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【完結】読心術と物理法則で、青春の嘘を完全論破する ~空気を読まない怪物が、仮面の聖女を「論理的」に救うまで~  作者: こころよみ
『嘘(くうき)』だらけの教室と、聖女の仮面の剥がし方

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23/102

聖女の充電方法 ~彼女にとっての、俺という「避難所」~

 帰宅した時、マンションは漆黒の闇に包まれていた。


 今日は凛が来ていない。


 玄関に脱ぎ散らかされたローファーもなく、リビングからバラエティ番組の騒音も聞こえない。


 これが過去十六年間、僕が最も慣れ親しんできた、「孤独」という名の常態ノーマルだ。


 だが、いつものような気楽さは感じなかった。


 むしろ……室内の空気が、わずかに希薄になったような錯覚さえ覚える。


 僕はキッチンへ行き、水を一杯注いだ。


 舌先にはまだ、安っぽいあんこの甘ったるい味が残っている気がした。


「……論理性を欠いた食習慣だ」


 僕は低く評価を下したが、口をゆすぐことはしなかった。


 ソファに座り、日課である自己システムの定期点検チェックを行う。


 ここ数日、僕の行動パターンには著しい偏差デビエーションが生じている。


 他人のトラブルへの能動的介入。騒音源の接近許容。あまつさえ、栄養価の低い炭水化物の摂取。


 従来のアルゴリズムに照らせば、これらは全て「非効率」かつ「高リスク」な行動だ。


 しかし。


 【自己診断結果:ストレス値の上昇なし。】


 それどころか、長年胸を圧迫していた、虚構の世界を泳ぐことによる窒息感が、わずかに軽減している。


「嫌いではない、か……」


 僕は窓外の夜景を見つめた。


 不快でないのなら、この変化をひとまず「良性なシステム更新アップデート」として分類し、観測を続行しよう。


 ……


 翌朝。


 二年B組の席に着くと同時に、前の席の「無害な騒音源」が定刻通りに振り返った。


「よう霜月! おっはー!」


 田中洋平は、永遠に曇ることのないような快晴の笑顔を浮かべている。


 昨日の宿題借用未遂、およびその後の補習を経て、彼は僕を一方的に「身内判定」したらしく、周囲からの「なんであの変人と話してんの?」という視線を完全に無視している。


「おはよう」


 僕は本を取り出し、対話を拒絶する姿勢で会話を終了させようとした。


 だが、鈍感力レベルMAXの田中には効果がない。


「なあなあ霜月」彼は椅子にまたがり、背もたれに顎を乗せて、興味津々といった顔で僕を見た。


「俺ずっと気になってたんだけどさ、お前放課後いつも何してんの? 授業終わった瞬間消えるし、部活やってるわけでもなさそうだし、まさか『帰宅部のエリート』ってやつ?」


「部活には入っている」僕はページをめくった。


「え? マジで?」


 田中は信じられないニュースでも聞いたかのように目を見開いた。


「ウチの学校に、お前を受け入れられる部活なんてあんの? ……あ、悪ぃ、そういう意味じゃなくて。何部? 格闘技系? それとも文芸部とか?」


「気象観測部だ」


「……は?」田中が固まった。


 彼の大脳が必死にその単語を検索し、検索結果ゼロでエラーを返したようだ。


「き、気象? 天気予報見るやつ? そんな部活あったっけ?」


『聞いたことねえ……なんか地味で退屈そう。』


『でも……お前の冷めた雰囲気と妙に合ってる気もするな。』


「特別教室棟の最上階にある。大気圧と流体力学に興味があるなら、見学を歓迎するぞ」


 僕は誠意のかけらもない招待状を出した。


「ハハッ、勘弁してくれよ。俺、物理アレルギーなんだわ」


 田中は笑って手を振ったが、その目に嘲笑の色はなく、純粋な感心だけがあった。


「でもすげーな、打ち込めるもんがあって。俺なんてサッカーも中途半端だし、将来何したいかも全然わかんねーし」


 僕らが(主に彼が一方的に)雑談をしていると、教室の前方のドアが開いた。


 星野千夏が入ってきた。


 彼女は相変わらず女子グループに囲まれているが、今日の彼女は、いつもと何かが違っていた。


 外見の変化ではない。纏う空気オーラだ。


 常に張り詰めていた、いつ切れてもおかしくない焦燥感が消え、疲労感はあるものの、どこか安定した余裕が漂っている。


 彼女は教室に入り、こちらへ視線を走らせた。


 そして、クラス中の驚きの視線を浴びながら、彼女は足を止め、僕――あるいは僕と田中のいる方向に向かって、微笑んで会釈した。


「おはよう、霜月くん。おはよう、田中くん」


 声は大きくないが、明瞭だった。


 班長のイメージ維持のための作り笑いではなく、ごく自然な、友人に接するような挨拶。


路人(裏):


『……え?』


『自分から挨拶した? あの星野さんが、あの霜月に?』


『昨日一緒に帰ってたってマジ? まさか付き合ってんの?』


 空気が一秒間凝固した。


 田中は恐縮して手を振り返した。「お、おう! おはよ委員長!」


 僕はただ頷き、応答とした。


 千夏は周囲の視線を気にすることなく、挨拶を済ませると自然に自分の席へ戻っていった。


「千夏! ちょっとこれ見てよ!」


 女子Aがいつものように、雑用の山を彼女の前に押しやった。


「この表埋めなきゃなんだけど、意味わかんなくてさー。やっといてくんない?」


 二日前なら、千夏の内面は『やりたくない』『めんどくさい』という悲鳴で満たされていただろう。


 だが、今日は違う。


『……表作成? 十五分くらいで終わるか。』


『まあいいや、今日は気分がいいし。』


『放課後になれば、あそこに行って、霜月くんと二人になれる。』


『……これくらいの雑用、我慢すればいい。』


 彼女は、気象観測部を自身の「充電スタンド」として再定義したようだ。


 電力が補充できると分かっているから、消費を恐れなくなったのだ。


「いいよ、貸して」


 千夏は書類を受け取った。相変わらず「都合のいい人」を演じてはいるが、その笑顔からは悲壮感が消え、「どうでもいい」という淡白さが混じっていた。


 僕は視線を戻した。


 これは微妙な均衡バランスだ。


 彼女はまだあの虚偽のサークルから完全に脱却できてはいないが、少なくとも、そこで崩壊せずに生存する方法を学習した。


 この日々が続くなら、それも悪くない。


 僕はそう思った。


 しかし。


 世界は常にエントロピー増大の法則に従う。


 安定ではなく、混沌こそが常態なのだ。



千夏ちゃん、吹っ切れましたね!

「部室に行けば充電できる」と分かったからこそ、教室という戦場でも笑顔を作れる。いい関係性です。


**面白かった!と思っていただけたら、ぜひ評価(☆☆☆☆☆)で応援をお願いします!**


次は**【本日 18:10】**に更新します。

(酸っぱい高級コーヒーと、部室の平和を壊す「あの男」の乱入)

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