、仮面の聖女を「論理的」に救うまで~  作者: こころよみ
『嘘(くうき)』だらけの教室と、聖女の仮面の剥がし方

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25/102

猛獣と、聖女と、見えない「ネズミ」

「へえ、いい眺めじゃねえか。寝る場所として借りるぞ、霜月」


 鬼道蓮は我が物顔で侵入し、僕の許可など求める素振りも見せず、窓際へ直行した。


 そして、精密機器を置くための長机に、遠慮なくドカッと腰を下ろした――幸い、そこには空の記録ノートしか置かれていなかったが。


「大いに異議がある」


 僕は彼を見据え、率直な感想を述べた。


「そこは精密機器用のスペースだ、君の寝床ではない。それに君の体重は机の耐荷重を超過している恐れがある」


「うるせえよ。こんなボロ机、壊れたら買い換えりゃいいだろ」


 鬼道は鼻で笑い、視線を部屋の隅で縮こまっている星野千夏へと向けた。


 千夏はすでに、完全な「フリーズ状態(緊急停止モード)」にあった。


 全校生徒が恐れる「暴力の魔王」を前に、身体は本能的に硬直している。だが長年染み付いた処世術の慣性が働き、彼女は無意識に「愛想笑い」で空気を緩和しようと試みていた。


「あ、あの……鬼道先輩」


 千夏は引きつった筋肉を無理やり動かし、標準的な八本歯の笑顔を作った。声が震えている。


「コ、コーヒー……飲みますか? インスタントしかありませんけど……」


『なんで鬼道がここにいるの? 怖い……殺されるかも。』


『愛想よくしてれば……絡まれることはないはず……』


 しかし、鬼道は彼女を一瞥しただけだった。


 その目には、隠そうともしない嫌悪感が満ちていた。


「おい霜月」


 鬼道は千夏を無視し、僕の方を向いて親指で彼女を指した。「どこで拾ってきたんだ、こんなつまんねえ女」


「……え?」千夏の笑顔が凍りついた。


「見てるだけでイライラしてくる」


 鬼道は眉間に皺を寄せ、生理的な不快感を露わにした。


「ビビってションベンちびりそうな癖に、ヘラヘラ笑ってんじゃねえよ。おい女、テメェのツラはプラスチック製か? その偽善くさい匂いで吐き気がするんだよ」


『だから学校は嫌いなんだ。』


『どいつもこいつも仮面被りやがって。弱いくせに、嘘つきのくせに、それを「礼儀」だなんてほざきやがる。』


『目障りなんだよ。』


 千夏の顔色が瞬時に蒼白になった。


 女子にハブられることにも、教師に利用されることにも慣れていた彼女だが、これほど直球で、面と向かって「偽善」「気持ち悪い」と罵倒された経験はなかっただろう。


 彼女はスカートの裾を強く握りしめ、唇を震わせた。反論したいが、相手の圧倒的な威圧感オーラに気圧され、言葉が喉で詰まる。


「そこまでにしろ」


 僕は口を開き、鬼道の出力を遮断した。


「もし君が、個人的な美的嗜好に基づく攻撃的言論を発表しに来ただけなら、即刻退去を願う。ここでの精神的騒音メンタル・ノイズの製造は禁止されている」


「チッ、身内贔屓かよ」


 鬼道は肩をすくめたが、それ以上千夏を攻撃することはしなかった。


 彼は手の中のブラックコーヒーを開け、一口飲み、僕を見た。


「俺もこんなつまんねえ女と時間潰す気はねえよ。霜月、テメェの頭、ちょっと借りるぞ」


「断る」


 僕は即答した。「僕の脳内リソースは有限であり、かつ使用料は高額だ」


「つれないこと言うなよ」鬼道はニヤリと笑い、白い歯を見せた。「この件はテメェも興味あるはずだ。なんせ『論理的矛盾』の塊だからな」


 彼はポケットから何かを取り出し、僕に投げつけた。


 それは、くしゃくしゃになった紙切れだった。


 そこには新聞の切り抜きを貼り合わせた文字で(筆跡を隠すための常套手段だ)、こう書かれていた。


【死ね、暴力魔。】


「これはなんだ?」僕は尋ねた。


「ここ数日、俺をムカつかせてるゴミだ」


 鬼道の目から笑意が消え、代わりに苛立ちを含んだ殺気が満ちた。


「ここ一週間、俺の靴箱に毎日こういう手紙が入ってる。たまに虫の死骸とか、切り刻まれた体操服とかのオマケ付きでな」


『正面から喧嘩売ってくるなら、とっくに病院送りにしている。』


『だがコソコソしやがって……陰湿すぎる。』


『捕まらない。尻尾すら掴ませない。この力の持って行き場のない感覚、マジでムカつく。』


「防犯カメラも調べたが、ちょうど死角だった。何度か張り込みもしたが、まるで俺がどこにいるか知ってるみたいに、奴は絶対に現れねえ」


 鬼道は僕を睨んだ。


「テメェ、分析が得意なんだろ? 教えてくれ。このネズミは誰だ? どこのグループの奴だ?」


 僕はすぐには答えなかった。


 僕の原則において、他人の揉め事――特に不良間の抗争――への介入は、高リスクかつマイナス収支ネガティブ・リターンの愚行だ。


 拒否こそが正解だ。


 しかし。


 僕は机に座り続けている鬼道を横目で見た。


 この男は粗野に見えて、納得のいく回答を得るまでは絶対にここを動かないだろう。彼は巨大な岩石のように、この場の換気を阻害している。


 そして、僕は部屋の隅の千夏に視線を移した。


 彼女は椅子の上で小さくなり、マグカップを両手で強く握りしめている。指の関節が白い。うつむいて鬼道を見ようともせず、身体は小刻みに震えている。


 普段は完璧な笑顔を保っているその顔には、今、純粋な恐怖だけが張り付いていた。


理人(裏):『……目障りだ。』


 同情ではない。


 ただ、怯えた小動物のように震えている姿が、僕の気象観測部に存在していることに対し、得体の知れない苛立ちを覚えただけだ。


 ここは静かな避難所シェルターであるべきだ。彼女にこんな顔をさせる尋問室であってはならない。


 この「鬼道」という侵入者を早急に排除し、かつこの震えるサンプルを通常状態に戻すためには……。


 どうやら、通行料として多少の脳細胞を支払う必要がありそうだ。


「はぁ……」


 僕は短くため息をつき、その皺だらけの紙切れを手に取った。


 紙面を観察し、「虫の死骸」と「切り刻まれた服」という情報をリンクさせる。


 脳内で高速データ処理を開始する。


 【事案分析】


 手口:コラージュ文章、動物の死骸設置、私物の破壊。


 特徴:極めて陰湿、正面衝突の回避、強烈な生理的嫌悪感の表出。


 能力:鬼道の張り込みを回避している点から、標的の行動パターンを熟知していると推測される。


「名前を挙げることは不可能だ」


 僕は紙切れを彼に投げ返した。「僕は君の交友関係のデータを保持していない。だが、誤った選択肢を排除し、犯人のプロファイリングを提供することはできる」


「ほう? 言ってみろ」鬼道が身を乗り出した。


「まず、犯人は君が想定しているような『敵対する不良グループ』や『君に挑もうとする喧嘩自慢』ではない」


 僕は人差し指を立てた。


「不良少年の行動ロジックは通常『名声のための闘争』だ。彼らは目立つ場所にスプレーで落書きをするか、果たし状を叩きつける傾向がある。このような隠微な手口は、彼らの集団美学に反する」


「次に、犯人が男性である確率は85%以上だ」


 僕は二本目の指を立てた。


「女性の報復手段は、通常『精神的孤立』や『噂の流布』、あるいはカミソリや画鋲といった鋭利で無機質な異物の混入を好む傾向がある。虫の死骸という有機的な物体を用い、かつ男子更衣室に侵入して体操服を切り裂くという物理的破壊行動を行える点から、男性の可能性が高い」


「最後に、これが最も重要な点だ」


 僕は鬼道の目を見た。


「犯人は君のスケジュールを熟知している。もしかしたら、常に君の視界の範囲内にいるかもしれない。だが彼は擬態カモフラージュに極めて長けている、あるいは……」


「彼があまりに地味で取るに足らない存在であるため、君が一度も彼を直視したことがなく、結果として君の視野の盲点ブラインドスポットになっている」


「あ?」鬼道は眉をひそめた。その結論が不服なようだ。「テメェ、誰かがずっと俺を見てるって言うのか?」


「見ているのではない、覗き見ているんだ」僕は訂正した。


「この行動パターンは、犯人が君に対し極めて歪んだ感情――君の力への恐怖と、君の地位への嫉妬――を抱いていることを示している。彼は君の前に立つ勇気がない。だからドブの中に隠れ、こうした手段で『俺は鬼道を傷つけた』という虚構の優越感に浸るしかないんだ」


「地味、近くにいる、男……」


 鬼道はそのキーワードを反芻し、眉間の皺を深くした。


『……誰だ?』


『俺の周りにいるのは、喧嘩のことしか考えてねえ馬鹿どもばっかだぞ……あんなネズミみたいな奴が?』


『地味な奴……俺は弱者の顔なんていちいち覚えてねえ。』


 それが彼の盲点だ。


 傲慢であるが故に、足元の影が見えていない。


 彼は強者を注視することに慣れすぎて、この学校においては、彼に踏みつけられる側の人間こそが圧倒的多数であることを忘れている。


「思い当たらないか?」


 彼が困惑するのも無理はない。


 実のところ、単に犯人を捕まえるだけなら、もっと単純で実効性の高いプランがある。


 誰かに頼んで、靴箱や更衣室の近くで24時間隠れて張り込みをさせればいい。


 人的リソースさえ投入すれば、現行犯逮捕の確率は100%に近い。


 だが、僕はその案を提示しなかった。


 理由は単純だ。


 鬼道のような独断専行型で、かつ手下の能力を信用していない性格の場合、僕が「張り込み」を提案すれば、高確率で「あの役立たずどもじゃ無理だ、テメェがやれ」と言い出すだろう。


 あるいは、「言い出しっぺのテメェが監督しろ」と。


 それは更なる労働力の徴用を意味する。


 彼のネズミ捕りのために、僕の貴重な放課後を費やして靴箱の横で立ちんぼうをするなど御免だ。


 そのリスクを回避し、かつ僕が最も速やかにこの件から離脱ログアウトするためには、「思考」というボールを彼に投げ返し、プロファイリングという謎解きをさせて自発的に動かすのが「最適解」だ。


「ならば、それは僕の問題ではない」


 僕は出口を指差し、彼が助けを求めるルートを完全に封鎖した。


「君が普段無視している人間たちを、もう一度見回してみることを推奨する」


「以上だ。コンサルティングは終了。お引き取りを」


 鬼道は何かを考えるように、しばらく沈黙していた。


 やがて、彼は机から飛び降り、再びあの不遜な態度に戻った。


「まあいい。名前が分からなかったのは気に食わねえが、ヒントにはなった」


 彼はドアへ向かい、不意に足を止めると、依然として椅子の上で縮こまっている千夏を振り返った。


「おい、そこの女」


 千夏はビクリと肩を跳ねさせた。「は、はい!」


「レイプされたみてえな顔してんじゃねえよ」


 鬼道は冷たく言い放った。


「俺がムカつくなら、霜月みたいにはっきり言え。たとえ『死ね』の一言でも、今のテメェのその嘘くさいツラよりは、よっぽど人間らしく見えるぜ」


 言い捨てると、彼はドアを押し開け、大股で出て行った。


 鉄扉が再び閉まる。


 部屋に充満していた窒息しそうな圧迫感が、ようやく霧散した。


 千夏は虚脱したように机に突っ伏し、荒い息を吐いた。


「……こ、怖かった……」


「あれが鬼道先輩……一言間違えたら殺されるかと思った……」


 僕は彼女を見た。


 彼女は恐怖に震えていたが、鬼道の最後の言葉は、鋭利な棘となって彼女の胸に突き刺さったようだった。


 千夏は閉ざされた鉄の扉を見つめていた。手の中のコーヒーは、すでに完全に冷え切っていた。


「死ねの一言でも人間らしい」


鬼道の言葉は乱暴ですが、ある意味で真理かもしれません。

千夏の仮面が、音を立ててひび割れ始めました。


理人は彼なりのやり方で、部室シェルターを守りましたが……千夏の心は限界です。


**次がいよいよ、第1部最終話です!**


次は**【本日 22:10】**に更新します。

(千夏への最後の問いかけ。そして、第1部完結です!)

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