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【完結】読心術と物理法則で、青春の嘘を完全論破する ~空気を読まない怪物が、仮面の聖女を「論理的」に救うまで~  作者: こころよみ
『嘘(くうき)』だらけの教室と、聖女の仮面の剥がし方

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高級コーヒーの酸味と、招かれざる「猛獣」の襲来

 放課後のチャイムが鳴る。


 「不必要な噂の拡散を防ぐ」という論理に従い、僕と星野千夏は昨日のように一緒に行動することはしなかった。


 僕は先に荷物をまとめ、特別教室棟へと直行した。


 教室を出た瞬間、背後のレーダーが予想通りの波動を捉えた。


「ねえ千夏、今日こそ空いてるでしょ? 行こうよ……」


「ごめん! 今日、歯医者の予約入れちゃってて。時間ギリギリなの」


 千夏の声は申し訳なさそうで、理由も完璧だった。


女子A(表):「えー……歯医者かぁ、じゃあ仕方ないね。大変だね、千夏ちゃん」


女子A(裏):『歯医者? 一昨日は委員会って言ってなかった?』


『タイミング良すぎでしょ。私が誘う時だけ用事あるわけ?』


『この女、自分が特別だと思ってんの? 私たちを見下してんじゃないわよ。』


 悪意の濃度が指数関数的に上昇している。


 表面上は平和を維持しているが、「友情」という名の薄氷にはすでに無数の亀裂が入り、一歩踏み出せば粉々に砕ける状態だ。


 ……


 二十分後、気象観測部。


 千夏がドアを開けて入ってきた時、僕は今日 気圧データを整理していた。


 彼女は安堵した様子で、慣れた手つきでドアを閉め、鞄を古い椅子に放り投げると、全身の力を抜いて座り込んだ。


「……死ぬほど疲れた」


 彼女は机に突っ伏し、くぐもった声を出した。「今日の空気、いつもの数倍重かった気がする」


「先ほどの件についてだが」


 僕はペンを止め、彼女の後頭部を見た。


「僕の観測によれば、『女子A』と呼称される個体は、君の三日連続の回避行動により、内心の敵意値が警戒ラインを突破している」


 千夏は机に突っ伏したまま固まった。そして顔を上げ、困惑の表情を浮かべた。


「……え? 『女子A』?」彼女は瞬きをした。「それ誰?」


「君の横に常に帯同し、髪型はボブカット、声の周波数が高く、今日君を勧誘しようとした女子のことだ」


 僕は淡々と説明した。


「当該個体の行動パターンは単調であり、観測価値に乏しいため、僕の脳はその名称記憶にメモリを割いていない。暫定的にコードネーム『女子A』としている」


「……」


 千夏は二秒ほど呆気にとられ、すぐに「ぷっ」と吹き出した。


「あは……あはは! なにそれ!」


 彼女は口元を押さえ、深刻だった表情が一気に霧散した。


「玲奈が自分が『女子A』扱いされてるって知ったら、憤死するかもね……霜月くんって、ほんと色んな意味で失礼だわ」


「僕は効率的なデータ管理を行っているだけだ」


 僕は彼女の軽口に取り合わず、話題を軌道修正しようとした。


「コードネームより重要なのは、彼女の行動ロジックだ。対策を講じなければ……」


「あー、そうだ!」


 千夏が突然、大声で僕を遮った。


 彼女は勢いよく上体を起こし、何かを誤魔化すように、慌てて鞄から密封された缶を取り出した。


「忘れるとこだった! 私の淹れるコーヒーの実力を分からせるために、あと気分転換も兼ねて……じゃーん!」


 彼女はその缶を掲げ、少し作り物めいた笑顔を見せた。


「見て! 家からこっそり持ってきたの! ゲイシャ種のコーヒー豆! パパの秘蔵っ子だよ!」


『言わないで……』


『玲奈たちが怒ってるのは分かってる。でも今は考えたくない。』


『この部屋では……楽しいことだけ話したいの。』


 彼女は逃げている。


 話題を利用して、強制的にチャンネルを切り替えようとしている。


 観測者としての理性的判断に基づけば、ここは彼女の干渉ジャミングを無視し、警報を発し続けるべきだ。


 逃避は、90%の確率で到来する衝突を回避する手段にはなり得ないからだ。


 僕は口を開いた。


 彼女のその「ダチョウの平和(現実逃避)」の非合理性を指摘しようとして――。


 ギィィ――。


 鉄扉が再び開かれた。


「……いい匂いするじゃん」


 気だるげな声と共に、佐伯涼子が入ってきた。


 今日は飴を咥えていない。顔には「カフェインを補給しなければ死ぬ」と書いてある。


「階段のとこまで匂ってたぞ。どうした、あのドケチな霜月がついにまともな豆を買ったか?」


「先生!」


 千夏は救世主を見たかのように目を輝かせた。


「霜月くんじゃありません、私が持ってきたんです! 先生ちょうど良かったです、今から淹れるとこでした!」


 会話は中断された。


 手際よくドリップポットの準備を始める千夏の後ろ姿と、期待に満ちた顔の佐伯先生を見て、僕は出かかった警告を飲み込んだ。


 いいだろう。


 この状況で話題を蒸し返し、さらに教師への説明コストまで支払うのは、時間と労力の浪費だ。


 十分後。


 花と果実を思わせる複雑で濃厚な香りが、部室に充満した。


 千夏は採点を待つ受験生のように、僕と佐伯先生に一杯ずつ注いだ。


「どうぞ! 星野特製・超豪華ハンドドリップ・ゲイシャです!」


 佐伯先生はカップを持ち上げ、優雅に揺らした。


「ほほう、これが噂のゲイシャか。香りだけで別物だな、植物園に迷い込んだみたいだ」


 彼女は一口啜った。


 僕もカップを持ち、一口飲んだ。


 口に含んだ瞬間、レモンの皮のような強烈な酸味が脳天を直撃した。


 僕と佐伯先生の動きが、同時に停止した。


 0.5秒の沈黙。


「……酸っぱいな」僕はカップを置き、事実を述べた。


「……腐ってる?」佐伯先生は眉をひそめ、賞味期限を確認しようとした。「これ、豆が湿気てないか?」


「はあぁ!?」


 千夏の顔から期待の色が消え失せた。


「そんなわけないでしょ! これは浅煎り特有のフルーティーな酸味なの! 酸味! 高級な味なんですけど!」


「いや」佐伯先生は容赦なく引き出しから角砂糖の瓶を取り出し、その数千円するであろう高級コーヒーに三つも放り込んだ。


「理科教師としての見解だが、pH値が低すぎる液体は疲労時の飲用には適さない。私の胃酸過多を加速させるだけだ」


「同意する」僕もカップを置いた。「この口当たりではドーパミンの分泌は期待できない。対して、工業生産されたインスタント粉末は、味の安定性において遥かに勝っている」


「あ、あんたたちってホント風情がないっていうか……」


 千夏は顔を真っ赤にした。


「もういい! 二人が飲まないなら私が飲む! こういう高いのは、分かる人にしか分からないんだから!」


 彼女は意地になり、僕が置いたカップを掴むと、勢いよく中身を煽った。


「……っ」


 彼女の目鼻が中心に集まり、レモンをかじった小籠包のようになった。


「……すっぱ」


 彼女は小さく呟いた。声には委縮が滲んでいた。


『ほんとに酸っぱい! これが大人の味なの?』


『全然飲めない……私も砂糖入れたい……』


『でも、さっき大口叩いちゃったし……』


「ぷっ」


 佐伯先生は彼女の葛藤を見て、ついに吹き出した。


「いいって、無理すんなよ。入れたきゃミルクも砂糖も入れろ。ここでコーヒー飲むのに誰の顔色窺う必要があるんだ」


 彼女は自分の使いかけの角砂糖の瓶を、千夏の前に押しやった。


「ほら。風味は死ぬが、自分が美味いと思えればそれが正義だ」


 千夏は呆然とした。


 そして、何か重荷を下ろしたように、角砂糖を二つ掴んでカップに放り込み、さらに牛乳を半分ほど注いだ。


 改造された「カフェオレ」を一口飲むと、彼女はようやく大きく息を吐き、生き返ったような表情を見せた。


「……やっぱり、甘い方が美味しいです」


 彼女は机に突っ伏し、照れくさそうに笑った。


 佐伯先生は砂糖入りの高級コーヒーを飲み干すと、立ち上がって伸びをした。


「よし、カフェイン補給完了。テストの採点に戻るわ。あとは若いもんでごゆっくり」


 彼女はドアまで行き、振り返って千夏を見た。


「星野」


「え? はい!」


「世の中には高くて評価が良いものはいっぱいあるけどな、口に合わないなら無理して飲み込む必要はねえんだよ」


 佐伯先生は意味深に言った。


「コーヒーも、それ以外もな」


 言い残し、彼女は手を振って部室を出て行った。


 部屋には再び、僕と千夏だけが残された。


 佐伯先生の言葉が何かに触れたのか、千夏はカップの中の濁った液体を見つめ、短い思索に沈んだ。


「……口に合わない、か」


 彼女は低く呟いた。


 僕は彼女を見た。


 先ほどの話題は中断されたままだが、蒸し返すつもりはなかった。


 佐伯先生が別の形で、すでに助言を与えてくれたからだ。


 その時だった。


 ドアの外から、重く、隠そうともしない足音が近づいてきた。


 佐伯先生のような気だるげなリズムでも、千夏のような慎重な歩調でもない。


 極めて侵略的な、縄張りを巡回する猛獣の足音。


 僕は眉をひそめた。千夏も異変を察知し、怯えたウサギのように背筋を伸ばした。「……まだ誰か来るの?」


 次の瞬間。


 鍵のかかっていない鉄の扉が、乱暴に押し開けられた。


「よう。ここがテメェの『秘密基地』か?」


 入り口に立っていたのは、長身で、鋭い眼光を持つ、黒いTシャツの男だった。


 鬼道蓮きどう れん


 彼はブラックコーヒーの缶を片手にぶら下げ、怯える千夏を一瞥し、最後に僕を見て、狂暴な笑みを浮かべた。


せっかくの高級豆『ゲイシャ』も、理人と佐伯先生にかかれば「酸っぱい泥水」扱いです(笑)。

でも、「口に合わないなら無理して飲むな」という言葉は、今の千夏ちゃんに一番必要なアドバイスでした。


そして、ついに鬼道蓮が乱入。

千夏の日常が、音を立てて崩れ始めます。


**本日まだまだ更新します!**


次は**【本日 20:10】**に更新します。

(鬼道蓮の暴言、そして理人による「追い出し」とプロファイリングです)

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